カウチサーフィンの威力!

(左:ゲストハウスの女将さん
真ん中:近所のおじさん)
今日はルーマニア観光のハイライトの一つ、「五つの修道院」巡りの日です。
天気は快晴!
否が応でも気持ちが高鳴ります。
ゲストハウスの女将さんは今朝も朝食を用意してくれました。
もちろん眺めの良いバルコニーでいただきます。
そして今朝も近所のおじさんはやってきて、私と一緒に朝食を食べます。
会話にならない会話をしながら。
女将さんはこのおじさんにもコーヒーをだします。
それにしても、いくらご近所さんだからといえ、よくもまあ毎日毎日人の家のベランダにやってくるものだな。
コーヒーだってこんなにマズいのに。
はっ!
もしかしてこの二人はデキてるのか?
そういえばふたりとも独身っぽい。
こんなルーマニアの片田舎でも、静かにロマンスは進行している。
そんなふうに考えたら、意味不明のこのおじさんとの会話もなんだかおかしく思えてくるから不思議なもんです。
今日はジョージが車で5つの修道院を案内してくれる予定なのですが、約束の時間になってもまだやってきません。
彼は自分でビジネスを営んでいます。
自分が社長なので、わりと時間の融通がききます。
なので私の訪問にあわせて、今日はスケジュールをあけておいてくれたらしいのですが、どうやら突発的な事態が発生した模様。
「すまん、マサト。
なるべく早く仕事を片付けるから、もうちょっと待ってくれ」
こちらこそなんだか申し訳ないです。
俺なんかにかまわず、仕事に専念してくれ、ジョージ。
とは言ったものの、スチャバ観光に費やせるのは実質今日が最後。
公共交通機関を利用して5つの修道院をすべてまわろうとすると、少なくとも3日はかかるらしい。
タクシーをチャーターするべきか・・・
5つの修道院を1日で全部見ようと思ったら、9時間ぐらいかかるみたいだ。
だったらそろそろタクシーを手配しないと時間切れになる。
そんなギリギリのタイミングのなか、ジョージから電話がかかってきました。
「待たせたなマサト。
やっと仕事にケリがついた。
すぐに迎えに行く!
まだ何も食ってないだろうな?
今日は腹を減らせておけよ。
なんたってルーマニアの代表的な料理を1日で全部食べなきゃならないんだからな」

(ジョージお勧めの食堂)
ゲストハウスまで迎えに来てくれたジョージはなんだか忙しそう。
ひっきりなしに電話がかかってきてます。
ほんとはまだ仕事は完全には終わってないのに、私のために無理して出てきてくれたにちがいありません。
すまん、ジョージ。
BMWの中にはジョージのほかに彼女のガブリエラと、そしてミッシェルも一緒に乗っていました。
ずっと電話で話し続けているジョージの代わりに、ガブリエラが車を運転しています。
まず最初に向かったのは、1軒のレストラン。
地味な造りの小さなお店なので、ガイドブックには載ってなさそう。
しかし、ジョージに言わせれば、
「この店のチョルバがベスト!」
なんだそうです。
チョルバというのはルーマニアの伝統的なスープ。
ジョージが太鼓判を押す、この店のチョルバの味はいかに?!

さっそくなにか出てきましたが、これはチョルバではありません。
お皿にはトウガラシが載っています。
どうやって食べるんだ?

ついにチョルバがやってきました。
見た目はなんのへんてつもない普通のスープのようですが、
これがまたうまいのなんのって!
さすがはジョージが絶賛するだけあります。
調子に乗ってパンと一緒にばくばくと食べてしまいました。
「あんまりがっつくなよ、マサト。
今日は他にもまだまだ食べなきゃならないんだからな」
そういうことはもっと早く言ってくれよ、ジョージ。
食べ過ぎて、もうおなかいっぱいだよ。

腹ごしらえを終えた後に立ち寄ったのはここ。

どうやら陶器工場のようです。
この地方の名産品なんだとか。

本来なら「ろくろ」を回して陶器作りを体験できるのですが、あいにく今日はお休み。
残念。

出来上がった陶器に色をつけたらこんなふうに仕上がります。

ルーマニアの定番おみやげ、イースターエッグ。
欲しいっ!
でも、私の旅はまだ1か月以上続きます。
こんな物をバックパックに入れておいたら、日本に帰り着くころには粉々になってしまうのは必至。
泣く泣く諦めました。





