恋人たちの愛のトンネル(リヴネ、ウクライナ)
愛し合う恋人たちが手をつないで歩くと願いが叶う、と言われている恋人たちの「愛のトンネル」。
その伝説の真偽はいかに?

列車はほぼ定刻通り、夜中の2時にリヴネに到着。
深夜にもかかわらず、けっこうたくさんの人が降ります。

切符売り場と待合室

深夜だというのに、駐車場には車がけっこう停まっています。
迎えに来た人や、タクシーなどです。

もう一つの待合室。
ここにはわずか5時間ほどしか滞在しませんでしたが、生涯忘れることのできない場所となりました。

ウクライナの警官はとても親切。
バス乗り場まで二人がかりで案内してくれました。
それとも、ただ単にヒマなのか。

リヴネの駅。
もともとここリヴネになんて立ち寄るつもりはなかった。
だが、ネットでウクライナのことを調べているうちに、「恋のトンネル」なるものを見つけてしまったのだ。
youtube で「世界ふしぎ発見」のビデオを見て、そのあまりの美しさに感激してしまった。
「これはぜひとも行かなくてはならない」
そこで急きょ予定を変更して、リヴネにも寄ることにしたのだ。
なので日程はかなりタイトなものとなってしまった。
ここでの目的は「恋のトンネル」だけなので、リヴネには泊まらない。
緑のトンネルだけ見たら、あとはさっさとリヴィウへと向かう。

「恋のトンネル」はリヴネの駅からさらにバスでクレヴァン村へと行かなければならない。
ここがそのクレヴァン村。
なにもないところだ。
まさに「村」と呼ぶにふさわしい。
こんな辺鄙な場所にほんとに世界中を虜にしたあの「恋のトンネル」が存在するのだろうか。
実はこの「愛のトンネル」、数年前まではほとんど誰も知らなかった場所なんだそうだ。
それが一気にブレイク。
日本のテレビ番組でも何度か取り上げられたし、テレビのCMの撮影にも使われたとか。

それにしてものどかな場所だ。



なんだ、この恥ずかしいオブジェは?
おそらくここで恋人たちが一緒に記念撮影でもするのだろう。

コウノトリの愛の巣!!!

どうやらほんとに恋人たちに人気のあるスポットらしい。


あいにくこの日は雨。
この「恋のトンネル」はいつ来ても美しいらしいが、やはり晴れた日の方がいいに決まってる。
もっときれいな写真がネットにゴロゴロ転がっているので、そちらの方をご覧ください。
見たらきっと行きたくなりますよ。

大きな音をたてて、列車がやってきました。

トンネル内から列車が姿を現す様子はまさに幻想的。
まるで映画のワンシーンを見ているようです。
しかし、感激している場合ではありません。
トンネル内にはどこにも逃げ場はないのです。
さて、どうしよう。
そうこうしているうちにも、列車はどんどん近づいてきます。
けっこう迫力ありますよ。

この列車、一日に1本とか3本しか通らないという貴重なシロモノ。
せっかく運よく出会えたのですから、乗せてもらいました。
テレビの撮影じゃあるまいし、普通、一般人は列車の運転席に乗せてもらうことなんてできません。
では、なぜ私たちは乗ることができたのか?
1. 侍の衣装を着て、刀を振り回し、「止まれー!」と叫ぶ
2. かわいい女の子と一緒に行き、ミニスカートをひらひらさせながら運転士にウインクしてもらう
どちらか一方だけでも効果はあると思いますが、
私たちは両方やりました。
まさか試してみようなんて思う人はいないと思いますが、
実行する場合は自己責任でお願いします。


せっかく列車に乗せてもらえても、外は雨。
なんだか気分はブルーです。



どうせ行くのなら、絶対に晴れた日の方がいいです。
私たちが行った日はかなり激しく雨が降っていたのですが、
時折雨足が弱まって、日が差す瞬間がありました。
ほんの一瞬ですが、あまりの美しさに思わず息を飲んでしまいました。
リヴネやクレヴァン村にはこの「愛のトンネル」以外に見るべきものはありません。
それでも、晴れた日に訪れるために宿泊するだけの価値はあると思います。
もう少し粘れば雨も止みそうだったのですが、私は「諸事情」により引き上げざるを得ませんでした。



