カウチサーフィン(CouchSurfing)と愉快な仲間たち

ベオグラード観光(セルビア)

ベオグラード観光(セルビア)


翌日、アレクサンドラの家に荷物を置いて、ベオグラード市内を観光することにした。
どうやら今日も雨模様らしい。

「けっこう距離があるわよ。 バスで行ったら?」
とアレクサンドラは言ってくれるが、やはり歩いて行くことにした。

はっきり言って、ベオグラードにはあまり期待していない。
「これぞセルビア!」
という目玉がこの街にはない。

一応セルビアの首都だから、敬意を表して2泊することにしたのだが、特に見たいものがあるわけでもない。
しいていえば、街全体を見てみたい。
ベオグラードの街はそれほど大きくはない。
端から端まで歩いても、きっと時間を持て余すことになるだろう。
だから今日も一日、あてもなく傘をさして歩くことにした。



(聖サヴァ教会)

アレクサンドラの家は聖サヴァ教会の近くにある。
もしも道に迷ったら、これがいい目印になるだろう。

最初にこの様式の教会を見たのはブルガリアだっただろうか。
とても感動したような記憶がある。

だが、ヨーロッパの国をいくつかまわった後は、同じような教会を見ても、「またか」といった気持ちにしかなれない。
いや、これがブルガリアだったなら、きっと別の感慨がわいてきたことだろう。

だがここはベオグラード。
何を見ても憂鬱な気分にしかならない。
人と街との間には、相性というものがある。

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それでも、街を歩いているうちに、だんだんと気分が高揚してきた。
私は建築物には疎いのだが、それでも、それぞれの国ごとに微妙に建物の雰囲気が異なっていることには気づく。

旅を始める前は、「ヨーロッパなんてどこも同じだろ」と思っていたのに、今では新しい街を歩くたびにかすかな興奮を覚える。
これがセルビアか。
俺は今、確かにベオグラードにいる。

各都市の違いなんかわからないくせに、ひとり気分を高ぶらせていた。
憂鬱な雨だけど、見るべきものなんてなにもないつまらない街だけど、それでもやっぱり旅っていいな。


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そうしているうちに、それらしき建物が見えてきた。
今日のハイライトのひとつ、NAOT軍による空爆跡だ。

セルビアを紹介するガイドブックなどには必ず載っている、あの建物だ。

「おっ。 おおおおおっっっ!!!!!」


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写真で見ると小さな建物だが、やはり実物は迫力が違う。
ぽっかり空いた空洞に、目が吸い寄せられる。

これはぜひとも写真を撮らねば。
小雨がぱらついていたが、侍の衣装に着替えることにした。
雨を避けるために屋根のある場所に飛び込んだら、そこには迷彩服を着た兵士が2名いた。
なぜこんなところに軍人がいるんだ?
爆撃跡を警備でもしているのか?

彼らは私のことを見ているようだったが、目を合わさないようにした。
そそくさと袴のひもを締める。
日本刀のカモフラージュを取り外した時、その場の空気が一瞬凍ったような気がした。

兵士たちは腰の拳銃に手を伸ばしただろうか?
それとも、半笑いで侍姿の私のことを見ているのだろうか?

彼らの表情が気になってしかたなかったが、カメラを片手に屋根のある場所から飛び出した。
雨足が強まってきたから、急がねばならない。
三脚をセットして、自分と爆撃跡の写真を撮る。


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爆撃された廃墟をバックに写真を撮るも、なんだか落ち着かない。
兵士たちの視線が気になっていたせいもあるが、他にも理由はあった。

