ベルリン プラハ














ベルリン プラハ
ベルリンの駅の周辺には、時間を潰せそうな場所は何もなかった。
これだけ大きな都市なのに。
駅構内の店もほとんどが閉まっている。
体が冷えてきた。
とにかく温まらねば。
マクドナルドに入る。
本当なら地元でしか味わえない食べ物を食べたいのだが、ビッグマックとホットチョコレートを頼む。
てんないには、私と同じように大きな荷物を抱えた人たちが大勢いる。
ここで夜を明かすつもりだろう。
仲間がたくさんいて心強い。
夜中の2時ごろ、マックの店員に起こされた。
ドイツ語で何やら言っている。
他の客もゾロゾロと席を立っている。
24時間営業じゃなかったのか。
と思ったら、別の場所にみんな移動していた。
よくわからないが、寒い外に放り出されなくて良かった。
こんな状況でも意外と眠れるものだ。
朝の5時頃にはスッキリ目が覚めた。
電車とプラットフォームの確認をする。
予約は必要ないことは確認済みなので、乗り込むだけだ。
今日は楽な一日になりそうな予感がする。
強いて言えば、通貨の両替くらいか。
果たして、スウェーデンのクローネはチェコで受け取ってもらえるかな。
ハンガリー行きの電車の一等車は、ボックス席しかなかった。
まあいいか。
どうせ寝るだけだ。
昼前にプラハに到着。
駅で荷物を預ける。
ここの係員はえらく人懐っこく、話が止まらない。
きっとこの部署はヒマなのだろう。
私が日本人だと知ると、日本円のコインをくれないか、と聞いてくる。
なんとずうずうしい。
たまたまデンマークのコインが余っている。
もう必要ないのであげると、ほかの係員も飛んできた。
この国は貧しいのだろうか。
ここでのホスト、エヴァとマニュとの約束の時間まで四時間もある。
あいにくプラハは雨だったが、ひととおり市内を散策することにした。
駅を出た瞬間にわかった。
この街は今までのとは違う。
これまでにも美しい街を見てきた。
だが、プラハは別格だ。
街全体が息を飲むほど素晴らしい。
私は芸術に造詣があるわけではない。
それなのに、鳥肌が立った。
なんでもない道を歩いているだけで幸福な気分になれる。
ただ、やはり雨はやっかいだ。
片手に傘、もう片方の手にガイドブックとカメラ。
写真を取るたびに持ち替えなくてはならない。
ガイドブックも濡れてしまった。
貴重な「地球の歩き方」を何度も水たまりの中に落としてしまった。
やはり私は学習能力が低いらしい。
地図で現在位置を確認しながら歩いていたつもりだったが、何度も迷った。
それでもかまわない。
小さな路地ですら厳かな雰囲気を持っている。
むしろ迷ったほうがガイドブックに載っていない掘り出し物に出会える。
そう感じさせるほど、この街は全体がワクワクする。
もちろん有名な見所はやはり外せない。
国立博物館、ヴァーツラフの像、ティーン教会・・・
なかでも旧市街広場は圧巻だった。
ヤン・フスの像とミクラーシュ教会の組み合わせはとても絵になる。
ちょうど正午だったので、旧市庁舎のまわりはものすごい混雑ぶりだった。
そう、天文時計を見るためだ。
今日は雨なので、傘をさしているひとが多い。
それが混雑にさらに拍車をかける。
とても正面には回り込めそうにない。
なんとかポジションを確保したものの、肝心のカラクリ時計はそんなに大したことはなかった。
やはり私には芸術を理解する心が無いらしい。
その後ユダヤ人地区をウロウロする。
ここの建物は一味違った。
なんだか空気も冷たくなった気がする。
そしていよいよカレル橋を渡る。
いやあ、すごい すごい。
これぞ観光地。
さまざまな国の、いろんな人種の人たちが一斉に記念写真を撮っている。
もっとも典型的な観光地を一つ挙げなさい、と言われれば、私は迷わずカレル橋を渡る選ぶ。
欧米人は日本人と比べてそれほど記念写真を撮らない。
その彼らがシャッターを押したくてウズウズするほどこの場所は魅力的なのだ。
しまった。
時間を使いすぎた。
急いでプラハ城へと向かう。
上り坂を歩くのはきつかったが、距離的には大したことはない。
石畳の道は中世ヨーロッパを彷彿させる。