「ドラキュラ」のモデルとなった人物。
かなり残虐な性格の持ち主だったようです。

ルーマニアの民族衣装にも挑戦してみました。

なかなか似合うでしょ?
と思っていたら、まだ続きがあるそうです。

どうです?
これで私はどこからどう見ても「ルーマニアの男」でしょ。

「あんた、ほんとによう似会っとるわ。
いい男だねー」
どうやらこのおばあさんは私に惚れてしまったようです。
もしかしたらお歳のせいか、目が悪いのかもしれません。
俺と一緒に日本に来る?
おばあさんは
「かっこいい!」
「ルーマニア人でもここまでこの衣装が似合う男はそうはいない」
などと私のことを誉めそやします。
そこまで褒められたら、やはり悪い気はしません。
そんなに俺、かっこいいかな。
本気にしちゃうよ。
これが衣装を売りつけるための営業トークだということにまったく気が付きませんでした。

山道をひた走り、ようやく一つ目の修道院が見えてきました。
スチャバ市内からはけっこうな距離があります。
バスでここまで来るとしたら、いったいどれだけの時間がかかるのだろう。
ジョージにはほんとに感謝してます。
車を降りて、いざ修道院に入ろうとしたら、入り口のところでシスターたちがどよめきます。
「ブルース・リーが攻めてきたの?
ダメよ、武器を持ってる人をここに入れるわけにはいかないわ」
もしかしてブルース・リーって俺のことか?
どうやら東欧の人にとっては、ブルース・リーもサムライも一緒のようです。
ジョージにこれは本物の刀ではないことをシスターたちに説明してもらって、ようやく中へ入れてもらうことができました。

ついにやってきました、5つの修道院!
私はもう興奮状態で、写真をバシャバシャ撮りまくります。

独特の形をしたこの修道院。
ここを訪れるのはずっと私の夢でした。
世界遺産の写真集を眺めながら、
「いつかは行きたい!」
とずっと願っていたものです。
あの頃は、まさか自分がほんとにこの場所を訪れることになるなんて思ってもいませんでした。
あの頃の自分にこの写真を見せてやりたい。
きっと、
「なんで侍の格好をしてるんだ?」
と首をかしげることでしょう。

鮮やかな内部の壁画。
最近修復されたものなのでしょうか。


敷地内には大勢の観光客がいるのですが、よく手入れされたこの庭はとても静かです。
ベンチに腰を下ろして、一日中修道院を眺めているのも悪くはありません。
今度ここを訪れる時には、1日に一つずつゆっくりと回ってみようと思います。


外から見ると、まるで要塞のよう。
実際、ここは砦としても使われていたようです。
トルコ軍というのは、こんなに山奥にまで攻め入ってきたのだろうか。

興奮醒めやらぬまま、一つ目の修道院を後にしました。

車でしばらく走り、本日2軒目のレストランに立ち寄ります。

ここはあのチャールズ皇太子が訪れたという由緒正しきお店。
高くないのだろうか。
ちょっと緊張します。

テーブルの上の敷物もルーマニアっぽくっていいです。

「じゃんじゃん食えよ、マサト!」
ルーマニアの伝統料理が次々と運ばれてきます。
高級レストランだけあって、料理の味もなかなかのもの。
貧乏バックパッカーの俺がこんなにぜいたくをしてもいいのだろうか。

ルーマニアの料理は味付けが濃い。
すぐにお腹がいっぱいになります。
もう無理。
食べられない。
おいしいのに、もっと食べたいのに、食べられない!
苦しいっ!

そして極めつけはこのデザート、「パパナッシュ」 !
こんなにおいしいデザート、今まで食べたことない。
もうお腹はパンパンで、胃袋がはちきれそうだったのですが、スプーンを持つ手を止めることができません。
パパナッシュは甘くてこってりとしていましたが、それでも全部食べ切りました。
クリームの一滴だって残したくはなかった。
そんなもったいないことできるかっ!