ここはベオグラード。セルビアの首都のど真ん中だ。
当然道行く人の姿も多く、私のそばを大勢の人が通り過ぎていく。
私にはまるっきり目もくれずに。

今まで侍の衣装を着て多くの国を旅してきたが、いずれの国でもそれなりの反応があった。
自分で言うのもなんだが、けっこう人目を引いていたと思う。

それなのに、なんだこの反応は。
まるっきりの無視。

人々は私の存在には気づいているようだ。
時々、ちらちらと私の方を盗み見しているのがわかる。

似たような反応は他の国でもあった。
それでも、今回はそれらとはまったく違う。
ベオグラードの人たちは、まったくの無表情なのだ。

日本で侍の衣装を着て歩いたら、きっとこんな反応が返ってくるのだろうな。
そう思わせるほど彼らの反応は冷たかった。

そんなわけだったから、ここでの写真撮影は早々に切り上げ、次の目的地に向かう。


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たぶん郵便局。 まあ立派だこと。


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(聖マルコ教会)

とても荘厳な教会で、ぜひとも写真に収めたかったのだが、建物が大きすぎて難しい。
いろいろと歩き回ってみたのだが、大きな木が邪魔して、なかなかいい写真が撮れない。
雨足は時おり強まるし、地面はぬかるんでる。

写真はもうあきらめよう。
アレクサンドラの旦那さんに教えてもらった、もうひとつの爆撃跡はこの近くにあるはずだ。


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ユーゴ紛争の時は、テレビ局も空爆の対象となったらしい。
攻撃能力を持たないテレビ局を一方的に攻撃するのはちょっと卑怯な気もするが、戦略上しかたなかったのだろうか。

現在のテレビ局は大きなアンテナが目立つ小奇麗な建物となっている。
なのに、その間にはさまれるようにして爆撃跡が残っていた。
あれからもう20年も経つというのに、なぜそのまま放置してあるのだろう。
他の建物はきれいに復興しているのだから、経済的な問題とは考えにくい。
もしかしたら、アメリカやNATOへの抗議の意思表示なのだろうか。
それとも、広島の原爆ドームのような世界遺産化を狙っているとか。


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(国会議事堂)

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今回の旅行中、セルビアの人と話をする機会が何度かあった。
話がアメリカのことになると、みな一様に憎悪をむき出しにする。
歯もむき出しにして、感情を隠そうともしなかった。
20年以上過ぎても、自分の国を攻撃された記憶というのは薄れないようだ。

それなのに、国会議事堂横の電光掲示板には、マクドナルドのコマーシャルが数分おきに流れている。
セルビア一の大通りに掲げられるコマーシャル。
にっくき敵国の象徴でもある巨大ハンバーガーチェーンのCMを、この国の人たちはどんな気持ちで見つめるのだろう。

ロシアなど東側の国でも、マクドナルドは若者に大人気だという。
きっとセルビアの若者だって、マクドナルドは大好きなんだろう。
空爆は彼らが生まれる前に行われた。

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(クネズ・ミハイロ通り)

爆撃跡を見終わった時点で、本日のミッションは終了。
ガイドブックをパラパラとめくってみたのだが、私の興味をひきそうな場所はベオグラードにはなさそうだ。
雨も降っていることだし、どうも気分が乗らない。

かといって、せっかくセルビアくんだりまでやってきたというのに、一日中部屋に閉じこもっているのももったいない。
仕方なく、ガイドブックの一番最初に載っているカレメグダン公園に行くことにした。
そこまで行けば、ベオグラードの中心部をはしからはしまで歩いたことになる。

ここクネズ・ミハイロ通りはベオグラードのメインストリート。
「通り沿いにはカフェやファストフードの店が並び、週末には人通りが絶えない」らしい。

しかし、さすがにこの雨の中ではj人影もまばら。
あーあ、今度は晴れた日に訪れたいな。

しかし、ベオグラードをまた来ることなんてあるのだろうか。
きっともう来ないだろうな。


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遊歩道が終わり、公園が見えてくる。
このカレメグダン公園にはあまり期待していないが、
「もしかしたら、意外とおもしろいかも」という淡い期待が頭をよぎる。


