クラリェヴォ(セルビア)からスコピエ(マケドニア)へ
そして、クラリェヴォでの宿、ドラガチェヴォともお別れだ。
最後の最後に、大雨となった。
今回の旅行では、訪れるすべての国で雨に祟られている。
これも日ごろの行いの報いか。
セルビアを旅行する外国人は、出国時に宿泊証明書を提示しなければならないそうだ。
それがないと、思わぬトラブルに巻き込まれるのだとか。
ホテルに泊まる場合は宿主が宿泊証明書を作ってくれるからなんの問題もないのだが、
問題はカウチサーフィンを利用した場合。
その場合、家主とともに警察署に出頭し、宿泊証明書の手続きをしなければならないらしい。
ややこしい。
もちろん、そんなめんどくさいことをホストに頼むわけにはいかないから、ベオグラードでカウチサーフィンを利用したときは、
宿泊証明書をもらっていない。
だが、このホテル「ドラガチェヴォ」は安ホテルのくせに、きちんと宿泊証明書を用意してくれていた。


クラリェヴォのバスターミナルには、例のおっさんがいて、ゲートを守っている。
私の顔を見て、
「チャイナ! お前のバスは6番ホームだ!」 と叫んだ。
昨日までは私のことを 「ブルース・リー」と呼んでいたのに、今日は格下げかよ。
スコピエ行きのバスはほぼ満席で、あいにく窓際の席は取れなかった。
約7時間の道中、外の景色を眺めることができず、退屈で死にそうだ。
夕方5時ごろ、国境を越えたが、宿泊証明書の提示は求められなかった。
どうやらこの規則は有名無実化しているようだ。

スコピエのバスターミナル。
一国の首都だというのに、なんだかさびしい。

スコピエのバスターミナル
今夜はカウチサーフィンではなく、予約しておいたホテルに泊まる。
インターネットの予約サイトで確認した地図によると、バスターミナルからホテルまでは歩いてすぐだった。
だが問題は、最初の一歩だ。
新しい街に到着してバスから降りたあと、私はいつも一時的に方向感覚を失う。
自分が今、どちらの方角を向いているのかわからなくなるのだ。
なのでいつも最初の一歩を踏み出すまでに時間がかかる。
なにかわかりやすい目印があれば、地図と照らし合わせて確認することができるのだが、このバスターミナル周辺にはそれといった特徴のあるものは見当たらない。
近くを歩いている人に確認しようとしたのだが、
「俺はここの住人じゃない」などと言われて、なかなか的確な答えを得ることができない。
ウロウロしていると、タクシーの運転手が寄ってくるが、歩いて行ける距離にタクシーを使うほど私は裕福ではない。
というわけで、グーグルマップのお世話になることにしたのだが、どうも調子が悪い。
現在地とマップ上の自分の位置がずれている。
今現在はバスターミナルにいることには間違いないはずなのに、グーグルマップ上では私はバスターミナルから離れたところに立っていることになっていた。
いつまでもこんなところでぐずぐずしているわけにもいかない。
もうすぐ日が暮れる。
暗くなる前に宿にたどり着きたい。
60パーセントくらいの確率で「まあこちらの方角だろう」という見当をつけて歩き出した。
交差点に備え付けられている標識にはストリート名が書かれている。
グーグルマップと照らし合わせてみるのだが、どうもしっくりとこない。
本当にこの道であっているのだろうか。
重い荷物を抱えながら歩いていると、ほんの少しのミスがとてつもないロスへとつながる。
貴重な時間と体力を無駄遣いしたくない。
そこへ、前から女の子の集団が歩いてきた。
年のころは高校生くらいなのだが、おそろしく化粧が濃い。
まるで今から舞台に立つかのようだ。
これがマケドニア女子のスタンダードなのか。
マケドニアの女の子は、それでなくても彫りの深い顔立ちをしている。
それに加えてこのメイク。
日本人がやったら明らかに「ケバい」のだが、彼女たちはとても似合っていた。
スコピエのJKは性格もサバサバしている。
親切に私の質問に答えようとしてくれるのだが、どうも要領を得ない。
こちらは一刻も早くホテルに着いて重い荷物を降ろしたいのに、一言話すたびに「きゃははは」と笑っている。
つられて私も笑ってしまった。
結局彼女たちからはなんの情報も得られなかったのだが、元気だけはもらえた気がする。
心なしか肩に食い込むリュックも軽くなった気がした。
しまった、写真を撮るのを忘れた。
きっとスコピエの女子高生の魅力に舞い上がっていたのだろう。
ホテルの予約サイトによれば、ホテルはバスターミナルから歩いてすぐのはずなのに、なかなか目的地は見えてこない。
とっくに日が暮れて、あたりは暗くなってしまった。
ブッキング・ドットコムのばかやろう。
おまけに再び雨。
もうずいぶんとスコピエの街を歩いたが、なかなかつまらなそうな街だ。
「これは!」というものがなにもない。
ようやく目当ての通りに到着した。
番地を一つ一つ確認していく。
細い通りだから、ホテルを見落とすことはないだろう。
と思っていたのに、通りの最後まで歩いても、ホテルなんてなかった。
いや、それらしき建物は一軒あったのだが、廃屋だった。
まさか、私が今夜泊まるはずの宿は、つぶれてしまったのだろうか。
そんなはずはない。
数日前にブッキング・ドットコムで予約したばかりなのだ。
雨が降りしきる中、暗い夜道を重い荷物をしょって通りを何往復もした。
どれだけ確認しても、ブッキング・ドットコムに載っていた住所には、ホテルなんて存在しない。
そこにあるのは、普通の民家だけだ。
いや、待てよ。
その民家の軒下にはプレートが掲げられている。
辺りが暗いので、そこになんと書いてあるのかは読めない。
もっと近づいて確認したかったが、そのためには門を開けて家の敷地に入らなければならない。
仕方ない。
不法侵入だ。
幸い門に鍵はかかっていなかったので、勝手に開けて中に入っていった。
犬がギャンギャンわめいていたが、かまうもんか。
俺はもうへとへとなんだ。
その家に掲げてあるプレートには、「COMFY ROOMS TO RENT」と書いてあった。
なんてこった。
ここは「プライベートルーム」(日本でいう民宿)だったのか。
ブッキング・ドットコムで予約したから、てっきりホテルだとばかり思っていた。
バルカン諸国ではプライベートルームがポピュラーだという話は予備知識としては持っていたのに、まるっきり忘れていた。
家主は階上に住んでいて、生意気そうな男の子が私への対応にあたった。
きっとこの家の息子なのだろう。
ひととおり部屋の使い方を教えてくれた後、彼は「料金は前払いでお願いしたいんだけど」と言った。
そこで初めて私は、自分がまだこの国のお金を持っていないことに気づいた。
雨の降る中、重い足を引きずりながら、ATMを探しに外へ出ていくはめとなってしまった。
スコピエ。
なかなか手厚い歓迎をしてくれるじゃないか。

今夜の私の部屋。
プライベートルームだったとは。
どうりで安いわけだ。
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