などと思っていたら足をくじきそうになった。
危ない危ない。
自分の体だけが頼りなのだ。
ここで捻挫などしたら身動きが取れなくなる。
プラハ城からは市内を一望することができる。
景色に見惚れていると、遠くから勇ましい掛け声が聞こえてきた。
衛兵の交代式が始まったらしい。
ガラムスタンの交代式は軍楽隊の演奏も長く、ショー的な要素が多かった。
ところが、ここプラハ城のは質実剛健だ。
一切の無駄が省いてある。
兵士の持っている銃も飾りではなく、実弾が入っているのでは?と思わせる雰囲気だった。
制服も戦闘服。
「いつでもやったるぞ こらあっ!」
という空気がピリピリ伝わってくる。
各国の衛兵の交代式はそれぞれ趣が異なっていて面白い。
衛兵の交代式マニアになりそうだ。
そろそろ約束の時間だ。
プラハ本駅に戻らねば。
待ち合わせの場所は駅構内にある本屋。
中で時間を潰していると、ロンリープラネットの西ヨーロッパ版を発見した。
本当は「地球の歩き方」が欲しいのだが贅沢は言ってられない。
これで手を打つことにした。
本屋周りをウロウロしていると、金髪の美少女が話しかけてきた。
エヴァだ。
写真で見るよりもずっと美人だ。
それにとても親切で、チェコ市内の交通システムについて丁寧に教えてくれた。
彼らのアパートへは地下鉄とメトロを乗り継いで行く。
距離的には大したことはないのだが、道順を覚えるのは大変そうだ。
だが、次からは自力でこの道を歩かなければならないのだ。
アパートではマニュが待っていた。
こちらも写真で見るよりもずっと男前だ。
そして今更気づいたのだが、彼らはとても若い。
私とは二回りほど年齢が離れている。
果たして、3日間 彼らとうまくやっていけるだろうか。
エヴァはスロバキア人。
マニュはフランス出身。
彼らはフィンランドで出会った。
そして今はチェコで暮らしている。
エヴァもマニュもとても知的で、話題が豊富だ。
とくに社会問題などの真面目な話が好きらしい。
ジプシーやプラハの春などの話題になると興奮して熱くなり、上着を脱ぐほどだ。
マニュはフランス語の教師のアルバイトをしている。
彼の仕事が終わった後、地元のレストランに連れていってもらった。
カウチサーフィンで宿代が浮く分、食事は豪勢にいきたい。
私一人なら注文もままならないが、今は彼らがいる。
典型的なチェコ料理を頼んでもらった。
もちろんチェコのビールも。
このレストランは独自の蒸溜所を持っているので、オリジナルのビールが自慢だ。
クネドリーキはもっと硬いのかと思っていたが、まるで肉まんのように柔らかかった。
ザウアークラウトは辛く、ビールのつまみにはもってこいだ。
だが、チェコのビールは強く、すぐに酔っ払ってしまった。
彼らも酔いが回ってきたのか、いちゃつき始めた。
お互いの体をまさぐりあっている。
目のやり場に困ってしまった。
会計は私がもったのだが、驚くほど安い。
三人でお腹いっぱい食べて、彼らはビールとパンのおかわりまでしたのに日本円で約2500円ほど。
この瞬間、私はこの国が大好きになった。
食事の後はすぐに寝たかったのだが、昨日はベルリンのマックで寝たのでシャワーを浴びていない。
いくらなんでも二日連続はマズイだろう。
彼らのシャワーを使わせてもらうことにした。
が、途中でお湯が出なくなった。
まだ石鹸の泡が体についているのに、冷たい水しか出ないのである。
心臓が凍りそうになった。
体を拭いた後エヴァに聞くと、よくあることらしい。
やはり日本は恵まれている。
自分がいかに温室で育ってきたか、今回の旅で思い知らされた。
ヨーロッパですらこれだ。
他の発展途上国はいったいどうなっているんだろう。
私の寝床はリビングルーム。
夜は一応個室になる。
快適だ。
だが、Wi-Fiが使えない。
彼らのパソコンを借りたが、できることが制約されてしまう。
あと、洗濯機も借りることはできたのだが、洗濯物を干すスペースは屋外。
今日は雨が降っているので使えない。
カウチサーフィンは万能ではない。
各ホストの家毎にいろんな制約がある。
それでもそれを上回るメリットのほうが圧倒的に多い。
- 関連記事