ベオグラードからクラリェヴォへ。ストゥデニツァ修道院(セルビア)

いよいよベオグラードとも今日でお別れです。
ホストのアレクサンドラの家を朝の6時に出発。歩いて駅へと向かいます。
途中で例の爆撃跡を通ります。
もうすでに何度も見たはずなのに、どうしても足が止まってしまいます。
近づいて、中の様子も見てみました。
建物の中はめちゃくちゃに破壊されています。
死傷者は出たのでしょうか。
もう20年も前の出来事のはずなのに、ここにいるとなぜだか血が騒ぎます。

ベオグラード駅で朝食にする予定だったのですが、爆撃跡を見ていたら無性におなかがすきました。
脳が「生命の危機」と錯覚でもしたのでしょうか。
とにかく何か食べたくて仕方がありません。
駅に着くまで待てそうになかったので、近くのキオスクでスナックとジュースを買って食べます。
日本と違ってコンビニなんてありませんし、キオスクにはまともな食べ物も置いてません。
それでも、何か食べずにはいられませんでした。
不謹慎な話ですが、空爆によって無残に破壊された建物を眺めながらの食事は、ものすごくはかどります。
とにかく「飯がうまい!」のです。
なんというかその、「俺は今、たしかに生きてる!」という実感がわいてくるのです。

朝のベオグラード駅は混雑していて、人々の熱気を感じます。
食べ物を売っている店もたくさんあり、バスの中で食べるものをここで買うことにしました。
さすがは駅前に店を構えているだけあって、バスや電車のなかでも食べやすいものが多かったです。

昨日のうちに買っておいたバスのチケット。
なんて書いてあるのかまったくわかりません。
なんだか不安になります。

車内で食べる食料も買い込んだことだし、いざ、バスに乗るぞ!
と意気込んでいたところ、いきなり足止めを食らいました。
バスターミナルにはゲートがあって、誰もが入れるわけではないのです。
私はチケットを買っているので、当然入れるはずなのですが、どうやってゲートを通り抜ければいいのかわかりません。
係員らしき人に聞くと、どうやらこのゲートを開けるには、専用のコインが必要なのだそうです。
「チケットを買った時にもらっただろ? あれをここに入れるとゲートが開くんだよ」
コインなんてもらってないよ・・・
昨日チケットを買った窓口に行って事情を説明したのですが、なかなか話が通じません。
「ほら、ここにチケットがあるだろ? 俺はバスに乗りたいんだ。 早くしないとバスが出発しちまうじゃないかよ」
最初はブツブツとなにかをつぶやいてしぶっていた窓口の係員ですが、最終的にはコインをくれました。
これでなんとかバスターミナルに入ることができます。
こういうことがあるから、時間には余裕をもって行動しないとダメですね。
ちなみに、後で気づいたのですが、財布の中に例のコインは入ってました。
どうやら、昨日チケットを買った時に、おつりと一緒に渡されていたようです。
セルビアの通貨にまだ慣れていなかった私は、そのコインと普通の通貨との区別がつかなかったのです。
そういえば窓口の係員もなにか言っていたような気がする。
でも、英語じゃないからわからないんですよね。
私は貧乏なくせに、おつりをもらってもその場で確かめません。
なので、どっちにしろコインには気づかなかったでしょう。
きっと今まで、おつりをごまかされたこともあったんだろうな。

ベオグラードのバスターミナル。
さすが首都のバスターミナルだけあって、発着場がたくさんあります。
自分の乗るバスを探すのもひと苦労。

見つけました。
これが私の乗るバスです。
目的地のクラリェヴォまでは約3時間。
クラリェヴォは終着駅ではないので、降りるタイミングを逃さないようにせねば。
日本の交通機関のように、「次は○○です。」というようなアナウンスはないので、自分で降りる場所を判断しなければなりません。
うっかり居眠りをしようものなら、とんでもないところで降りるはめになってしまいます。
まあ、それも旅の醍醐味のひとつかもね。

車中で食べる食料もしっかり買い込んであるので、道中、退屈はしなくてすみそうです。
私は昔から、移動中にものを食べるのが好きでした。
日本でも、ドライブに出かける時はずっとお菓子をポリポリ食べています。
窓の外を流れていく景色を見ながら食べると、なんだかウキウキしてくるんですよね。
しかも、今回のドライブはセルビア。
クラリェヴォなんてほんの少し前まで名前も知らなかった街です。
そして今後の人生でもおそらく再び訪れることはないでしょう。
目に映るすべての景色は生まれて初めて見るものですし、今後、二度と見ることもない景色かもしれません。
そんな貴重な風景を眺めながら食べる食事がおいしくないはずがありません。
どんな高級レストランで食べるよりも、オンボロバスの窓際に座って食べる方がずっとおいしく感じられます。
クラリェヴォまでの三時間。至福の時でした。
たった数百円でこんなに幸せな気分に浸れる俺は、なんて安上がりな男なんだろう。

