リュブリャナでカウチサーフィン















リュブリャナでカウチサーフィン
今朝もソーニャが朝食を作ってくれた。
しかもバス停までドラガンが車で送ってくるらしい。
今日はポストイナ鍾乳洞に行くので、寒いだろうからとパーカーとマフラー、帽子をくれた。
どこまで親切なんだこのカップルは。
ピラン行のバスなので、ポストイナで降りた乗客は私を含めて二人。
あまり人気ないのかな、ここは。
ポストイナ鍾乳洞のツアーは10:00からなのでしばらく待たなければならない。
その間に絵葉書を3枚買った。
10:00近くになると、他の観光客がゾロゾロと集まって来た。
英語を話している人はほとんどいない。
今日と明日はスロヴェニアの祝日にあたるので、地元の人が遊びに来ているのだろう。
シーズンオフだというのにものすごい人出だ。
インフォメーションセンターで確認したところ、ドラガンが調べてくれたとおり、洞窟城へのバスは無いらしい。
洞窟城へはどうしても行きたいので、奮発してタクシーを使うことにしよう。
ポストイナ鍾乳洞にはトロッコ列車で入って行く。
ドラガン達からアドバイスされて、レインコートを着ていたのだが、それでも寒い。
鍾乳洞を見ていると、山口県の秋芳洞に行ったことを思い出した。
もう15年ほども前になるだろうか。
水に濡れた鉱石が 光を受けてキラキラ輝いているのを見ていると、小学生の時に買ってもらった学習用の図鑑のことを思い出した。
このヨーロッパ旅行中、ふとした事で昔の記憶が蘇ることがある。
毎日新鮮な体験をするせいで、脳が刺激されているのだろうか。
新しい経験と、古い記憶の再生が同時に起こる。
なんだか不思議な気分だ。
鍾乳洞の中は撮影禁止なのだが、誰もそんなルールは守っちゃあいない。
あちこちでフラッシュがたかれる。
「NO CAMERA!」
係員が制止しても、しばらくするとまたすぐに撮影大会が始まる。
もちろん私もカメラをポケットから取り出しましたよ。
トロッコ列車を降りたあとは、ガイドについて行動する。
だが、英語の説明はなかった。
鍾乳洞の中を 意味不明の騒音がこだまする。
狭い通路の中で、大勢の乗客が押し合いへし合いしている。
とても不快だ。
ガイドを通り越して、一人で前に進んで行った。
一人で鍾乳洞の中を歩くのは爽快だった。
ガイドのがなりたてるノイズがだんだんと遠ざかって行く。
今 私は、この広大な鍾乳洞を独占している。
そう考えると、ひどくワクワクしてきた。
だが、まったくの無音状態になると、急に不安になった。
もし道に迷ったら・・・
しばらく歩くと、プロメテウスの飼育されている水槽を発見した。
ガイドブックに書いてあるとおりだ。
どうやら正しい道を歩いているようだ。
このプロメテウスは、この洞窟の中にしか生息していない貴重な種なんだとか。
白くてヌメヌメして、かわいいが奇妙な生き物だ。
鍾乳洞の出口では、写真を販売していた。
いつ撮ったのか、トロッコ列車に乗った乗客の写真が貼り出されている。
6ユーロ。
少し高いが 記念に買っておいた。
次は洞窟城だ。
タクシーの手配をするためにインフォメーションセンターに行った。
係りの人にタクシーを呼んでもらっていると、東洋人の女の子が話しかけてきた。
「日本人の方ですか。
私たちも同じ場所に行くんです。
よかったらタクシーをシェアしませんか?」
もちろん大歓迎だ。
それにしても、なぜ私が日本人だとわかったんだろう。
あっ。
「地球の歩き方」を持ってるからか。
彼女達は大阪から来た看護士の女の子二人組。
久しぶりに日本語で話した。
良かった。
まだ忘れてない。
タクシーの運転手は陽気な男で、片言の日本語を話す。
彼には洞窟城前で一時間待ってもらう事になった。
今日はこれ以上ないほどの快晴。
洞窟城はやはり写真で見る以上に美しかった。
せっかくチケットを買ったので、中も見物したがすぐに出てきた。
外から眺める方が数段美しい。
リュブリャナに着くと、またもやドラガンが迎えに来てくれている。
なんでそこまでしてくれるんだ。
不思議で仕方がない。