この「恋のトンネル」、湿地帯の中にあります。
なんの用事もない人は絶対に訪れない場所なのです。
なので今までずっと誰にも知られずにいたのですね。


あいにくの雨でしたが、いい点もあります。
他に誰もいなかったので、この「恋のトンネル」を独占することができたのです。
貸し切りですよ!
_________________________________________
車掌の女性は一応起こしに来てくれたが、あいかわらず英語はまったく通じない。
深夜の2時、列車は静かに停車する。
駅名の表示は見あたらない。
どこまでも旅行者に不便にできている。
けっこうたくさんの人がリヴネで降りた。
こんな深夜に到着して、いったいどうするつもりだろう。
みんな地元の人か。
「タクシー?」
何人かが声をかけてくる。
荷物を預ける場所を探しているのだが、英語がまったく通じない。
年配の人はだめだ。
やはり若い人を探さないと。
どうせならきれいな女の人がいい。
ちょうどそこへウクライナ美女が通りかかった。
彼女に聞いてみよう。
残念ながら、彼女は英語がほとんどできないようだ。
「ちょっと待って」
彼女がどこかに電話する。
きっと英語のわかる友人に連絡をとってくれているのだろう。
と思っていたら、警官が二人やってきた。
えっ!
この女の人、警察に通報したのか?
俺は不審者かよ。
「パスポートを見せろ」
俺はただ荷物を預けたいだけなのに、なんだか話がややこしくなってきたぞ。
もちろん警官たちも英語は話せない。
この国の教育はいったいどうなってるんだ?
よく「日本人の英語は下手だ」と言われるが、下には下がいる。
若い方の警官と、携帯電話の翻訳機能越しにコミュニケーションを試みる。
といっても、所詮はグーグル翻訳だからなかなか意思疎通をはかることができない。
ちょっとずつ表現を変え、翻訳の精度を高めていく。
だんだん私の言いたいことがわかってきたようだ。
「ああー、荷物を預けたいんだな。だったらそう言えばいいのに。よし、案内してやる。ついてこい」
だからさっきから何度もリュックを指差してるじゃないかよ。
ほんとに勘のにぶい奴らだ。
荷物預かり所はホームの端っこの、とてもわかりにくい所にあった。
なんで駅構内に置かないんだ?
警官たちは荷物預け所の係員をたたき起こし、ようやく私は荷物を預けることができた。
時刻は3:30。
ここまでくるのに一時間半もかかった。
ウクライナ、ほんと旅行者泣かせだなお前は。
荷物を預けて一段落ついても、警官と例の女性は私を放してはくれなかった。
「まあそこに座れよ」
深夜勤務で暇なのだろう。
私を肴に、彼らは何か話している。
ときおり私に話しかけてくるが、何を言ってるのかサッパリわからない。
私が何を言っても、やはりまったく通じない。
警官たちが去った後も、その女性は私から離れようとしない。
いや、逆に距離が近くなっている。
彼女はウクライナ語で一方的に話し続け、私がまったく理解していないと見るや、
「ぷぅー」
と口をとんがらせる。
なんだかかわいい。
だんだんこの女性のことが好きになってきた。
ブロンドで長身の典型的なウクライナ女性とは少し違うが、彼女はかなりの美形で日本人好みの体型をしている。
彼女もまた始発のバスを待っているようだ。
夢にまで見たウクライナ美女と朝まで一緒に過ごせるのか。
俺はなんてツイてるんだ。
彼女は私の隣に腰をおろし、さらに話しかけてくる。
お互いに何を言ってるのかまったく理解していないから不毛なはずなのに、なぜか楽しい。
ipadの写真を見せたら興味がありそうだったので、今回のヨーロッパ旅行で撮った写真を彼女に見せた。
サムライのコスチュームで撮った写真を見せたら喜ぶかと思ったのだが、反応はない。
どうやら日本の写真が見たいようだ。
だが、あいにく日本の写真は持ち合わせていない。
今回の旅行に備え、ipadやiphoneに入っていた写真はすべて別の場所に移してしまったからだ。
リヴネの駅にwifiはない。
インターネットが使えたら彼女に日本の写真を見せることができたのに、残念だ。
日本の写真がないとわかると、彼女はとたんに私への興味が失せたようだ。
ぷい、とどこかへ行ってしまった。
急に寂しくなったがしかたがない。
彼女はこの街に住んでいて、私はほんのつかの間、リヴネに立ち寄った旅行者にすぎない。
