現地の人の生活を体験できる! それがカウチサーフィンだっ!(リヴィウ、ウクライナ)
バスの窓からはなにも見えない。
リヴィウの街からはかなり離れているらしく、店はなく、あたりは真っ暗だ。
普通、ホテルは大通りに面した街の中心部にある。
だが私はリヴィウでカウチサーフィンを利用する。
ホストが常に町の中心部に住んでいるとは限らない。
リヴィウの街中に住んでいてくれたらこちらとしても観光に便利で助かるのだが、
ホストはこちらの都合で家を選んでくれたりはしない。
オーリャが目的地で私を降ろしてくれるようにバスの運転手に頼んでくれているはずだが、それでも不安になる。
すでにリヴィウの中心部からはかなり離れているし、こんな辺鄙なところにはホテルもありそうにない。
こんな町はずれでホストに会えなかったらいやだなあ。
雨もぱらついてるし。
バスの運転手に「降りろ」と言われて降りてみたものの、ほんとにここであってるのか不安でしかたがない。
コンビニはもちろん、ホテルやレストランもない。
なにもない村だ。
カウチサーフィンをやっていなかったら絶対にこんな場所に足を踏み入れたりなんかしない。
「もしかして俺は、この村にやってきた最初の日本人なんじゃないだろうか」
ふとそんな考えが頭をよぎる。
どう考えても日本人がここに来る理由がない。
大学も会社もない。
観光地からも遠く離れている。
そんなことを考えていると、男が近づいてきた。
ここでのホスト、イウリに違いない。

彼の家はバス停から歩いて10分ほどのところにあった。
家はたくさん建っているが、物音一つしない。
とても静かな村だ。
「腹はへってるか?」
と聞かれたので、「少し」と答えたら、
「これを食えばいい。ウクライナの食いもんだ」
と言われた。
どれどれ。
さっそく一つつまんでみる。
マズいっ!
餃子のようなその食べ物はパサパサと乾燥していて、ところどころ硬くなっている。
もともとは柔らかかったのだろうが、長時間外へ放置していたにちがいない。
味付けもほとんどなく、なんだか砂をかんでいるようだ。
私はグルメではなく、味にはこだわらない方だ。
実はおなかもすいていて、どんな食べ物でもおいしく感じる自信があった。
だが、不味い。
こんなにマズい食べ物を食べるのは久しぶりだ。
ごちそうしてもらっておいてこんなことを言うのもなんだが、ほんとに不味い。

今夜のカウチ。
リヴィウでホストを探していた時、
「うちに泊まりに来いよ。大歓迎だぜ」
と、イウリの方から招待してくれた。
彼のカウチサーフィンのプロフィールを見ていると、どうやら屋根裏を改造して住んでいるらしい。
なんだかおもしろそうだ、と思い、お世話になることにした。
ところが、そのイウリは今、ポーランドを旅行中だという。
え? じゃあ君はいったい誰なんだ?
彼の名はオスタップ。
イウリの兄弟だ。
顔がよく似ているから、てっきりイウリかと思った。
もしかしたら双子なのかもしれない。
「シャワーでも浴びて来いよ。その間に夕食を用意しておくからさ」
よかった。
どうやらちゃんとした食事にありつけるようだ。

