ゲイとヌーディストとカウチサーフィン。






















ゲイとヌーディストとカウチサーフィン。
秋のヨーロッパの朝は遅い。
10時間以上眠ったにもかかわらず、あたりはまだ薄暗い。
お尻に痛みは感じない。
どうやら私の貞操は守られたらしい。
だが、まだ油断は禁物だ。
一日目で安心させておいて、二日目に何かしかけてくるかもしれない。
彼には挙動不審なところはあるが、とても親切だ。
この日も朝食を用意してくれ、市内観光のアドバイスをくれた。
今日のメインはシェーンブルン宮殿。
混むことはわかりきっていたので朝一番に行った。
てっきり有料だと思ってチケットを買ったのだが、庭園を見るだけなら無料だった。
しまった、損した。
前述したように、私は宮殿の豪華な内装や歴史にはあまり興味はない。
それでもせっかくチケットを買ったのだからシェーンブルン宮殿の中に入った。
たまたま日本人の団体客が、日本語で説明を受けていたので彼らの後をついてまわった。
が、あまりにも移動スピードが遅い。
さっさと追い越してしまった。
私の目的は庭園を見ることなのだ。
ガイドブックなどの写真でシェーンブルン宮殿のことは知っていたが、これほどまでに美しいとは思わなかった。
ただのだだっ広い庭なのだが、なぜか感動した。
これで色とりどりの花が咲き誇っていたら感涙ものだろう。
次回は春か夏に来よう。
このシェーンブルン宮殿が大いに気に入ったので、チケットに含まれているコースを全て見学することにした。
もちろんGlorietteにも登った。
まだ観光客は少なく、Glorietteの上には私一人しかいない。
この素晴らしい眺めを独占できて光栄だ。
途中 ベンチで休憩していると、リスが寄ってきた。
リスといっても、日本の猫くらいの大きさがある。
動き方も変で、かわいいというよりも不気味だ。
Mazeにも挑戦した。
所詮は子供向けのアトラクションだと思っていたら、なかなか展望台まで近づけない。
かなり時間を費やしたのにダメだった。
これは他の客も同じで、みんな何度も同じ道を辿ってウロウロしている。
これ以上時間をロスするのは勿体無いと判断して諦めた。
すると、別の場所に展望台への直通コースがあるではないか。
なんと意地悪な作りなんだ。
展望台までたどり着けたのは私一人。
他の人たちが羨ましそうに迷路の中から私を見上げている。
しばし優越感に浸った。
とにかくシェーンブルン宮殿が気に入った。
出来れば一日中いたい。
この感動を誰かと共有したかったので絵葉書を書くことにした。
ペギーとマリアとエマ。
エマの住所は聞いていなかったので電話した。
彼女の声を聞くと、なんだかホッとする。
エマが心配するといけないので、ゲイでヌーディストのカウチサーファー宅に泊まっていることは伏せておいた。
次はBelvedere宮殿だ。
シェーンブルン宮殿での教訓を生かし、ここではチケットは買わなかった。
無料で広大な庭園を散策できるのだ。
だがあまりにも敷地は広かった。
文字通り足が棒になった。
それでも貧乏性な私は、敷地内を全て歩かなければ気が済まなかったのだ。
歩き疲れたので、トラムで再びStephansdomへと向かう。
ここは昨日も来たのだが、カールが勧めてくれたレストランがあるのだ。
さすが地元のカウチサーファーが推奨するだけあって、申し分ないレストランだった。
あらかじめカールに聞いておいた料理を注文する。
そういえば、ヨーロッパで一人でレストランに入るのはこれが初めてだ。
しかも観光客用のレストランではなく地元民御用達の場所だ。
ちょっと緊張した。
スープとメインディッシュ、パン、それにサラダバーまでついて1000円ほど。
もちろん本格的なオーストリア料理。
しかも観光地のど真ん中にあるのだ。
これは安い。
改めてカールを見直した。
そしてカウチサーフィンをしていてよかったと感じた。
チップを1ユーロ渡したら、えらく感激された。
きっと、みすぼらしい東洋人からチップをもらえるとは期待していなかったのだろう。
今日はこれで観光はおしまい。
カールの家はなんでも揃っているのだが、Wi-Fiは使えない。
私のiPadは使えないのだ。
そこで例のごとくマクドナルドの電波を借用する。
まだザグレブでのホストは見つかっていない。
今まで何件もリクエストを送っているのだが、なかなか良い返事が帰って来ない。
カウチサーフィンには不確定な要素も多い。
少し焦る。
ザグレブでホスト可能な人は400人を超える。
だからホスト探しは楽だろう、とタカをくくっていた。
まあいいか。
もし見つからなければ駅で寝ればいい。
今夜もカールが地元のレストランへ連れて行ってくれた。
食事中、あいかわらず彼はニヤニヤしながら私の唇を見つめている。
今夜こそ襲ってくるつもりなのだろうか。
カールがデザートを頼んだ。
これはかつて皇帝も愛したというほどの絶品だ。
だが彼が頼んだのは一つだけ。
どうやら二人で一緒に食べようということらしい。
想像して欲しい。
大の男が一つのケーキを顔を付き合わせて食べる光景を。
ごめんなさいお父さん、お母さんペギー、そしてエマ。
家に帰るとさっそくカールは全裸になる。
彼のモノがブラブラしていてももう気にならない。
慣れとは恐ろしいものだ。
たまたま今夜は夏時間から冬時間へと変更する日に当たった。
時計をあわせ直さなければならない。
日本ではできない経験だ。
カウチサーフィンを利用していなければ、きっとこのことに気づかなかっただろう。
海外旅行初心者の私にとって、カウチサーファーは頼もしい存在だ。
が、カールに新たな疑惑が浮上した。
トイレを汚してしまったので、ブラシの場所を聞いたら無い、という。
トイレ掃除にブラシは使わないというではないか。
じゃあどうやって掃除すればいいんだ、と聞くと、後でカールがきれいにしておくからマサトは気にしなくていい、と言う。
まさかカール、そっちの趣味まであるのか?
カールの性癖についていろいろと書いてきたが、彼はとてもいい人だ。
気配りもよくゆきとどいて居て、親切。
彼のマンションはとても快適で、洗濯機や乾燥機も借りた。
それになにより、私の体もきれいなままだったし。
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