レストランの外では、カップルが結婚写真を撮っていました。

レストランの他の客も、珍しがって私に近寄ってきます。
ルーマニアのこんな山奥に侍がいたら、そりゃびっくりするわな。

辺鄙な場所にあるこのレストラン。
私一人で旅行していたら、絶対にここには来れなかったと思います。
もしも、カウチサーフィンと出会っていなかったら、私の旅は恐ろしいほど味気ないものとなっていたにちがいありません。
また、なにかに引き寄せられるかのようにジョージと知り合えたことも幸運でした。
仕事で忙しいなか、こんな山奥まで車を走らせてくれるホストがいったいどれだけいるでしょう。
もしも私が若い女の子だったら、こんなふうに親切にしてもらうことも珍しくはないのかもしれません。
でも、私はむさくるしいおっさんなのです。
それなのに、今回の旅ではホストに恵まれました。
みんな信じられないくらい私に親切にしてくれました。
俺は意外と運がいいのかもしれない。

山道を縫うように走った後、ジョージは車を停めました。
ここは峠となっており、見晴らしの良さで有名な場所なんだそうです。
たしかに、駐車場には多くの車が停まり、土産物屋などが数軒あります。

ミッシェル。
彼はカウチサーファーでもないのに、まるで昔からの親友のように私に接してくれます。
ルーマニア人ってこんなにも明るいんだな。

それにしてもガブリエラはきれいだ。
こんな美しい娘がほんとにジョージの彼女なのか。
ちくしょー、ジョージの野郎。
許せん。

手作り感満載の屋台。
ルーマニアの物価は安いので、いろいろ買ってもよかったのですが、いかんせんもうお腹がいっぱいです。
食べ物なんて見るのもいや。

二つ目の修道院にやってきました。

やっぱりいいなあ、この建物。

その外見からは想像できませんが、ジョージは意外にも美術や歴史に造詣が深く、壁画についてもいろいろと解説してくれました。
しかし、それは馬の耳に念仏というものだ。

修道院の中では礼拝が行われていました。
ルーマニアでは、歌うようにお祈りをささげるのですね。
とてもきれいで、宗教行事というよりは、合唱コンクールのようでした。

花壇もよく手入れされていて、目を楽しませてくれます。

私が世界遺産を楽しんでいる間も、ジョージは仕事に追われています。
ひっきりなしに電話がかかってきては、なにやら深刻そうに話し込んでいます。

修道院の壁画はどれも同じではなく、それぞれにテーマがあるようです。
ここでは戦争を題材にしたものが目につきました。


南側に面した壁画は、ほとんど消えかかっています。
太陽にさらされ続けたせいでしょう。



修道院は山間にあり、とても静か。
ルーマニアという国には、独特の雰囲気があります。
この先どんなに時代が変わっても、この国だけは変わらないでいてほしい。


走っている時に窓から美しい建物が見えたので、ジョージに頼んで車を停めてもらいました。
中世のお城かと思ったそれは、教会でした。
ブコヴィナ地方にはなんともいえない雰囲気があります。
トランシルヴァニアを訪れた時もその美しさに息をのみましたが、ここにはまたそれとは違った良さがあります。
ますますルーマニアのことが好きになりました。

次の修道院へと向かう途中、馬車とすれ違いました。
もう夕方なので、畑から帰ってくる時間です。
ああっ、馬車に乗ってみたい!
そんな私の気持ちを読み取ってくれたのか、ジョージが車を路肩に停めてくれました。
「乗りたいんだろ? 行って来いよ」
いいの? ほんとに?

ルーマニアを紹介するガイドブックには、必ずと言っていいほどこの馬車の写真がでてきます。
素朴な風景が今なお残るルーマニア。
この馬車はその代名詞なのです。
だがしかし、まさか、まさか自分がその馬車に乗る日が来ようとは、夢にも思いませんでした。
うそみたいだ。
もしかして俺、今、ルーマニアの一部になってる?

「こいつはいったいなにをやってるんだ?」
うさん臭そうな目で私を見るおじさん。
それはそうでしょう。
いきなり侍の格好をした東洋人がやってきて、
「あんたの馬車に乗せてくれ!」
なんて言われたら、誰だって面食らいます。
にもかかわらず、馬車を停めてくれ、その上私を乗せてくれたこのおじさんにはほんとに感謝しております。
一日の仕事を終えて、早く家に帰りたいだろうに、こんなわけのわからない奴を乗せてくれたルーマニア人。
時間の流れ方がゆったりしているこの国だからこそ、こんなことが実現可能だったんでしょうね。

