スピシュ城(スピシュスケー・ポドフラディエ、スロバキア)

ポプラドのバスターミナルには深夜2時30分に到着。暗くてなにも見えません。加えて私は半分寝ぼけています。
バタッ。
段差につまづいて、思いっきりこけてしまいました。
背中に大きなリュックサックを背負った状態で地面に転がっている私は、はたから見ればまるで無様な亀のように見えたことでしょう。
あまりのかっこ悪さに、思わず苦笑いしてしまいます。
でも、笑っている場合ではないのです。
前面にはサブザックを担いでいるのですが、それをまともに押しつぶすような形でこけてしまいました。
中にはipad などの重要な物がギッシリ詰まっています。
倒れた衝撃でiphone も飛び出してしまい、地面に転がっています。
もしもこれらの物が壊れてしまったら・・・
私は青い顔をして装備に異常がないか確認しました。
幸い、壊れている品はなさそうですが、今度は体のあちこちから激痛が走ります。
一番ひどかったのは手のひら。
すりむいて、血がでています。
手を動かす度に嫌な痛みを感じます。
「まさか骨折なんてしてないよな」
すでに左肩をひねっている上に、右手のひらを骨折なんてしゃれにならない。旅はまだ2ヶ月も続くんだぞ。
このポプラドのバスターミナルでは、かなり高速なwifiが使えたので、次のバスがくるまでの1時間、情報収集にあてたかったのですが、とてもそんな状況ではありません。
寒い。
とにかく寒いのです。
あまりの寒さにじっとしていることができません。
インターネットどころじゃない。
じっとしてたら凍え死んでしまうよ。
あてもなくバスターミナル内をウロウロ。
貴重な体力をこんなしょうもないことで消耗するなんて馬鹿げている。
これは完全に私のミスでした。
夏のヨーロッパをなめていました。
防寒着の一枚でも持ってくればすむのに、それを怠った私が悪い。
真っ暗なバスターミナルを歩いていると、どこからかイビキが聞こえてきます。
ウソだろ?
見ると、ベンチの上に男が横たわっています。
この寒さの中、気持ち良さそうにぐっすりと熟睡してるじゃありませんか。
彼の装備を見ると、まるで冬山に登るような重装備。
こいつは旅の達人だ。
格の違いを見せつけられたような気がしました。

スピシュスケー・ポドフラディエに着いたのは朝の4時。

あたりには霧がたちこめていて、なんだかヨーロッパらしい、いい味を醸し出しています。

などと言っている場合じゃない。
スピシュ城はどっちだ?

標識があることはあるのですが、これだけじゃあわからないよ。
「地球の歩き方(中欧)」にはスピシュスケー・ポドフラディエの地図は載ってません。
しまった。Googleマップをオフラインでも使えるようにしておくべきだった。
こんな早朝じゃ道を聞こうにも誰も歩いていないよな。
明るくなるまでここで待とうか。
と思っていたら、都合のいいことにパトカーが通りかかりました。
お巡りさんに道を聞いたのですが、彼は英語が苦手なようで、その上あまり親切ではありません。
「そこを右に曲がって、まっすぐ行って、それから左」
なんだかそっけない。
それでもだいたいの方向はつかめた。
あとは突き進むしかない。

夜明け前の村を、城を目指してひたすら歩きます。
荷物を預ける場所なんてないので、重いバックパックを背負ったままの行軍。
バックパッカーってほんと体力勝負だな。

左に曲がる道が見えてきました。
ほんとにここであってるんだろうか。
不安だけど、誰も歩いていないから確かめようもない。
と思っていたら、またパトカーがやってきました。
「そう、そこだ。そこを左に曲がって、あとはまっすぐ登るだけだ。
Good luck! 」
それだけ言うと、パトカーはまた元来た道を引き返して行きました。
なんと、私がちゃんと間違えずに進んでいるかどうかを確認するためだけにお巡りさんはわざわざ戻って来てくれたのです。
ちょっといい話でしょ。
でもさ、どうせならパトカーに乗せてくれたってよかったじゃんかよ。
そうすりゃ俺だって重い荷物を持って歩かずにすんだんだからさ。

なにもない殺風景な細い道。
こんなところにほんとに世界遺産「スピシュ城」があるんでしょうか。

墓地の横を通るので、ちょっとおっかなびっくりです。

道はさらに細くなっていきます。
だんだん夜が明けてきましたが、霧がたちこめていて何も見えません。

石畳の道に変わり、だんだんそれっぽくなってきました。

相変わらず霧がたちこめているのですが、一瞬だけ霧が途切れた瞬間がありました。
おぼろげながら、たしかに城が見えます。
おおっ!
もしも霧がなければ、さぞかし雄大な光景なんだろうな。

なんとか頂上にたどり着きました。

しかし、城の門は固く閉ざされています。
それどころか、近づくと獰猛な番犬に容赦なく吠えたてられます。

城の門が開くまですることもないので、写真撮影をして時間を過ごしました。


ようやく門が開き、いよいよスピシュ城観光の始まりです。
荷物は無料で預かってくれました。




城の上から見下ろした街はたしかにきれいですが、お金を払って、わざわざ山の上まで登る価値はないように思えます。
それよりも遠く離れた場所から雄大な城を眺める方が私は好きです。




麓の街で買い物。

酸っぱいミルク(ヨーグルト?)


これが今日の朝食。
食欲なんてなかったけど、無理して詰め込みました。

スピシュ城を眺めながら食べる朝食は格別ですよ。

私が朝食をとっていると、村人たちがわらわらと集まってきました。
どうやら「俺たちの写真を撮れ」と言っているようです。



この赤いシャツを着た少年がくせ者で、荷物を盗られるんじゃないかと気が気でなかったです。
「お前はチーノか?」と聞いてきたので、「俺は日本人だ」と答えたら、
「カンフーはできるか?」とさらに聞いてきました。
「いや、カンフーは香港人だ。俺は日本人だから空手をやる」と答えたら、
「Show me! 」
口のきき方も知らないのかこのガキは。

それでも、この少年が一番私にはなついてくれたので、なかなか憎めない奴でした。

この母親に、
「あんたの娘はかわいいな。一緒に写真を撮らせてくれ」
と頼んだら、彼女はニヤッと笑いながら、
「写真だけでいいのかい?」
指でお金を表す仕草をしながらそう答えました。
なんちゅう母親だ。
それでも人間か。
いくら?





後でカウチサーフィンのホストに彼らの写真を見せたら、
「ジプシー」
と吐き捨てるように言っていました。
私たちが思っている以上に、ヨーロッパの人たちはジプシーのことを忌み嫌っているみたいですね。
あれだけ大勢のジプシーに取り囲まれたのです。
絶対なにか盗られたに違いない、と思って荷物を確認してみましたが、損害はなさそうです。


スピシュスケー・ポドフラディエの街を後にして、次の街、レボチャへと向かいます。
バス停でスロバキア人の女の子に
レボチャ行のバスはここであってるのか確認したら、とても親切に教えてくれました。
ここ東欧では、アジア人に対する人種差別をひしひしと感じていたのですが、大好きな街、スピシュスケー・ポドフラディエで最後に言葉を交わした人がとても感じのよい人だったので、気持ちよくこの街を後にすることができました。
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