おとうさんといっしょ
だが、ただのゲストではない。
今回私の家を訪れるのは、あのメイサンなのだ。
最後に彼女とシンガポールで会ったのは1年ほど前。
いろいろと紆余曲折があり、我々が顔を合わすことはもう二度とないであろうと思っていた。
しかし、なんの気まぐれか、彼女はまたもや京都にやって来ることに決めたらしい。
去年彼女が京都を訪れた時に、ほとんどの観光名所は行き尽くしてしまったはずだ。
それなのに、なぜまた?
メイサンには、30歳になるまでに世界中の国を訪問するという野望がある。
一度訪れた国に再びやって来るようなヒマなどないはずだ。
ただの観光とは考えにくい。
これまでに私と彼女との間に起こった出来事を素直に考えると、彼女が私の家にやって来るというのはとても不自然なことのように思われる。
メイサン、いったい君は何を考えているんだ?
俺にはさっぱりわからないよ。
・・・・・・
京都駅から嵐山に向かうバスの中から、メイサンは電話をかけてきた。
「もうすぐ着くから」
まぎれもない。なつかしいメイサンの声だ。
と、それと同時に、彼女の背後から聞き覚えのある声も聞こえてきた。
どうやら彼女はお父さんも一緒に連れてきたらしい。
そうか、そういうことなのか。
だとすると、私の期待していた展開は望めそうにないな。
・・・・・・
メイサンのお父さんは京都に来るのはこれが初めて。
そこで、やはり定番の観光スポット、金閣寺へと行くことになった。

(メイサン(右)と彼女のお父さん(左)
彼が首からぶら下げているのは双眼鏡ではない。
なんと、3Dで録画できてしまうというビデオカメラなのだ。
けっこう値が張る代物だと思うのだが、
「面白そうだから」という理由だけで彼はポンと買ってしまったらしい。
金持ちのすることはよくわからん。
せっかく買ったばかりの3Dカメラ。
さっそく使ってみたいという気持ちはよくわかるが、ビデオカメラを構えるお父さんの姿はものすごーく怪しい。
まるで一昔前のスパイのように挙動不審に見えてしまうのだ。
こんな人のことを将来、「お義父さん」と呼ばなければならないのだろうか・・・

(シンガポールからやってきた怪しいスパイ。金閣寺にて)
父親が父親なら、娘も娘だ。
メイサンは金閣寺などそっちのけで、地面を指さしてなにやら騒いでいる。
「なにをそんなにはしゃいでるんだい、メイサン?」
「ちょっとこれ見てよ、マサト。日本にはこんなものがいるの?」
「え? なになに?」
「人の顔を持つクモよ。人面蜘蛛よ、人面蜘蛛!」

おお、本当だ。
笑っている人の顔みたいに見える。
たしかに珍しいけどさ、せっかく金閣寺に来てるんだから、もっと観光しようよ。

(金閣寺)

天気は快晴。絶好の観光日和。これは楽しい数日間になりそうだ。
それにしてもメイサン、君はなぜお義父さんを連れてきたりしたんだ?
まさか俺に襲われるとでも思ったか。
知り合ってもう一年にもなろうというのに、信用ないんだな、俺。
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