ありふれた日常
理由は単純。
彼女がトトロに似ているからだ。


ね?
似てるでしょ。
しかし、トトロってオスじゃなかったっけ。
仕返しと言ってはなんだが、メイサンは私のことを「のび太」と呼ぶ。
トトロとのび太。
なんとも間の抜けたコンビだ。
メイサンとは時々スカイプで話をする。
長い時など、数時間もスカイプをつなぎっぱなしという日もある。
といっても、ずっとしゃべっているわけではない。
むしろ、黙っている時間がほとんどだ。
お互いの姿をモニター越しに見えるようにした状態で、
各々が勝手なことをやっている。
本を読んだり、パソコンをいじったり。
そんな状態が数時間も続くと、ふと、相手がそこに存在していることを忘れてしまうことがある。
部屋の中に独りでいるような気持ちになってしまう。
そして、やらかしてしまった。
ぼむっ。
いつものクセで、大きなおならをしてしまった。
しまった。
油断した。
メイサンは気付いたかな?
気づいてないよな。
俺のおならの音が、はるばる海を越えてシンガポールまで飛んでいったりはしてないよな。
ここは何事もなかったかのように、素知らぬ顔をしているのが得策というものだ。
しかしメイサンは何かを察知したらしい。
彼女の動きが止まった。
こっちを見てる。
じーっと見てる。
彼女と目を合わせちゃダメだ。
平静を装うんだ。
俺はおならなんかしていない。
俺はおならなんかしていない。
俺はおならなんかしていない。
チラッとメイサンの様子を確認する。
うわあ、まだこっちを見てるよ。
パソコンのモニター越しなのに、メイサンの視線を痛いほど感じる。
やはりバレてたか。
もう耐えられない。
スカイプの映像をオフにした。
「恥ずかしい。死にたい。」と私が言うと、
メイサンは、「死なないでー」と言った。
本当にそう思うんなら、なんであんなにジロジロと俺の顔を見るんだよ。
気付いてないフリをしてくれたっていいじゃないか。
それが大人の対応ってもんだろ。
スカイプは映像と音声しか伝えないんだ。
臭いまではそっちに行ってないんだから、迷惑はかけてないだろ。
メイサンと知り合ってから数カ月。
ずいぶんと親しくなった(と私は思っている。)
たわいもないことで笑ったり、怒ったりする、ありふれた日常の風景。
なんでもないような事が、実は一番幸せだったんだな。
こんな日々がずっと続けばいいのに、と思っていた。
こんな日々がずっと続くのだと思っていた。
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