戦車をぶっ飛ばせ!
サーフした回数よりもホストした回数の方が多いという、どちらかといえば少数派の人たちだ。
もちろん私はそういう人の方を好んでホストしたい。
男性の方の名はクラウディオという。
いかにもイタリア人らしい名前だ。
そして性格もイタリア人らしく、常にほほ笑みをたやさない。
だがかなり小柄で、どこか押しの弱そうなところがある。
私と気が合いそうだ。
ところが彼はその外見とはうらはらに、格闘技が大好きなんだとか。
空手やカンフーをかなり練習したそうで、実はかなりの猛者なのかもしれない。
そんなクラウディオの本職はミュージシャン。
それもかなり激しい音楽をやるらしい。
彼のバンドはフェイスブックにページを作っていて、私も無理やり友達にさせられた。
「マサト、ここを押せ、押せ」
とクラウディオに言われ、なかば強制的に「いいね!」を押さなければならないはめになってしまった。
そのバンドの名前はイタリア語で
「戦車をぶっとばせ!」
なかなか過激なネーミングだ。
フェイスブックのプロフィール写真ではたしかに戦車がひっくり返っていた。
彼のコンサートに行く時には、耳栓が必要かもしれない。
女性の方の名前はサラという。
「いかにもイタリア人」といった感じの、なかなか美人なお姉さんだ。
性格の方もよさそうで、美人にありがちなお高くとまったところがない。
彼女もクラウディオと同じく、どこかおどおどしたところがある。
「人見知りをするイタリア人」というところが気に入った。
このカップルとはうまくやっていけそうだ。
サラの職業はダンサー。
ひととおりなんでも踊るが、専門はフラメンコ。
フラメンコ? イタリア人なのに?
と私が不思議そうな顔をしていたら、
「スペイン人の血もまじってるのよ」
と彼女が説明してくれた。
さらに彼女はコンタクト・ジャグリングのパフォーマーでもある。
普通のジャグリングは数個のボールを同時に空中に放り投げるものなのだが、
コンタクト・ジャグリングはそれとは少し違う。
首から肩、腕にかけてボールを転がしたり、
まるで手のひらや甲にボールが吸いついたかのような不思議な動きを披露したりする。
「マサト、あなたジャグリングをやるの?!」
私の部屋にあったジャグリング・ボールを見つけた彼女は目を輝かせて言った。
ボールをいくつか手に取り、さっそくコンタクト・ジャグリングを実演してくれた。
まるでマジックを見ているような、幻想的な気分になった。
カウチサーフィンをしていると、普段は出会えないような種類の人たちと出会うことができる。
いつの日か、クラウディオの演奏するギターにあわせてフラメンコを踊るサラの姿を見る時が来るのだろうか。
夜は3人で嵐山の鵜飼を見に行った。
彼らは鵜飼いのことがとても気に入ったようで、おおはしゃぎしながら写真を何枚も撮っていた。
人によってはつまらなさそうにする鵜飼いだが、楽しんでもらえたようでほっとする。
その日の夕食は私の家で食べた。
ビールを飲みながら、そうめんをすする。
少しは日本の夏を味わっていただけただろうか。

私より背の低いクラウディオと、私より背の高いサラ。
見た目はなんともアンバランスなカップルだが、
二人ともおっとりとしていて、妙にしっくりとしていた。
今度イタリアを訪れる時には、ぜひ彼らの家に寄ろうと思う。
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