リヴィウ~オデッサ(ウクライナ)

リヴィウの駅で、オデッサ行きの夜行列車を待つ。
深夜0:30の出発だから時間はたっぷりあるのだが、残念ながらWiFiは使えないようだ。
どうやって時間をつぶそうかと考えたあげく、ここのところ忙しくてつけることのできなかった日記をまとめて書くことにする。
ブログの更新はできなくとも、その日起こった出来事を記録するだけならばネット環境がなくてもできる。
「こんなおもしろいこと、記録なんかつけなくても忘れるはずがない」
と高をくくっていて痛い目に遭ったこともある。
毎日毎日が刺激的な出来事の連続だから、どこか外部に記録しておかないと脳と精神がパンクしてしまう。
私の旅は基本的にホテルを使わないスタイルだし、東欧のネットインフラは貧弱。
なかなかブログの更新ができず、たまりにたまっている。
でも、それはいいことだと思う。
毎日きっちりブログの更新ができるゆとりのある旅行なんてつまらない。
今夜の0:30から明日の午後12:30まで、まるまる12時間を夜行列車の中で過ごすことになる。
体力の温存を気にする必要はない。
時間に余裕があるこの機会に、ゆっくりと日記をつけることとしよう。

ひととおり日記を書き終えて、ふと顔をあげると待合室はほぼ埋まっていた。
もうすぐ深夜になろうかというのに、なんなんだこのにぎわいは。
リヴィウの駅は昼間よりも深夜の方が混雑している。
国土が広く、列車のスピードも遅いウクライナでは、長距離を移動するにはもっぱら夜行列車を使うのかもしれない。
東欧の他の国では電車よりもバスの方が便利なことが多いのだが、ウクライナに関しては夜行列車の方が断然使い勝手がよかった。
ふと、自分が空腹であることに気付く。
そういえばまだ夕食を食べてなかったっけ。
駅の構内には食事をする場所が何軒かあったのだが、さすがに夜中の11時30分を過ぎているので閉まっている。
売店でスナック菓子を売っているが、こんなのが晩飯だなんてあまりにも自分がかわいそすぎる。
待合室はほぼ満席だから、今ここで席を離れると座れなくなる恐れがある。
だが、私は食料をまったく持ち合わせていない。
旅人にやさしくないウクライナのことだ。
夜行列車の中で食事にありつける保証もなさそうだ。
あったとしても割増料金を取られるだろう。
駅の外に食料を調達しに出かけることにした。
用心のためにすべての荷物を持って行く。
後ろから前から、重たいリュックが肩に食い込む。
たかがパンを買うためだけなのにこの重労働。
一人旅は気楽でいいのだが、こういう場合に不便だ。
駅の外には店がいくつかあったはずなのに、みんな閉まっている。
「日本なら少し歩けば24時間営業のコンビニがいくらでも見つかるのに」
と思わず弱音をはきそうになる。
これまで当然だと思っていたことが、実は特別なことだったのだと思い知らされる。
東欧ではパンひとつ、シャーペン1本買うのさえ苦労することだってあるのだ。
幸いなことに、パン屋が一軒まだ開いていた。
列車の中では寝ることと食うことしか楽しみがないだろう。
少し多めにパンを買っておくことにしよう。
もしも余ったら、明日、黒海を眺めながら食べればいいさ。
黒海!
そうだ。
明日の午後には俺はオデッサにいるのか。
東欧屈指の保養地オデッサ!
意味もなく血がざわざわし始める。
なぜかって?
オデッサ近郊には有名なヌーディストビーチがある、らしい。
男に生まれたからには、一度くらい体験しておきたい。
それにここはウクライナ。
世界一の美女大国なのだ。
明日に備えて体力をつけとかないと。
パンをもう一つ追加注文した。
ニヤニヤしながらお金を払う俺のことを、店員は気味悪そうに見ていた。

食料を買い込んで戻ってくると、待合室の前に人だかりができていた。
それも尋常でない人数だ。
いったいなにが起こってるんだ?
こわごわ待合室の中をのぞいてみると、中にはほとんど人がいない。
どうやら深夜0時を過ぎると、全員追い出されるみたいだ。
きっと掃除でもするのだろう。
再び入室可能になるのをみんながかたずを飲んで待っている。
合図と同時に壮絶な椅子取り合戦が始まるに違いない。
夜中にそんな競争に巻き込まれるなんてごめんだ。
バックパックをイス代わりにすればどこにだって座れる。
どこか適当な場所を探していたら、別の待合室があった。
こちらはまだ空席が残っている。
それもそのはずで、こっちの待合室は有料。
インターネットも使えるらしい。
試しにWiFiの電波が拾えないか探してみたが、きっちりパスワードがかかっていた。
けち。
どうしてもインターネットが必要なわけではないし、あきらめて通路に腰をおろしてパンをかじる。
トイレももちろん有料。
列車の中ではただで使えるのだから、がまんすることにしよう。
ヨーロッパ旅行は膀胱に悪いのだな。
待合室の方が急に騒々しくなった。
どうやらイスの争奪戦が始まったようだ。
年寄りも子供も関係ない。
みんな必死の形相で場所を取りに殺到する。
なんでそこまで真剣にする必要があるんだ?
みんなこの駅で夜を明かすつもりなのだろうか。
私の乗る夜行列車はそろそろ到着するころだ。
リュックのひもを肩に食い込ませ、ホームへと向かう。

