あっち行けよ(ラオカイ、ベトナム)
結局ほとんど眠れなかったのだが、「疲れた」なんて言っている場合ではない。
サパはもう目の前なのだ。
もともと今回のベトナム訪問では、サパを訪れる予定はなかった。
しかし、サパ近郊には黒モン族や花モン族などの少数民族がいると聞いて、ぜひとも行ってみたくなったのだ。
列車が到着すると同時に、何人かの人間が乗り込んでくる。
彼らは乗客ではない。
タクシーや乗り合いバスの客引きだ。
そのうちの一人が私に話しかけてきた。
「どこまで行くんだ?」
サパ。
「ちょうどサパ行きのミニバスが出発するところだ。
案内するからついてこい。」
いくら?
「100000ドン」
ガイドブックには40000ドンと書いてある。
倍以上の値段だ。
いらない、と言っても、その男は私にしつこくまとわりつく。
ラオカイ駅の周辺には、列車の到着時刻に合わせて、多数の乗り合いバスが待機している。
そのうちの一台の運転手に、サパまではいくらか聞いてみた。
すると、例の男が割り込んできて、
「100000ドンだ。100000ドンって言え!」
と運転手に強要する。
すると運転手は、
「う、うん。そうだ。100000ドンだ。」
とうわずりながら答えた。
あきらめて別の運転手と値段交渉をしようとしても、また例の男が邪魔をする。
なんなんだ、こいつは。
頭にきた。
意地でもこいつの斡旋する車には乗らないぞ。
乗り合いタクシーではなく、普通の路線バスの方に向かうと、例の男は
「そのバスはハノイ行きだ!」
と叫ぶ。
ウソつけ。
窓ガラスにはデカデカと「サパ」って書いてあるじゃないかよ。
だが、バスの運転手は見当たらない。
他に乗客の姿もなく、すぐには出発しそうになさそうだ。
時刻表もないので、このバスがいつ動くのかわからない。
ガイドブックには2時間間隔で運行、と書いてある。
一刻も早くサパに行きたいんだ。
こんな所で時間を無駄にはしたくない。
バスは諦めて再び乗り合いタクシーの運転手と交渉しようとしたのだが、
みんな例の男をおそれているようだ。
「彼の車に乗りなよ。」
そう言って逃げてしまう。
どうやらこのいけすかない男の車に乗るしかなさそうだ。
100000ドンといっても、日本円にするとわずか400円ほど。
たいした額ではない。
だが、どうにも釈然としない。
なりふり構わぬこの強引な商法は、ベトナム人に共通のものなのだろうか。
それとも、この男が強欲なだけなのか。
きっと両方だな。
乗り合いタクシーの他の乗客はみんなベトナム人のようだ。
彼らが100000ドン払っているようには見えない。
またしても外国人料金か。
寝不足のせいもあって、イライラ、むしゃくしゃしていたのだが、
そんな気分はすぐに吹っ飛んだ。
「おおっ! これが・・・サパ・・・か」
この地を訪問することにした私の判断は間違っていなかった。
山道をひたすら駆け上る車の窓の外には、雄大な景色が広がっている。
時折、眼下に雲が見える。
カメラを構えるのも忘れて、神秘的な山や谷に見とれてしまった。
なんて美しい国なんだ、ベトナムは。
ちらほらと、少数民族の人たちの姿も見える。
彼らの来ている伝統的な衣装はとても魅力的だ。
なんとかして彼らの村に泊ることはできないものだろうか?
メーホーソンの首長族の人たちとの記憶が頭をよぎる。
なんだかドキドキしてきた。
サパは予想以上に私を楽しませてくれそうな予感がする。
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