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公園の敷地内には、みやげ物を売る露店が並んでいる。
私はみやげ物は買わないことにしているのだが、行く先々から絵葉書は送るようにしている。
「なにかいい絵葉書は売ってないかな」と物色していると、母娘とおぼしき女性2人に声をかけられた。
ベオグラードの人はけっして外国人に対して友好的とは言えないが、みやげ物店の店員は例外だ。
金を落としていってくれそうなカモには、とびっきりの笑顔であいさつしてくれる。

彼女たちは流ちょうな英語で、言葉巧みに私を誘惑する。
聞けば、この紙幣はギネスブックにも載った特別なお札なのだそうだ。

「0(ゼロ)が11個も並んでいるお札なんて、世界中どこを探しても他にはないわよ」

正常な思考力を持っている状態なら、「それがどうした」と一蹴していたことだろう。
だが、旅に出ると正常な判断力を維持するのは難しい。
油断していると、くだらないガラクタになけなしの金を使ってしまったりする。

気づいた時には、ギネス認定の紙幣を買ってしまっていた。
私はコインのコレクターでもなんでもないのに。

そういえば、ミャンマーでも「アウンサンスーチーさんのお父さんの図柄のお札」を買ったっけ。
あれは今、どこにあるのだろう。

ああ、こうしてまた、部屋の肥やしを増やしてしまったのだな。


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特に見るべきものもないのに、公園内はやたらと広い。
あちこちに標識はあるのだが、そもそも私には行きたい場所なんてなかったものだから、無為に歩き回ってしまった。


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それでも奥へ奥へと歩いて行くと、本丸らしき場所に近づきつつあるのがわかる。


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なぜか恐竜の模型が展示されていた。
ガイドブックには載ってなかったから、きっと常設展ではないのだろう。
この公園と恐竜はなにか関係があるのだろうか。
いずれにせよ、入場料を払ってまで見る価値はないと判断してパスすることにする。


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スタンボル門と時計塔。
いちおうここのメインアトラクションらしいので、写真を撮る。
しかしなんなんだろう、この高揚感のなさは。


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丘のてっぺんに登って眼下に広がる景色を見渡すと、ちょっと気分がよくなった。
ここベオグラードはサヴァ川とドナウ川が交わる要衝に位置する。
ということは、向こうに見えているのはあのドナウ川なのか。

ドナウ川!
名前はよく聞いたことがあるが、いったいなんで有名なのか思い出せない。
高校では世界史を選択したのに、ドナウ川にまつわる史実なんて覚えていない。

中学の時、音楽の授業でドナウ川に関係のある曲を習ったような気もする。
せっかく本物のドナウ川を目の前にしているのだから、口笛でも吹いてみようと思ったのだが、どんな曲だったか思い出せない。

よく、「学校の勉強なんか実社会では役に立たない」と言われるが、そんなことはないと思う。
やはり最低限の教養は必要だ。
でないと、せっかく遠くまで旅行に来ても、目の前の景色を素通りしてしまうことになる。
同じ景色を見ても、それにまつわる知識があるのとないのとでは、見え方がまったく異なるものとなるだろう。

もったいないことをした。
今度ヨーロッパを訪れる時には、しっかり勉強してこよう。


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「このエリアの散策は自己責任で」
(命の保証はしませんよ)

たしかにこの付近には、うっかりすると足を踏み外して崖下に転落してしまいそうな場所が何か所もある。
昼ならまだしも、暗くなってからだとほんとに危なそうだ。

それでも、むやみやたらと柵を設けたりしないところに好感がもてる。
この看板だっていらないくらいだ。


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(レオポルド門(だと思う))

せっかくだからいろいろと写真を撮ったが、あまりおもしろくない。
相変わらず雨は降ってるし、ずっと歩きっぱなしだったからお腹もへった。

いつもなら安いパンでも買ってささっと済ませるのだが、今日は雨模様なので、できれば屋根のある場所で食べたい。
観光地の中にあるレストランなんて高いのはわかりきっていたのだが、体が冷えてきた。
しかたない。ここで食事をとることにしよう。


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レストランの受付には、ものすごい美人がいた。
東欧にはほんとに美女が多い。
その中でも今目の前にいる女性はトップクラスの美貌の持ち主だ。
思わずみとれてしまう。

