救急病棟6:30
朝早くにアレハンドラに起こされた。
なんだか泣きそうな顔をしている。
何かボソボソとつぶやいているのだが、
声が小さすぎて何を言ってるのかよくわからない。
だが、その表情からして、何か良くないことが起こったようだ。
どうやら病院に行きたいらしい。
時計を見ると朝の6時。
普通の病院はまだ開いていない。
119番に電話した。
アレハンドラは救急車までは必要ないというので、
近くの救急病院をいくつか紹介してもらった。
後は自分で電話して手配してくれとのこと。
ずいぶんとそっけないんだな。
私は健常者だから問題無いけど、
本当に重病の人だったら電話するのもしんどいはず。
教えてもらった病院へ電話をしたが、どこも門前払い。
「今は別の急患が・・・」
「当直の医師の専門外なので・・・」
「朝9:00にお越しください」
これがウワサに聞いた「たらいまわし」か。
埒があかないので一番近くの総合病院までタクシーで向かった。
だが、ここの対応も同じ。
「受け付けは8:30からですので、それまでお待ちください。」
アレハンドラが泣きながら言う。
「マサト、お願い。
今すぐ私を救急病院へ連れて行って。」
いや、だから、ここが救急病院なんだ。
この地区で最も大きな病院なんだ。
「私がこんなに苦しんでるのに、
なぜ、応急処置だけでもしてくれないの?
日本の病院は、死にかけてる人がいても、時間が来るまで待て、というの?」
確かにその通りだと思う。
チラッとでもアレハンドラの様子を見てもらいたい。
もう一度係の人にお願いしてみる。
だが、結果は同じだった。
アレハンドラは泣きながらブツブツと何か言っている。
ごめん。
でも、私には何もしてやることができない。
正規の窓口の受付が始まっても、煩雑な手続きが我々を待っていた。
アレハンドラはもちろん初診だ。
しかも日本の健康保険証を持っていない。
診察の前に、まずは手続き。
それはわかるが、苦しんでるアレハンドラを見てると、とてもかわいそうだ。
手続きが済んで診療科で待っていたのだが、
いよいよアレハンドラの様子が怪しくなってきた。
仕方なく、もう一度看護師さんに事情を説明して、とりあえず痛み止めだけでも処方してもらえないか、
と頼んでみたのだが、それもダメ。
アレハンドラがうらめしそうに私を見ている。
そんな目で見ないでおくれよ。
待合室でじっと順番を待っていたのだが、
なかなか前に進まない。
その間にもアレハンドラの症状はどんどん悪化している。
ついに見かねた受付の人が、お医者さんに取り次いでくれた。
薬を注入してもらい、しばらくベッドで寝かせてもらえることになった。
ふーっ。
ひとまずは落ち着けそうだ。
私もベンチでしばらく眠ることにした。
しばらくして看護師さんが私のところにやって来た。
「ご主人さん、奥さんが目を覚まされたので、診察をしたいと思います。
一緒に病室に来ていただけますか?」
「ご主人」!
不謹慎だが、思わずニヤけてしまった。
私たちは夫婦に見えるのだろうか。
あえて私たちの関係は説明しなかった。
カウチサーフィンの概念を理解するのは、一般の人には難しいだろうから。
「いや、実は昨日初めて会ったばかりなんですが、
彼女は私の家に寝泊まりしてるんですよ。」
なんて説明しても、話がややこしくなるだけだ。
その後も検査やら何やらであわただしかった。
健康体の私でももうヘトヘトだ。
病院がこんなに疲れる場所だとは・・・
アレハンドラは日本の健康保険証を持っていないので、
とりあえずは全額を自分で支払わなければならない。
金額がいくらになるのか心配していたのだが、
思っていたよりも高額ではなかったのでホッとした。

今、彼女は私の部屋で眠っている。
ドタバタしているうちに一日が終わってしまった。
海外で病気になるってこんなにも大変なことだったのか。
アレハンドラには悪いが、いい教訓になった。

ふと鏡を見る。
髪の毛はボサボサで、寝ぐせだらけ。
そういえば、今朝は顔も洗ってなかったっけ。
こんな姿で一日中 外にいたのか。
- 関連記事
テーマ : カウチサーフィン(Couch Surfing)
ジャンル : 旅行