西芳寺の事前予約
若い女の子の一人暮らしだというのに、彼女はこれまでにけっこうな数のカウチサーファーをホストしている。
どうやら彼女はカウチサーフィンのヘビーユーザーのようだ。
私はちょうど中国語を習い始めたところなので、
「この機会に彼女をとことん利用してやれ」、と思っていたら、
相手の方が一枚上手だった。
逆にとことん利用されている感がある。
この女の子、日本を訪れるのはこれが初めてだというわりには、かなり通好みのプランをたてている。
高野山に行きたいというので、周辺のバスの運行状況を調べてほしいという。
めんどくさいが仕方がない。
かわいい女の子の頼みだ。
さらにこの女の子、京都では西芳寺を訪れるつもりらしい。
苔寺の通称で有名なこの西芳寺、外国人にはちと敷居が高い。
事前の予約が必要なのだが、往復はがきで申し込まなければならない。
ハガキは一週間以上前に西芳寺に到着しなければならないので、短期滞在の外国人にはかなり難しい注文だ。
インターネット全盛のこのご時世にあえてこの仕打ち。
これは暗に「外国人お断り」と言っているのだろうか。
だが、カウチサーフィンを利用すればこの問題は楽にクリアできる。
人の好さそうなホスト(俺のことか?!)を見つけて西芳寺に葉書を出してくれと頼めばいい。
かわいい女の子に頼み事をされれば喜んでしっぽを振る男なんて世の中には掃いて捨てるほどいるから、西芳寺行きの切符を手に入れることはそれほど難しいことではない。
「ありがとね、マサト。この御礼はきっとするから」
と彼女は言う。
もちろん。
今度はこっちが利用させてもらう番だ。
君が京都に来たあかつきには、俺の下手くそな中国語の実験台となってもらう。
覚えたばかりでまったくでたらめな発音の中国語を「これでもか!」といわんばかりにぶつけてやる。
俺をホストに選んだことを君は死ぬほど後悔するかもしれない。
でも仕方ないだろ。
ギブ・アンド・テイクなんだからさ、カウチサーフィンは。
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