そして彼女も私の顔をじっと見ている。
なんだ?
日本人がそんなに珍しいのか?
それともひょっとして、彼女の好みは東洋人なのか?
だとしたら、はるばるセルビアまでやってきたかいがあるってもんだ。

彼女は私の体のすみずみに視線をはわせる。
しかしそれは、異性のパートナーを求めるそれではなかった。

「この店はけっこう高いわよ。あなたに払えるかしら」
彼女の目がそう言っているように見えた。

たしかにここは高そうだ。
不安になった私は、メニューを見せてもらうことにした。

セルビアの物価はかなり安い。
料理の値段はけっして安くはなかったが、払えない額ではない。

「じゃあこれをもらおうかな」
メニューを指さしながら私がそう言うと、彼女はほっとしたような表情を見せた。

「よかった。じゃあこっちに入れるわよ」
そう言って席まで案内してくれた。

このレストランはふたつの部分に分かれていて、飲み物しか注文しない客は別の場所へ案内されるらしい。
もちろん私は料理を注文したので、豪華な方へ案内された。


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普段、高級レストランなどとは縁のない生活をしているので、こういう場所はなんだか落ち着かない。
店内には他には客はほとんどなく、その静けさが余計に私を緊張させる。
脇に置いた汚いリュックが、自分が今、場違いな場所にいることを実感させる。


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緊張のあまり、動作がぎこちない私。
無理に笑顔を作ろうとして失敗した。


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私が注文したのはセルビアの伝統料理、「ムツカリツァ」。
豚肉をトマトソースで煮込んだもののようだが、これがまたうまい!

私はグルメではなく、料理にはこだわらないたちだ。
だが、このムツカリツァだけは別格だ。
こんなにおいしい料理は食べたことがない。
今回の東ヨーロッパ旅行で食べた料理のうちで、間違いなく一番の味だ。
いや、私の人生の中でも、もっともおいしかった料理のひとつと言えるだろう。

あまりパッとしないベオグラードだったが、このムツカリツァを食べるためだけに訪れる価値はあると思う。

この料理をたいへん気に入った私はその後、レストランのメニューでムツカリツァを見つけるたびに注文することになる。
だが、カレメグダン公園内にあるこのレストランの味を超えるものにはまだ巡り会えていない。


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私は貧乏性なので、来たからには隅から隅まで見てまわらないと気が済まないたちだ。
雨の降る中、モチベーションもかなり低い状態で、公園内をくまなく歩く。
ひととおり見てまわったけど、やっぱりつまんないよ、ここ。


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カレメグダン公園内にはいくつか教会がある。
教会は世界中にあるけれど、国や宗派によって建物の形はかなり違う。
私は建築物には詳しくないけれども、それぞれ異なった様式だということくらいならわかる。
そしてここで見た教会は、間違いなく私の好みのタイプだ。
ガイドブックの写真でもこれと似たようなのを見かけたから、これから訪れるバルカン諸国にはこの様式の教会がたくさんあるのだろう。
そう考えただけでぞくぞくしてくる。
私の旅はまだまだ続くのだ。
こっとこの先も、素晴らしい景色が私を魅了し続けることだろう。

だがその前に、今日この一日をなんとか乗り切らなければならない。
雨がさらに強くなってきたので、この教会の中で雨宿りすることにした。

夕方にならないとアレクサンドラの家には入れてもらえないので、それまではなんとかして外で時間をつぶさなければならない。
きっと雨は一日中降り続けるのだろう。
なんという憂鬱な一日だ。

レストランでさっき食べたムツカリツァの余韻も冷めてきた。
どれほどおいしい料理を食べて身も心も温まろうと、物理的な体温低下にはかなわない。
降り続ける雨は、容赦なく私の体温を奪っていく。
寒い。
まだ9月初旬だというのに、寒い。

