眠りたい、眠れない(ハノイ-ラオカイ、ベトナム)
窓口で、
「一番安い切符」
を頼んだら、料金は予想以上に安かった。
「地球の歩き方」では、ベトナムの電車の座席のカテゴリーとして、
ソフトベッド、ハードベッド、ソフトシート
の3種類をあげている。
私が購入したのは、これらのいずれでもない、ハードシート。
おお、これこそ、「ガイドブックに載っていない旅行」じゃないか!
などと浮かれている場合ではなかった。
このハードシート、本当にハードなのだ。
木製の座席はゴツゴツとして硬い。
30分も座っていると、お尻が痛くなってくる。
私はたまりかねて、シャツやらタオルやらをお尻の下に敷いた。
でも、周りの乗客は誰もそんなことをしていない。
ベトナム人のお尻は頑丈なのだな。
次に、座席は4人掛けのコンパートメントなので、他人と向かい合っていなければならない。
それも一晩中。
想像してもらえればわかると思うが、これはかなり気まずい。
数十分や数時間ならまだ耐えられる。
でも、一晩中はキツイ。
当然、足も伸ばせない。
リクライニングなんて気の利いたものは存在しないので、
背筋を90度に保ったまま眠ることになる。
車内にエアコンは無いので、窓は開けっぱなし。
これがまたうるさい。
列車はかなり旧式で、騒音をまき散らしながら走っている。
振動も激しい。
こんな状況で眠れというのはかなり無茶だと思う。
だが、眠らねばならない。
明日は朝からサパを観光するつもりなのだから。
私の座席の前に座ったのは母娘の二人。
彼女たちの風貌は純粋なベトナム人とは異なり、中国系のようだ。
ラオカイは中国との国境の町。
しかし、私の目の前にいるこの二人は中国人ではなく、山間部に住む少数民族のようだ。
民族衣装のような服を着ているし、独特の装飾品を身につけている。
この母娘、ずっと手をつないだままだ。
最初は気にもとめなかったのだが、なんだかおかしい。
異常にベタベタしている。
娘は母親にしなだれかかり、母親は娘の髪や肩をなでまわしている。
まるで歳の離れたレズビアンカップルのようだ。
娘と言っても、おそらく20歳は超えているだろう。
彼女たちの親密っぷりは、親子の愛情の範疇を大きく逸脱している。
彼女たちの方を見るわけにもいかず、ずっと窓の外を見ていた。
とはいっても、外は真っ暗で、景色なんて何も見えないのだが。
何時間も右を向いていたせいで、首が痛くなった。
このハードシート、外国人の旅行者はあまり利用しないと思う。
ベトナム人ですら、ソフトシートか寝台車を利用するのではないのだろうか。
そういうわけで、この過酷な車両を利用するのは比較的貧しい人たち。
治安もあまりよくないと推察される。
一人の男が隣の車両から歩いてきた。
我々のいる車両を通り過ぎ、隣の車両に移ろうとしたとき、誰かが叫んだ。
男は振り返り、声の主をにらんでいる。
その後、手に持っていたものを床に叩きつけて、隣の車両に行ってしまった。
どうやら彼は通り過ぎざまに、誰かの食べ物をかすめ盗ったようだ。
人のおやつを盗むなんて、なんてセコい・・・
食べ物くらいならまだいいが、貴重品を盗まれないように気をつけねば。
うつらうつら居眠りをしていると、急に車両内の空気が張り詰めたものに変わった。
目を覚まして見てみると、例の男が歩いていく。
はっ!
何か盗られたものはないか?
あわてて貴重品をチェックする。
財布、ipad、デジカメ。
よかった、全部ある。
ホッとしたらのどが渇いた。
あれ?
水の入ったペットボトルが無くなっている。
ああ、朝まで水が飲めないのか。
ひもじいな。
それにしても、どんだけセコいんだよ、ベトナムの泥棒は。
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