「一番安い席をくれ」
と注文すると、たいてい上段のベッドが割り当てられる。
下段の方が広くて、人気があるらしい。
でも私は上段のベッドの方が好きだ。
高い所への上り下りは苦にならないし、せまくても平気だ。
むしろこっちの方が落ち着く。
もしかしたら前世は猫だったのかもしれない。

夜行列車というのはほんとに人気があるようだ。
途中何回か列車は停まったのだが、そのたびに誰かが降りていくし、入れ替わりに誰かが入ってくる。
深夜の2時とか3時に乗り降りがあるものだから、そのたびに眠りが中断される。
私は基本的に列車やバスの予約をしない。
いつも当日にチケットを買ってきたし、それで売り切れだったことはなかった。
だが、それはたまたま運が良かっただけなのかもしれない。
この列車を見ている限り、車内は常に満席。
ということはチケットを買えずに乗れなかった人もかなりいるに違いない。

朝になり、そこかしこでいい匂いがたちこめ始める。
朝ごはんを食べているのだろう。
私も! と思うのだが、私のスペースは寝台の上段。
体を起こすだけのスペースはない。
しかたなくベッドを降りる。
コンパートメントは4人掛けで、私以外の3人は親子連れだった。
私一人が部外者なので、なんだか居心地が悪い。
座席の隅の方にちょこんと腰かけてパンをほおばる。
テーブルは親子連れが占領しているので、飲み物の置き場に困った。
列車はかなり揺れるので、こぼれないように気をつかう。

西ヨーロッパでは鉄道の時間はあてにならなかった。
1時間や2時間の遅れはざらだ。
だが、ウクライナでは列車の時刻はかなり正確。
もし予定通りに到着するとすれば、そろそろオデッサのはずだ。
トイレをすませ、荷物をまとめる。

そしてついにオデッサに到着!
空には雲一つなく、真っ青に晴れ渡っている。
この街が俺を歓迎してくれているように感じた。
それにしてもなんなんだ、この空気は?
同じウクライナなのに、ここはキエフともリヴィウともまったく異なる。
ただ快晴だからというだけではない。
体中がウキウキしてくる。
間違いなくオデッサには人を熱狂させるなにかがある。
だから毎年夏になると大勢の人がやってくるのだろう。
混雑する他の乗客の迷惑も考えず、調子に乗って記念撮影などしてしまった。
だめだ。
なんだか俺、舞い上がってる。
ラリッっているようにでも見えたのかもしれない。
ホームで警察官の職務質問を受けた。
「パスポートを見せろ。
それはなんだ? お前は武器を持ち歩いているのか?」
武装した警官を前にしても臆することなく、私は嬉々として質問に答えていた。
オデッサでは警察官までもが俺を出迎えてくれている。
勝手にそんな勘違いまでしていた。

職務質問を終え、パスポートをしまう頃には他の乗客の姿はなくなっていた。
見上げると、そこには雄大なオデッサの駅舎がそびえている。
荷物を点検していて、キエフで泳いだ時に水着を忘れてきてしまったことに気付いた。
「新しい水着を買わなきゃだめだな。
でもまあここはビーチリゾートだから、水着なんてどこにでも売ってるだろ」
などと考えている自分に気づいて、思わず苦笑してしまう。
水着なんていらないじゃないか。
だって、だって、ただのビーチじゃないのだから。
ついに来たぞオデッサ。
黒海だ!
ビーチだ!
ウクライナ美女だ!
- 関連記事
-
- キシニョウ(モルドヴァ)でカウチサーフィン(2日目)
- 沿ドニエストル共和国(ティラスポリ)旅行記
- 沿ドニエストル共和国をビザなし入国で旅行
- 俺はヤクザだ(キシニョウ、モルドヴァ)
- キシニョウでカウチサーフィン(モルドヴァ)
- ポチョムキンの階段(オデッサ、ウクライナ)
- 目のやり場に困る (オデッサ、ウクライナ)
- リヴィウ~オデッサ(ウクライナ)
- 君の名は・・・(リヴィウ、ウクライナ)
- 現地の人の生活を体験できる! それがカウチサーフィンだっ!(リヴィウ、ウクライナ)
- あなた震えてるじゃない(リヴィウ、ウクライナ)
- 恋人たちの愛のトンネル(リヴネ、ウクライナ)
- 娘さんは芸能人?!(キエフ、ウクライナ)
- 独立広場の決闘(キエフ、ウクライナ)
- ヌーディストビーチ(キエフ、ウクライナ)