ガイドブックをめくっていると、思いがけないものを見つけた。
「トルコ風浴場施設」と書いてある。
この教会からは目と鼻の先だ。
冷え切った体を温めるには、これ以上のものはないだろう。
しかも名前がまたいい。
「トルコ風」
なんとエキゾチックな響きだろう。

雨が降る中、傘もささずに飛び出した。
少しくらい濡れたって、暑い湯船に浸かればなんということはない。
いつになく私の気分は高揚していた。
そりゃそうだろう。
雨に濡れて震えてる体を癒すことができる。
しかも「トルコ風浴場施設」で!
これぞ旅の醍醐味だ。

それらしい建物を見つけて飛び込んだ。
そしてすぐに希望が絶望に変わった。
なぜならそこは、トルコ風浴場施設「跡」だったから。
暑いお湯で満たされた湯船も、浴室に充満する湯気もなかった。
そこにあるのは、長い年月によってボロボロに風化した遺跡だった。

スーパー銭湯のようなものを期待していたわけではない。
おしゃれなスパなんてなくたっていい。
ただ、体を温める場所が欲しかっただけなのに。





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ガイドブックによると、このカレメグダン公園には軍事博物館があるようなので、行ってみようと思っていた。
雨をしのぐにはちょうどいいと思えたからだ。

だが、その必要はなかった。
城壁の周りには戦車や大砲がズラリと並んで展示されている。


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これが軍事博物館。
でももういいや。
戦車も大砲もいやというほど見たし。

ようやく雨もあがったことだし、本格的にベオグラード市内散策に繰り出すとするか。
あてもなくただブラブラと歩くのもいいが、やはり目的地があったほうが張り合いがある。
ということで、「リュビツァ妃の屋敷」というのを見に行くことにする。
理由は簡単。
ガイドブックでカレメグダン公園の次に載っていたからだ。


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これがそのリュビツァ妃の屋敷。
きっと歴史的には重要な場所なんだろうけど、私にはそのありがたみがわからない。


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次に訪れたのは「セルビア正教大聖堂」。
その仰々しい名前のわりには、それほどでもなかった。
もう教会はいいや。


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セルビア国立銀行。


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銀行の前にはこんなものが。
かつてはここに衛兵が立っていたのだろうか。


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なにやら怪しげな店。
その名も「Hyde」
「ジキル博士とハイド」のハイドだろうか。
堅苦しそうなセルビア国立銀行の前にあるのが印象的だった。


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ベオグラードの中心部、テラジエに戻ってきた。
雨がやんだせいか、人通りが多くなっている。


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「国立劇場」「国立博物館」「共和国広場」
このあたりにはものものしい名前の施設が多い。
さすがは首都の中心部。

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ガイドブックの地図をひろげて眺めていると、女の子に声をかけられた。
「なにを探しているの?」

私はスカダルリアを探していたのだが、迷っていたわけではない。
現在位置は把握していたし、目的地はもう目の前だった。
彼女の力を借りずとも、ほとんどスカダルリアにたどり着いたも同然だったのだ。

それでも彼女の親切はありがたかった。
異国に独りでいると、ちょっとした優しさが身にしみる。
こんなささいなことでも、この街の印象はガラリと変わってしまう。

ベオグラード、なかなかいい街じゃないか。


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スカダルリア。
ガイドブックによると、ここは「ベオグラードのモンパルナス」と呼ばれているらしい。
たしかにおしゃれな店がならんでいる。
せっかくベオグラードに来たからには、ここで食事をするべきなのだろう。
だが、私はついさっき昼食を食べたばかりだ。
ここからホストのアレクサンドラの家まではけっこうな距離があるから、夕食を食べにここまでわざわざ来るのもしんどい。

しかたがない。
スカダルリアは次回の宿題ということにしよう。
これでベオグラードを再び訪れる口実ができた。


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ヨーロッパ人の子どもがサッカーをすると、なんだか絵になるのはなぜだろう。


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スカダルリアの外れは、どうやらムスリム地区になっているようだ。
これはセビリ(水場)というそうだ。
初めて見た。
こういうのを目の当たりにすると、「ああ、遠くまで来たなあ」という気分になる。

