銭湯の女神

(渡月橋を背景に)
今回のカウチサーフィンのゲストは中国の北京から。
ヴィヴィアンは北京大学卒の才媛で、現在はアメリカ系企業に勤めています。
北京大学って日本でいえば東大にあたるんじゃなかったっけ?
しかしヴィヴィアンの性格はおっとりとしていて、とてもエリートには見えません。
ただ、外資系企業で働いているというだけあって、彼女の英語はネイティブなみです。
ピークは過ぎたとはいえ、まだまだ桜は楽しめます。
天気も快晴。
そしてなにより、とびきりの美少女と歩く嵐山!
今日も楽しい一日になりそうだ。

ワンちゃんたちも京都の桜を満喫しているようです。

嵐山名物「ゆば」を使ったソフトクリーム。
ヴィヴィアンが私の分も買ってくれました。
ふたりでソフトクリームをなめながら向かった先は、天龍寺!

天龍寺の周辺には、小さなお寺がいくつか点在しているのですが、
ほとんどの観光客は、天龍寺へと一直線に向かいます。
こんなマイナーなお寺には目もくれません。
そのため誰もいないお寺は、私たちふたりだけの貸し切り状態。
なんだか、こっそりデートしてるみたいで、ドキドキするねえ。

遅咲きの桜が咲き誇っております。

現在、天龍寺は改修工事中なのですが、庭園だけでもひと目見ようと観光客が押し寄せてきます。
日本人だけでなく、台湾や中国からのツアー客もなだれこんできて、それはもう大騒ぎでした。
あまりの人混みに、写真を撮るのも一苦労。
私の前でカメラを構えていた男性がいたのですが、
なんと、一人の女性がそのカメラを「ぐいっ」と手で押しのけて通っていきました。
ヴィヴィアンが申し訳なさそうに謝ります。
「ごめんなさいね。同じ中国人として恥ずかしいわ」
その時たまたま中国人の観光客のグループがいたので、その乱暴な女性は中国人だとばかり思っていました。
しかしすぐその後で、くだんの女性は日本人だということが判明。
穴があったら入りたい。

ヴィヴィアンは天龍寺がいたく気に入ったもよう。
カメラを持って走り回っています。
そんな彼女をながめていると、なんだかじんわりとあたたかくなってきました。

カメラを向けると、にっこりと笑ってポーズをとってくれるヴィヴィアン。
こういう人と一緒にいると、何をしても楽しいもんです。

天龍寺の庭園は広く、桜以外にもいろんな花を楽しむことができます。

曹源池の対岸。
この後は竹林を抜けて、嵯峨野めぐりです。

奥の方に見えているのは、落柿舎。

「紅葉の馬場」で有名な二尊院。

足を伸ばして、ついに化野までやってきてしまいました。
このエリアは、外国人には不評なことが多いので、普段はあまり来ません。
「見る人を選ぶ」コースなのです。
ヴィヴィアンはといえば、もちろん大満足。
「あ・ら・し・やま、あらしやま~」
と勝手に歌を作って歌っています。
太陽が山の陰に入ってしまい、急速に暗くなってきました。
あれほどたくさんいた観光客たちも、潮が引くようにいなくなってます。
まだまだ嵐山を堪能したそうなヴィヴィアンですが、さすがに今日はたくさん歩いたので、ここらで休憩にすることにしました。

ヴィヴィアンは一冊の本と一緒に旅をしています。
タイトルは、「門外漢的 京都」。
もともとは台湾で出版されたものらしいのですが、翻訳されて、中国版もあります。
ヴィヴィアンが持っているのは、もちろん中国語版

この本が推奨するコーヒーショップを探してウロウロ。
丸太町通りはもう何百回も通ってますが、コーヒー豆になんか興味のない私は、こんな所にお店があることすら知りませんでした。

このお店は外国人観光客向けではないので、英語のメニューなんて置いてありません。
コーヒーの銘柄なんてまったく知らない私に翻訳しろなんて無理な話です。
でも、よくよく話を聞いてみると、ヴィヴィアンだってコーヒーのことなんてなんにも知らないらしい。
ただ本に載ってたから来てみただけなのだと。
結局ふたりとも、「当店のスペシャル・ブレンド」とかいうコーヒーを注文しました。
コーヒーができあがるまでの間、ヴィヴィアンは大きなカメラを片手に、お店の中をウロウロ。
なんの変哲もないコーヒーショップの写真を撮りまくっている彼女のことを、
他の客は奇異な目で見ています。
「みなさーん、彼女は日本人じゃないんですよーっ!
中国から来た観光客なんですぅー!」
とふれてまわりたかったです。