シャワーを使う前にオスタップから講習を受ける。
「うちはちょっと変則的なんだ」
ここはもともと屋根裏部屋だったので、配管はオスタップが自分でやった。
シャワーには水が通っているものの、トイレに水は流れない。
ではどうするのか?
湯船の中に置いてあるバケツに水をため、それをトイレの便器に流すのだ。
「なんじゃそりゃー!」
疲れてるのにそんな面倒なことさせるなよ。
思わずベトナムでの体験を思い出した。
花モン族の家に泊まった時のトイレもひどかった。
http://couchsurfingkyoto.blog.fc2.com/blog-entry-660.html
だが、あれは東南アジアの山奥にある少数民族の村だ。
たしか俺は今ヨーロッパにいるんだよな?
まさかウクライナでこんなサバイバル生活を強いられるとは思いもしなかった。
カウチサーフィンって楽しいなー。
便器は壁と浴槽の間にはさまれていて、幅がとてもせまい。
普通に座って用をたすことができない。
なんでこんな設計にしたんだよ。
そしてシャワー。
汚い。
見るからに湯船が汚れている。
いたるところに水垢がこびりついている。
服を脱いで中に入ってみると、足の裏がザラザラする。
どうやったらこんなに砂がたまるんだよ。
オスタップ、君はここを毎日使ってるんだろ?
どうやら彼はとても器用にシャワーを浴びるようで、浴槽の真ん中だけはホコリがたまっていない。
だが、そのせまい範囲からほんの少しでも足をはみ出せば、とたんにザラザラとした感触が足の裏を襲う。
シャワーを浴びているはずなのに、どんどんと自分の体が汚れていく気がした。
ぜったいに湯船に腰を下ろしたくなんてない。
そしてここは屋根裏部屋。
湯船の上には斜めになった屋根が張り出している。
だからまっすぐに立ってシャワーを浴びることができない。
体をどちらか片方に捻じ曲げなければならないのだ。
ややこしい。
どうしてこんなところに湯船を置くんだよ。
シャワーはリラックスするためのもんだろ。
こんなんじゃちっとも落ち着けないよ。
体を斜めにしてシャワーを浴びていたら、なんだか足元がグラグラしてきた。
なんだ?
気のせいかな? なんだか湯船が揺れてるような気がする。
と思っていたら、
ガシャーンッ!
と音を立てて湯船が崩れ落ちた。
な、なっ!
いったい何がどうなってるんだ?
もちろんこのシャワールームもオスタップの手作り。
レンガを数個床に置いて、その上にバスタブを置いているのだが、固定はしていない。
ほんとにレンガの上に浴槽を乗せているだけなのだ。
そんなことは知らなかった私は、目の前に迫ってくる屋根を避けるために体を斜めにしてシャワーを浴びていた。
だからバランスが崩れて湯船がレンガから落っこちてしまったのだ。
勘弁してくれよ・・・
屋根は斜め。
バスタブも斜め。
片方だけレンガの上に乗った不安定この上ない浴槽の中でシャワーを浴びる私。
どんなに安いゲストハウスでもこんな経験はできないだろう。
やはりカウチサーフィンはおもしろい。

ほうほうの体でシャワー室を脱出してきたら、オスタップが夕食の準備をしてくれていた。
彼のお母さんも加わり、夕食を食べながら3人で話をした。
お母さんは英語を話さないが、とても好奇心旺盛な人のようで、私の話を熱心に聞いている。
こういう親でもない限り、子供がカウチサーフィンのホストをすることを許可したりはしないだろう。
親と同居しているホストはまれな存在だ。
こういうファミリーにはぜひともカウチサーフィンを続けてほしい。
トイレとシャワーはもう少しなんとかしてもらいたいものだが。

どうやらこの食事はオスタップが作ったもののようだ。
お世話になっておきながらこんなことを書くのは心苦しいのだが、この食べ物、
はっきり言って不味い。
いや、これを食べ物と呼んでもいいものかと思ってしまう。
いったいどうやったらこんなに味気ないものを作り出すことができるのだろう。
ここまできたら一種の才能としかいいようがない。