私は知らなかったのだが、バルカンはイスラムとは関係が深い。
実際、この後私はさらにディープなイスラム世界を体験することになる。
こんなセビリはまだ序の口だったのだ。


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国立劇場


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最後にもう一度、テラジエを目に焼き付けておく。
あんなにつまらなく思えたベオグラードも、これでお別れかと思うと名残惜しくなる。

長生きしてりゃあ、もう一回くらい来る機会はあるさ。


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王宮


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最後にもう一度、クロズ・ミロシュ通りに戻ってきた。
雨もあがったことだし、じっくりと爆撃跡を見たかったからだ。


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空爆を受けてから20年間放置されてきた建物。
20年後、再び訪れた時、ここはいったいどんなふうに変わっているのだろう。


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廃墟と化したビルの写真を撮っていると、詰所から兵士が血相を変えて飛び出してきた。
なにかわめいているが、英語ではないのでなにを言っているのかわからない。
侍の衣装がまずかったのだろうか。
それとも日本刀?

拙い英語で兵士が説明するには、どうやら建物の前に置いたリュックが問題らしい。
きっと、爆弾テロを警戒しているのだろう。
この通り沿いには、政府関係の建物が多数存在するから、神経質になるのも当然か。

兵士は私の侍の衣装にはまったく興味を示さなかった。
ちょっとさびしいぞ。


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ベオグラード駅。
歩いていると、男たちにからかわれた。
「ヘイ! サムライ!」

ベオグラード市内を侍の衣装を着て歩いても、まったくのスルーだった。
唯一声をかけてきたのが、客待ちでヒマを持て余しているタクシーの運転手たち。

いつもなら、どんな相手に声をかけられても、それなりに相手をしていたのだが、今日は気分が乗らない。
無視して通り過ぎた。


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鉄道駅のとなりにあるバスターミナルで、明日のクラリェヴォ行きのチケットを買った。
クラリェヴォ。
どんな街だろう。
ベオグラードよりはおもしろいことを祈る。


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ホストのアレクサンドラの家へと向かう。
あたりが暗くなってきたが、不安はない。
今日は一日、ベオグラードの街を歩き回ったから、地理は頭に入っている。
もう地図を見なくても迷う心配はない。


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夜の聖サヴァ教会。
ここまで来れば、アレクサンドラの家はもうすぐだ。


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アレクサンドラの家に帰り着くと、彼女たちはすでに夕食を食べ終えたという。
一緒に食べようと思っていたのに残念だ。
しかたなく、独りで近所のレストランへと向かう。
ここは昨日の夜は閉まっていた。
アレクサンドラによると、なかなか評判のいい店らしい。
セルビアの伝統的な料理もあるという。
これは期待できそうだ。


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通りに面した屋外の席はあいにく満席。
仕方なく、店内へ入る。


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プリェスカヴィツァ。
セルビアの伝統的なハンバーグらしいが、はっきり言っておいしくない。
マクドナルドの方が数倍ましだ。

それなのに、私はこの後、行く先々でこの料理を食べるはめになる。
「旅をするからには、現地の料理を食べる」
というのは私のモットーだが、これには閉口した。
味気ないくせに、ボリュームだけはやたらとあるのだ。
私は残すのは嫌いだから、時間をかけて最後まで食べた。
まるで罰ゲームのようだ。


DSC06381.jpg

「訪れた土地では、必ずその土地の地ビールを飲む」
というルールに従って注文したのがこれ。

私は日本ではお酒をほとんど飲まないから、ビールの味の違いなんかわからない。

でもきっと、これがベオグラードのビールの味なのだろう。

ベオグラード、そんなに悪くはなかったな。
また来てやるか。

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テーマ : ヨーロッパ旅行記
ジャンル : 旅行

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非公開コメント

毎日更新されていないかチェックしてました。お忙しいでしょうから無理なさらずに…ですね。
東欧の印象は私にとって薄いのでとても面白いです。

私は来月ベトナムをカウチでまわります。

Re: タイトルなし

> 毎日更新されていないかチェックしてました。お忙しいでしょうから無理なさらずに…ですね。
> 東欧の印象は私にとって薄いのでとても面白いです。
>
> 私は来月ベトナムをカウチでまわります。


