女神に座禅を妨害される
今回のゲストはアメリカから。
やはりアメリカ人の英語はかっこいい。
テンポよく繰り出される英語についていくのは大変だが、頭の良い人の話す英語はカツレツがはっきりとしているので、なんとか食らいついていくことができる。
そういう人と話していると、自分の英語力がメキメキと上がっていくような気がして、なんだかうれしくなってしまう。
彼女の名はヴィーナス。
名は体を表すというが、彼女はまさしくヴィーナス(女神)だった。
その理由は・・・
ヴィーナスはアメリカ生まれのアメリカ育ちだが、彼女の両親は中国系ベトナム人。
CPA(公認会計士)らしく、その思考法はとても合理的。
話し方から彼女の知性がうかがえる。
だが、けっして面白みのないガリ勉タイプではなく、週末の夜は朝までクラブで踊りまくったり、
コンサートで絶叫したりと、なかなかアクティブな一面も併せ持つ。
日本でもサマーソニックに参加するのだそうだ。
そんな彼女は意思表示もはっきりしていて、およそ遠慮というものを知らない。
「あっ、バナナ。私これ好きなの。ちょうだい!」
私が返事する間もなく、台所に置いてあったバナナをパクっとくわえる。
男との別れ方も豪快だ。
「私、仕事を辞めて、旅に出ることにしたから」
たったその一言だけで、8年間も付き合った彼氏のもとを去っていったヴィーナス。
「8年もつきあった彼氏と、そんなに簡単に別れられるものなの?」
驚いた私が彼女にそうたずねると、ヴィーナスはちょっと不思議そうな顔をした。
まるで、「何を言ってるの、この人は?」とでも言いたそうな表情だ。
「だってしょうがないじゃない。私の旅は長いものになりそうだし、彼には自分のキャリアを追及する必要があるんだから」
ヴィーナスの元彼も会計士で、社会的地位や会社での責任がある。
そう簡単に長期間の旅になど出ることは不可能だろう。
合理的思考もつきつめるとこのようになるのだろうか。
なんだか彼女という人間に興味がわいてきたので、いろいろと質問を浴びせたら一喝されてしまった。
「なにそれ? さっきから私の話ばっかりしてる。なんだか面接を受けてるみたい」
一緒に外へ夕食を食べに行った。
お好み焼きは先週も他のカウチサーファーと食べに行ったばかりだが、ここ嵐山には他に選択肢がほとんどない。
お好み焼きは私の好物だから問題はないのだが、なかなか食べることに集中できない。
というのも、ヴィーナスはかなりの巨乳の持ち主で、それを誇示するかのように胸元がくっきり強調されたシャツを着ているのだ。
そんな状況で「見るな」と言われてもそれは酷というものだろう。

ヴィーナスの両親はふたりとも中国系ベトナム人。
いったい何を食ったらそんなにダイナマイトなボディになるんだ?
目のやり場に困るじゃないかよ。
アジア人のDNAを受け継いでいたとしても、アメリカナイズされた生活を送っていればこうなるのか。

気取られないようにじゅうぶん気をつけていたつもりだが、私の視線にヴィーナスは気づいたのかもしれない。
「私、明日はお寺で座禅をするんだけど、マサト、あなたも一緒に来た方がいいんじゃない?」
はい、そのとおりです。
お坊さんに喝を入れてもらって、煩悩をしずめる必要が私にはありそうです。
ところで、ヴィーナス。
君はその格好で座禅をするつもりなのか。
そんなに胸元の大きく開いた服装で来られたら、
他の参加者は気が散って瞑想どころじゃなくなるじゃないかよ。

というわけで、やってきました妙心寺。

ここの境内は広く、たくさんのお寺の集合体となっています。

あまりの広さに、道に迷ってしまいました。
ウロウロして別のお寺の敷地の中に入ってしまうと、
「勝手に入ってもらったら困るんやけど」
とお坊さんに注意されてしまいました。

やっとのことでお目当てのお寺に到着。

今日お世話になるのはここ、春光院です。
ここの住職はアメリカ留学の経験があるそうで、英語で座禅の教室を開いています。

ここが瞑想の間。

しばらくすると、他のお客さんでいっぱいになりました。
私を除く、全員が外国人です。
それもそのはず、ここは英語で座禅を行う、特殊なクラスなのです。
普通、日本人は来ません。

今日は参加者が多かったため、部屋に入りきれません。
そこで急きょ、瞑想の場所を縁側に移すこととなりました。
日本庭園を眺めながら座禅するのもなかなか風情があっていいものです。

住職さんが英語で丁寧に座禅の仕方を教えてくれました。
しかし、未熟者の私はまだまだ悟りの境地に達することはできません。
うつらうつらと居眠りをしてしまいました。
それも、夢をみるくらいに深い眠り。
もちろん夢の中にはヴィーナスのダイナマイトボディがでてきましたよ。
神聖なお寺で、崇高な座禅をしながら居眠りをして、みだらな夢にふける私。
この背徳感がたまりません。
本来ならここで、お坊さんに
「喝っ!」と叫ばれて棒で肩をたたかれるべきなのですが、
ここにはそういうサービスはないようです。
残念。

住職のありがたいお話(もちろん全て英語)を聞いた後は、自由にお寺の中を見て回ることができます。

このお寺には文化的に貴重なものや、歴史的に重要なものがたくさんあります。

それにしても外国人ばっかりだなあ。

最後にお茶とお菓子のサービスがありました。
2000円もだしたのにこれだけかよ。
と毒づいたりしてはいけません。
ここには修業に来たのですから。

まだまだ煩悩を捨て去ることができない私は、一人居残り、瞑想の自主練に励みました。
ヴィーナスはこの後、大阪へ花火大会を見に行き、私の部屋に戻ってきたのは深夜遅くなってからでした。
そして翌朝早くに広島へと出発。
その後はまた大阪へ戻り、そこからピーチ航空で沖縄へと飛ぶそうです。
なかなかいそがしい女神だな。
きっと彼女は沖縄のビーチで、男どもの視線をくぎ付けにするんだろうな。
座禅中もそんなことばかり考えている私は、まだまだ修行が足りんようです。
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