彼らの庭では果物や野菜を栽培している。
これらもけっしておいしくはなかったが、オスタップの手が加えられていない分だけまだましだと言える。

「お茶のおかわりが欲しかったら、このポットのお湯を使ってくれよ」
オスタップはそう言ってくれた。
ありがとう、
と言いかけて、自分の目を疑った。
ポットの周りには白い汚れがこびりついているように見える。
いや、汚れているのはポットの外側だけではなさそうだ。
気になって仕方がなかったので、オスタップが席を外したすきにポットを確認してみた。
信じられない話だが、中には白いものがびっしりとこびりついている。
それらがお湯に溶けだして、水は白く濁っている。
ま、まさか、今俺が飲んでいるこのお茶は、このポットのお湯を注いだのか?
よく見ると、食器には前回に食べたもののカスがこびりついている。
フォークのすきまにも得体の知れないものがはさまっている。
きっとよく洗っていないのだろう。
この屋根裏部屋には靴をはいたまま入る。
だから床が土まみれなのは仕方ないことなのかもしれない。
だが、砂をかぶっているのは床だけではない。
椅子やテーブルの上も、砂でザラザラしている。
そのテーブルの上で我々は今、食事をしているのだ。
なんなんだ、ここは。
私とオスタップとでは衛生概念がまったく異なるらしい。
ここはアフリカでもインドでもない。
ヨーロッパだ。
だが気をつけろよ俺の胃袋。
今までお前が口にしてきた食べ物はすべて、このオスタップが作っているということを忘れるな。
水だって汚染されている。
いつもの10倍の注意をはらって消化してくれ。
でないと明日の朝、あのわけのわからないトイレに直行するはめになるんだぞ。
そんなのはいやだろ?

右がリヴィウでのホスト、オスタップ。

屋根裏部屋へと通じる入り口。
もちろんこれもオスタップの手作り!



彼の家の庭は広く、いろんな種類の果物や野菜が植わっています。
はたして、あまりにもオーガニックすぎる彼の家の生活はヘルシーなのか、それとも体に悪いのか・・・

庭にはぶどう畑だってあるんです。

「バスの中でこれを食べたらいいよ」
もぎたてのぶどうをくれるオスタップ。
けっこうカウチサーフィン歴が長い私ですが、今回の体験はとても特別なものとなりました。
いろんな意味で。
___________________________________
いろいろと書いてきましたが、オスタップはとてもいい奴でしたよ。
彼の家族もとてもフレンドリー。
非の打ちどころなんてありません。
ただ、ほんの少し衛生環境に無頓着なだけ。
きっとウクライナ人の体は頑丈にできていて、少しくらいのことなんて気にもならないのでしょう。
彼らのおかげで、普通の観光客なら絶対にできないような体験をさせてもらうことができました。
お腹に自信のある人は、ぜひ彼の家を訪れてみてください。
きっと暖かく迎えてくれることでしょう。
ちなみに彼は観光ガイドのライセンスも持っているそうです。
日程があえば、リヴィウの街をガイドしてくれるかもしれませんよ。
「その土地に暮らす人々の生活を垣間見ることができる」
これがカウチサーフィンのいいところ。
でも、リヴィウの人ってみんなこんな暮らしをしてるのかなあ。
そんなわけねーし。
- 関連記事
-
- 沿ドニエストル共和国をビザなし入国で旅行
- 俺はヤクザだ(キシニョウ、モルドヴァ)
- キシニョウでカウチサーフィン(モルドヴァ)
- ポチョムキンの階段(オデッサ、ウクライナ)
- 目のやり場に困る (オデッサ、ウクライナ)
- リヴィウ~オデッサ(ウクライナ)
- 君の名は・・・(リヴィウ、ウクライナ)
- 現地の人の生活を体験できる! それがカウチサーフィンだっ!(リヴィウ、ウクライナ)
- あなた震えてるじゃない(リヴィウ、ウクライナ)
- 恋人たちの愛のトンネル(リヴネ、ウクライナ)
- 娘さんは芸能人?!(キエフ、ウクライナ)
- 独立広場の決闘(キエフ、ウクライナ)
- ヌーディストビーチ(キエフ、ウクライナ)
- ハズレか? 当たりか? (キエフ、ウクライナ)
- 正義はどちらに? (ミンスク、ベラルーシ)