長い間お待たせしてすいませんでした。
私も東欧のことはほとんど知らずに行ったのですが、予想に反して、とても刺激的な国々でした。

これからは更新の間隔があまり開かないように、どんなに忙しい日でも最低でも1段落は記事を書こうと思います。

ベトナムいいですね。私もまた行きたいです。
楽しんできてください。

No title

ベオグラード、名前しか聞いたことがない街なので面白かったです。

Re: No title

> ベオグラード、名前しか聞いたことがない街なので面白かったです。

そう言ってもらえるとうれしいです。
ベオグラードではこれといったハプニングもなく、記事を書くのに苦労しました。

これからは東欧美女も登場する(予定)ですので、楽しみにしてください。

No title

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カウチサーフィン(CouchSurfing)とは?

CouchSurfingKyoto

Author:CouchSurfingKyoto
.カウチサーフィン(CouchSurfing)とは。

日本に観光に来た外国人の宿として無償で自宅を提供し、国際交流を深めるというカウチサーフィン。

また、自分が海外に旅行に行く時には、現地の一般家庭に泊めてもらい、その土地に住む人々の生の暮らしを体験することだってできてしまいます。

ここは、そんなカウチサーフィンの日常をありのままにつづったブログです。

「カウチサーフィンは危険じゃないの?」
そんな危惧も理解できます。
たしかに事件やトラブルも起こっています。

なにかと日本人にはなじみにくいカウチサーフィン。

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そんな人は、ぜひこのブログをチェックしてみてください。
きっと役に立つと思います。

最後に。

「カウチサーフィンを利用すれば、ホテル代が浮く」

私はこの考え方を否定しているわけではありません。
私もそのつもりでカウチサーフィンを始めましたから。

しかし、カウチサーフィンは単なる無料のホテルではありません。
現在、約8割のメンバーはカウチの提供をしていません。サーフのみです。

だって、泊める側にはメリットなんてなさそうですものね。

「自分の部屋で他人と一緒に寝るなんて考えられない」
「お世話したりするのってめんどくさそう」

時々私はこんな質問を受けることがあります。

「なぜホストは見知らぬ人を家に招き入れるのか?」

それはね、もちろん楽しいからですよ。

自己紹介
プロフィール


こんにちは。
京都でカウチサーフィン(CouchSurfing)のホストをしている、マサトという者です。
ときどきふらりと旅にも出ます。
もちろん、カウチサーフィンで!


(海外)
2011年、ユーレイル・グローバルパスが利用可能なヨーロッパ22カ国を全て旅しました。
それに加えて、イギリスと台湾も訪問。
もちろん、これら24カ国全ての国でカウチサーフィン(CouchSurfing)を利用。

2012年、東南アジア8カ国とオーストラリアを周遊。
ミャンマーを除く、8カ国でカウチサーフィンを利用しました。

2013年、香港、中国、マカオをカウチサーフィンを利用して旅行。 風水や太極拳、カンフーを堪能してきました。

2014年、侍の衣装を着て東ヨーロッパ20か国を旅行してきました。


(日本国内)
これまでに京都で329人(53カ国)のカウチサーファーをホストしてきました(2013年6月25日現在)。

もちろん、これからもどんどんカウチサーフィンを通じていろいろな国の人と会うつもりです。



カウチサーファーとしてのカウチサーフィン(CouchSurfing)の経験:


オーストリア、ベルギー、ブルガリア、クロアチア、チェコ共和国、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、イタリア、ルクセンブルグ、オランダ、ノルウェー、ポルトガル、ルーマニア、スロヴェニア、スペイン、スウェーデン、スイス、イギリス、台湾

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