もともと接点などなかったのだ。
クレヴァン行のバスの時刻を確認しよう。
それからこの街をブラブラしてみるか。
荷物をまとめて外へ出た。
バス停はどこだ?
ウロウロしていると、例の女性が飛び出してきた。
なにかわめいているが、もちろん何を言ってるのかはわからない。
「バスの時刻(タイムテーブル)を確認しようと思うんだけど・・・」
「テーブル? テーブルなら待合室の中にあるわ。
さあ、はやく中に戻って。あなたは私と一緒にいなくちゃだめなのよ」
「いや、そのテーブルじゃなくて・・・」
私の言うことなど聞かず、彼女は私の腕をつかんで待合室の中に連れ戻す。
「さあ、ここに座って」
彼女はそう言いながら、アナトリーの奥さんがくれた弁当の包みを勝手にほどきだす。
「それは昼に食べようと思っていたんだけどな」
成り行き上しかたなく、早朝4時に朝食をとるはめになってしまった。
彼女はどこからかお皿を持ってきてくれた。
「さあ、これを使って」
さらに彼女はりんごもくれた。
彼女のくれたりんごは硬くてすっぱくて、お世辞にもおいしいとは言えなかった。
でも、この味を忘れることはないだろう。
私が食事している間、彼女は隣の席に腰を降ろし、あいかわらずしゃべり続けている。
なにひとつわかっちゃいないのに、
「うん、うん」
と相槌をうつ私。
彼女は英語よりもロシア語の方がいいらしい。
「地球の歩き方」には簡単なロシア語の単語が載っていたので、
それを頼りに彼女とのコミュニケーションを試みる。
一時間かけてやっとお互いの名前を教えあった。
「日本語ではどう書くの?」
と聞いてきたので、カタカナで彼女の名前を書いてあげたら、うれしそうに何度もノートに書いて練習していた。
彼女の名前は・・・
もう忘れた。
意思疎通なんてほとんどとれないのに、なぜか彼女といると楽しかった。
お互いになんて言ってるのかまったくわからないのに、それぞれが自分の言いたいことを勝手にしゃべり、二人で声をあげて笑った。
なにがそんなにおかしいのだろう。
わからない。
でも、彼女と一緒にいるととにかく楽しかった。
ずっとこのまま朝なんてこなければいいのに・・・
さっきまで大きな声でまくしたてていた彼女が急に声をひそめる。
肩を寄せ、唇が触れそうな距離まで顔を近づけて何かをささやく。
「 You and Me, Boy and Girl 」
そう言って彼女は抱きしめるしぐさをした。
私と彼女は数時間前に出会ったばかり。
お互いの素性はおろか、意思疎通もままならない。
でもそんなの関係ない。
東の空がうっすらと明るくなってきた。
もうすぐ始発のバスが動き出す。
もともと予定になかったリヴネを無理やりスケジュールに組み込んだため、日程に余裕はない。
私は今日中にリヴィウに着かなくてはならないのだ。
ここリヴネで過ごせる時間は限られている。
「恋のトンネル」か彼女、どちらかを選ばなくてはいけない。
隣にはウクライナ美女がぴったりと私に体を寄り添わせている。
その誘惑にはあらがえない。
だが、リヴネには「愛のトンネル」を訪れるためにやってきたのだ。
神秘的な風景をぜひともこの目で見てみたい。
クレヴァン村行きのバスがやってきた。
彼女の家へと向かうバスとは違う方向だ。
「愛のトンネル」か彼女。
俺は「愛のトンネル」の方を選んだ。
「じゃあ行くよ」
そう言っても彼女は返事をしない。
ぷい、と横を向いてしまった。
バスが出発するまでの数分間が、とてつもなく長く思えた。
もしかして俺は、とんでもない過ちを犯してしまったのだろうか?
今すぐバスを降りて、彼女のいる駅へと戻るべきじゃないのだろうか?
バスが出発する直前、後ろから誰かが俺の肩をつつく。
振り返ると彼女がいた。
彼女か「恋のトンネル」か。
両方とればいいんだ。
もしもリヴィウ行きのバスに乗り遅れたら、このリヴネに泊まればいいだけの話だ。

手をつないで歩くと願いが叶うという「愛のトンネル」。
彼女はいったい何を願ったのだろう。
彼女の名前は、もう忘れた。
でも、かたくてすっぱいリンゴのにおいはずっと消えずに残っている。
今でも。
森の中には妖精が住むという。
リヴネ。
二度とこの地を訪れることはないだろう。
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