離したくはない
こんなせつない思いをするくらいなら。

オーストラリアからのカウチサーファー、ティムは、今日は知り合いの結婚式に出かけます。
その知り合いというのは、なんと日本人のカップル。
私の家の近くの松尾大社で結婚式を挙げるのです。
ティムはオーストラリアでウーフィン(Woofing)のホストをしています。
そのカップルはウーファーとして数カ月間、ティムの家に滞在していたとか。
ティムからウーフィンの話を聞くにつれ、私もやってみたくなりました。
実は前から農業にも興味があったんですよ。

あわただしく準備をするティム。
「どうだ、この羽織。よく似合ってるだろう。
これで、どこから見ても俺は日本人だ。」
普通、日本人はそんな着物は着ないような・・・。

羽織を着終えたティムは、あわただしく出かけて行きました。
後には私と、リリィーの二人だけが残されました。
今日の午後には彼女も旅立っていきます。
外は大雨。
そのせいか、二人とも口数が少ないです。
ぎこちない沈黙が、断続的に訪れます。
こういう日に限って、リリィーは胸元の大きく開いた服を着ています。
最後の数時間だから、彼女の顔を見ていたいのに、
どうしても意識は胸にいってしまいそうになります。
なんて悲しい生き物なんでしょう、男って。
今日もリリィーは朝食を作ってくれました。
食パンとスクランブルエッグとお茶。
このメニューを毎朝食べることがすっかり習慣になってしまいましたが、
それももう今日で終わりです。
「リリィー、最後に一緒に写真を撮ろうよ。」
「いやよ」

最後の写真がこれか。
リリィー、お前って奴は・・・。
別れ際に、玄関でハグをしました。
見た目よりもずいぶんと華奢なリリィー。
ずっとこうしていたかったけど、そういうわけにもいきません。
なんの未練も残さずに、彼女はあっさりと去っていきました。
そりゃそうでしょう。
彼女にとって私は、星の数ほどもいる知り合いの一人にすぎないのですから。
明日にはもう、私のことなんて忘れてしまうことでしょう。
いや、今日の夜おいしいディナーを食べる前に、
私の存在など彼女の記憶から抹消されてしまっている可能性もあります。
リリィーは旅行を終えたら、カウチサーフィンのホストをすると言っています。
ニュージーランドかイギリスを訪ねれば彼女に再会することは可能です。
物理的には。
それでも、彼女と再び会うことはないんだろうな。
9日間か。
これからは、一人旅の女性を長期間ホストすることはやめよう。
どうも俺は情が移りやすいタイプらしい。
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