お腹がすいてきたので、今度は食事のできるお店に移動です。
もちろん、彼女の本が推奨するお店。
あ、この店は知ってる!
嵐山を紹介する雑誌によく載ってる場所だ。
この店の前を何百回も通ったことあるけど、実際に中に入るのは初めてです。
カウチサーフィンのおかげで、また経験値が上がったぞ。

このお店は、もともとは銭湯だったのを、おしゃれなカフェに改装したものです。
彼女の後ろにたくさんのシャワーがあるのが見えるでしょうか。

あちこちに、その昔、銭湯だったころのおもかげが残っています。
これは水風呂の跡か?

体重計まである!
しかし、ヴィヴィアンはけっして上に乗ろうとはしませんでした。

例によって、店内の写真を撮りまくるヴィヴィアン。

カウチサーファーと仲良くなれたかどうかのバロメーターの一つに、写真があると思います。
本当に親しくなったら、お互いに写真を撮るのが自然な流れですよね。
悲しいことに、何日も泊っていっても、私の写真なんか1枚も撮らなかった人だってたくさんいました。
その点、ヴィヴィアンは違います。
私の写真をバシャバシャ撮ってくれます。
「マサトー、ちょっとここに立ってー」
と要所要所で必ず私の写真を撮るのです。
もちろん、悪い気はしません。
彼女の思い出の一部になれるのだとしたら、こんな光栄なことはありません。
さらにうれしいことに、彼女は私のことをなにかとほめてくれます。
「まさと、足ながーい!」
「スタイルいいー。モデルさんみたーい」
たぶん目の錯覚だと思うぞ、ヴィヴィアン。
俺の体型のことは、自分が一番良く知ってるから。
そしてあろうことか、
「まさとってハンサムねー」
とまで言い出す始末。
これまでの長い人生において、女の子に「ハンサム」と言われたことなんて一度もありません。
いったい俺のまわりで今、なにが起こってるんだ?!
彼女の目はゆがんでいるのだろうか。
それとも、もしも本当に彼女の目には俺がハンサムに見えてるのだとしたら、
それは少なからず彼女が俺に好意を抱いている、ということになるんじゃないだろうか。
いやいや、あまり深く考え過ぎるな。
単なるリップ・サービスに決まってるじゃないか。
落ち着け、落ち着け、落ち着け・・・


もっとヴィヴィアンに近づいて写真を撮りたかったけれど、
ふたりの間にあるシャワーヘッドが邪魔をします。
あせることはないさ。
彼女は今夜も俺の家に泊るんだ。
時間ならたっぷりある。

食事を終えて、お店の外に出る頃には、あたりはすっかり暗くなっていました。
今夜は長い夜になりそうだ。
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家に帰り着くなり、いきなりヴィヴィアンは荷造りを始めた。
いったいなにをしてるんだ?
彼女はたしか私の家には2泊するはず。
彼女に聞いても、あまり要領をえない答えが返ってくるばかり。
どうやら彼女は今夜、別の場所に泊るようだ。
私の家に来る前、ヴィヴィアンは別のカウチサーファーの家に泊っていた。
聞けば、そのホスト氏はイケメンの京大生らしい。
住んでるマンションもお洒落で小ぎれいなんだと。
なるほど、そういうことか。
すべてのスペックにおいて、彼は私を凌駕しているというわけだ。
彼女の選択は間違ってはいない。
それにしても解せんのは、さっきまでの彼女の態度。
あれほど親密だったのは、いったいなんだったのだろう。
いろいろと妄想を膨らませちゃったじゃないかよ。
ヴィヴィアンは明日もう一日京都を観光した後、奈良へと向かう。
その後また、京都に戻ってくるのだとか。
「来週には京都に帰ってくるから、その時はまた一緒に遊んでねー、まさとー」
はいはい。
女というのは、まったく理解不能な生き物だ。
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