車の中で、馬車に乗っている自分の写真を何度も見た。
スチャバでは5つの修道院がメインイベントのはずだったのだが、馬車の写真も私にとってはかけがえのないものとなってしまった。
世界遺産や5つの修道院の写真なんて、ガイドブックや写真集にいくらでも載っている。
スチャバを旅行した人のブログだって、ネット上に腐るほどある。
だが、侍の衣装を着てルーマニアで馬車に乗っている私の写真はこの数枚だけだ。
世界中どこを探しても他にはない。
うれしくて、ニヤニヤしながらずっと車の中で写真を眺めていた。
やったぞ。
俺はルーマニアの馬車に乗ったんだ。
「なにニヤニヤしてるんだよ、マサト。
そんなに面白い物でも写ってるのか?
ちょっと俺にも見せろよ」
ミッシェルはそう言って私の手からカメラをもぎ取って写真を見たのだが、
「いったいなにがそんなにおもしろいんだ?」
という表情をしていた。
そりゃそうだろう。
彼らにとって、こんな馬車なんて珍しくもなんともない。
でも、これこそが俺にとっての「The ルーマニア」なんだよ。
今回の旅行のスケジュールを組むにあたって、前に一度来たことのあるルーマニアはパスしようかとも思った。
だが、来てみて正解だった。
こんなに心踊らされる国はそうはない。
いつかきっとまた来るぞ。

五つの修道院は基本的にどれも似たような構造をしている。
もちろん細かく見ればそれぞれに特色があるのだろうが、建築に興味のない私にはあまり違いはわからない。
内部の装飾なんかも見る人が見れば違いが一目瞭然なのだろうが、あいにく私にはそっちの方面の知識もない。
「どれも同じならば、5つすべてをまわる必要はないんじゃない?」
というふうに思う人もいるかもしれないが、そんなことはない。
素人には素人なりの楽しみ方というものがあるのだ。
いくつかの修道院を見て歩くうちに、「自分のお気に入り」とでも言うべき場所もできてきたりする。
私にとってはそれがここだった。
たぶんここは「ヴォロネツ修道院」だと思う。
他の修道院と比べてどう違うのかと聞かれても返答に困るが、建物の感じがなんとなくしっくりとくるのだ。
壁面の色もいい。
全体的に青を基調とした落ち着いたトーン。
ジョージはこの修道院のことを「青の修道院」と呼んでいた。
なかなかいいネーミングだ。


青の壁画をバックにみんなで記念撮影。



観光に来ていたカップル。
やはりルーマニア人女性はきれいだ。

私が写真を撮ろうとすると、いつもミッシェルが邪魔をする。
俺は門の写真を撮りたいんだけどなー。お前じゃなくて。

次の修道院に着いた頃には、日が沈みかけていました。
だんだん暗くなってきてなんだかあせりますが、さすがにこの時間になると他の観光客の姿はほとんどなく、
落ち着いて鑑賞することができます。



いや、だからミッシェル。
俺の写真の邪魔をしないでくれってば。
ジョージは相変わらず誰かと電話をしている。
まだ仕事が片付いていないらしい。
そんな忙しい中、俺のために一日中ひっぱりまわして悪かったな。
でも、おかげで助かった。
自分一人だったら、とてもこんな充実した観光はできなかっただろう。

どこか疲れた表情のジョージ。
帰りの車では運転せず、ハンドルをガブリエラにまかせて助手席で爆睡していた。

「一緒に写真を撮ろうぜ、マサト!」
ミッシェル。
いつもヘラヘラ笑ってる奴。
ほんの二日前に出会ったばかりだというのに、やたらと馴れ馴れしい奴。
また一人かけがえのない親友ができた。
ルーマニア北部の小さな町に友達がいるなんて、ほんの数年前まで想像もできなかった。


各修道院でそれぞれ一枚ずつ絵ハガキを買うつもりだったのに、ここの売店はすでに営業時間を終了していた。
残念、コンプリートできず。
まあいいさ。
ルーマニアにはまた来るんだから。
絶対にまた来る。

宿に帰り着いたのは夜遅く。
にもかかわらず、おばちゃんは明るく迎えてくれた。
「私、英語できるわよ」
と豪語する割に、あまり言葉は通じない。
ルーマニア人というよりは、イタリア人といった感じのこのおばさん。
にぎやかだったけどいい人だったな。
楽しかった。
今度スチャバに来る時も、この宿に泊まろう。
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