これまでホストしたカウチサーファーからは、日本人は世界で一番親切だと聞かされてきた。
そんなことはない。
そこらの日本人なんかよりももっと素晴らしい人は世界中にわんさかいる。
ソーニャは私のために、スロヴェニアの伝統料理、クルヴァヴィツァを作って待っていてくれた。
それだけではない。
プレクムルスカ・ギバニツァという舌を噛みそうな名前のお菓子をわざわざ買ってきてくれたのである。
「地球の歩き方」の推奨する伝統的な料理やデザートを一通り私に食べさせようと、いろいろと考えていてくれたらしい。
気持ちはありがたいが、少しやりすぎでしょう。
私は一体どうやってお返しをすればいいんだ。
それだけではない。
再び旧市街、特にリュブリャナ城に車で連れて行ってくれるというではないか。
「これでマサトはスロヴェニアの主な見所は網羅したことになるでしょ」
とソーニャは言う。
ダメだ。
泣きそうだ。
ソーニャは大学で観光学を学んでいたのだが、そのカリキュラムの中には写真撮影の技術も含まれているらしい。
「マサトのカメラを貸して」
と言っては、頻繁に私を写してくれる。
本当に気配りが細やかだ。
そろそろザグレブ行の電車の時刻が迫ってきた。
彼らの車でリュブリャナの駅へと向かう。
最後にドラガンとソーニャは、ドラゴンのキーホルダーをくれた。
私がリュブリャナのドラゴンを大いに気に入った事を覚えていてくれたらしい。
本当に泣きそうになった。
彼らと過ごしたのはたったの二日間だけだ。
でも、ドラガンとソーニャのことは一生忘れる事はできないだろう。
ありがとう。
彼らのおかげで、スロヴェニアの事が大好きになった。
ザグレブ行の電車は20分ほど遅れるらしい。
ヨーロッパではよくある事だ。
もう慣れっこさ。
だが、30分が経過してもまだ来ない。
アナウンスでは何か言っているが、英語ではないので理解出来ない。
インフォメーションに確かめに行った。
係りの女の人はめんどくさそうに言う。
「今 来たわ。
走って。」
「走って」って・・・
私の乗る予定だった列車はもう動き出しているじゃないか。
ホームまでは遠い。
走っても間に合わないことはわかりきっている。
だが、走らずにはいられない。
遠くに去って行く列車を眺めていると、途方もない絶望感に襲われた。
ドラガンとソーニャとの感動的な別れなんて、どこかに吹き飛んでしまった。
ウソだろ?
この列車に乗らないと、全ての計画が狂ってしまうんだぞ。
今回の旅のハイライト、ドブロブニクはもう目の前だというのに・・・
どうしようも無い事はわかっていたが、インフォメーションセンターに行かずにはいられなかった。
インフォメーションセンターに行ったが、やはりどうしようもなかった。
係りの女性は、今度は少し親切だった。
よほど私が哀れに見えたらしい。
仕方がない。
行けるところまで行って、少しでも距離を稼いでおこう。
いったい今夜はどこで寝る事になるのかな。
なんとかザグレブにはたどり着いた。
だが、スプリット行の夜行電車はもうない。
だがバスならあるかもしれない、と駅員は言う。
バス停は駅の近くにはなく、少し歩かなくてはならない。
途中、24時間営業の郵便局に寄った。
通貨を両替するためだ。
だが、夜間はやっていないと言う。
こんな夜中にお金も持たずにさまようのは心細いことこの上ない。
どうしようかと思っていたら、すぐそこにATMがあるではないか。
郵便局員も不親切だな。
ATMの存在を教えてくれてもよさそうなものなのに。
とにかく軍資金は手に入った。
これでなんとかなるだろう。
だが、バスターミナルはどこだ?
トラムの駅で女の子二人組に聞いてみた。
隣の駅らしい。
両替したばかりで小銭を持ってない、と私が言うと、
「こんな夜中に検札なんて来ないわよ。
切符なんていらないわ。
私たちも買ってないし。
ギャハハハ!!!」
この娘たちを信じてもいいのだろうか。
結局 無賃乗車してしまった。
幸い、スプリット行のバスはあった。
しかも、電車を使うよりも早く着く。
怪我の功名というやつか。
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