ドラガチェヴォ。
クラリェヴォでの私のホテル。
この街でもカウチサーフィンのホストを探してはみたのですが、結局見つかりませんでした。
もともとカウチサーフィンの数自体少ないうえに、リクエストを送ってもことごとく無視されたのです。
まあそういう日もあるさ。
私のマイ・ルールは、
「訪れた国すべてでカウチサーフィンを利用する」
というもの。
すでにベオグラードでカウチサーフィンを利用したから、もうノルマはクリアしたのさ。
「地球の歩き方」にも載っているこのホテルですが、受付ではまったく英語が通じません。
それなのにパスポートを要求されたのでちょっと不安だったのですが、渡さないわけにはいきません。
そしてパスポートは帰ってきませんでした。
どうやら、ここに泊まっている間は、ホテルにパスポートを預けなければならないらしい。
なんだか不安ですが、そういうルールなんだからおとなしく従うしか仕方がないのでしょう。
あまりパッとしないこのホテルですが、WiFiは驚くほど速かったです。
部屋に荷物を置いて一段落したら、すぐにバス停へと向かいました。
今日はこれからストゥデニツァ修道院へと向かいます。
赤い色が印象的なジチャ修道院にも行きたかったのですが、時間がどれくらいかかるか読めません。
ここはやはり、ストゥデニツァ修道院を優先させることにしました。
「世界遺産」という響きには抗えないのです。
クラリェヴォのバスターミナルの職員は、あきれるほど能率が悪い。そして態度も悪い。
私が窓口で待っているというのに、係員はやってきません。
彼女は別の仕事で忙しいというわけではなく、椅子に座ってダラダラと過ごしているのです。
私の方をチラッと見たので、私が待っていることには気づいているはずなのですが、窓口にやってくる気配はまったくありません。
なにをもたもたしてるんだよ。できれば俺は今日のうちに2か所回りたいんだよ。こんなとこで油を売っているヒマなんてないんだ。
いつまでたってもらちがあかないので、大声で彼女を呼びました。
その女性はめんどくさそうに重い腰をあげて窓口へとやってきます。
私がガイドブックを見せながら、そこに行くバスのチケットが欲しいと言っているにもかかわらず、彼女はまったく理解しようともしませんでした。
彼女は英語がわからないらしく、あきらかに外国人である私と関わり合いになるのを嫌がっています。
「インフォメーション!」
とひとこと言っただけで、さっさと元の席へと戻っていきました。
そのインフォメーション・デスクはどこにあるんだよ。
このバスターミナルを拠点として、セルビア南部をあちこち訪れる予定だったので、ここでいろいろと情報収集をしたかったのですが、とてもそれどころではありません。
バスのチケットを買うのもひと苦労です。
ベオグラードではかなり英語が通じました。
同じセルビアなんだからここでも英語が通じるだろうと思っていたのですが、通じません。
驚くほど通じません。
通じないなりに意思疎通の努力をしてくれればいいのですが、みんなめんどくさそうに私を邪険に扱うだけです。
ウクライナも英語が通じず、不便な国だなあと思っていたのですが、セルビアはその比ではありません。
そもそも観光客を受け入れようという意識がまったく見えないのです。
でも、これが自然な姿だと思う。
みんなが英語を話す世界なんて気持ち悪い。
みんなが親切な世界はもっと気持ち悪い。
ずいぶん小さくなったとはいえ、まだまだ地球はでかい。
何十億という人間がいるのだから、いろんな言語があって当然です。
日本とセルビアなんてほとんど接点が無かったんだから、言葉が通じなくて当然です。
異なる文化、異なる景色、異なる人々。
それが見たくて私は旅をしている。
まったく英語が通じない相手に対して、いかにコミュニケーションをはかるか。
そこが旅の醍醐味でもあります。
それがめんどくさいと言うのなら、パックツアーを利用すればいいだけの話です。
ウシツェ行きのバスが出るまで1時間30分もあったので、なんとか時間をつぶさなければなりません。
クラリェヴォの街には特に興味はなかったので、バスターミナルの中でなにか食べることにしました。

見るからにショボそうな店。
でも、こういうひなびた場所の方が、本物の伝統料理を出すこともあるんだよね。
看板にはセルビアの定番料理「プリェスカヴィツァ」の文字も見えます。
売店のおばちゃんはもちろん英語ができませんが、身振り手振りで私に話しかけてきます。
どうやら、「トッピングは何にする?」と聞いているようです。
そう言われても、何を選べばいいのかわからなかったので、適当に指さして、ケチャップは大目にしてもらいました。
これで私オリジナルのプリェスカヴィツァのできあがりです。
おいしそー!

これがそのプリェスカヴィツァ。
かなり期待していたのですが、見事に裏切られました。
まずい!
こんなマズいハンバーガー、今まで食べたことない。
私は食べ物にはそれほどうるさくない人間なのですが、その私をうならせるとは、ここのプリェスカヴィツァ、ただものではない。
クラリェヴォのバスターミナルは、まったくいいとこなしだな。
がっかりだよ。
バスが到着すると、みんな我先にと入り口に殺到する。
勝手がわからず、重い荷物をかかえている私はどうしても後手後手に回ってしまう。
「ストゥデニッツァに行きたいんだけど、このバスであってる?」
と聞こうにも、みんな自分のことで精一杯でそれどころではない。
外は雨。
バスが走り出してしばらくすると、屋根から雨水が滴り落ちてきた。
今時こんなオンボロバスを走らせるとは。
バスは満席で、通路にも大勢の人があふれている。
雨漏りがするからといって、私が身をかわすスペースはない。
雨水に濡れるがままになっている私を見て、他の乗客は笑っていた。
OK。
いいだろう。
これがセルビア・クオリティだ。
これがセルビア人のメンタリティだ。
ウシツェでバスを降り、別のバスに乗り換えます。
といっても、案内板もないので、どのバスに乗り換えればいいのかわかりません。
いや、もしかしたらどこかに書いてあるのかもしれませんが、この国の文字を私は読むことができないのです。
そこでその場にいる人に聞くことになるのですが、これがまた不親切。
外国人である私とは、あきらかに関わり合いになりたくなさそうです。
そしてまた、セルビアの地名はややこしい。
ウシツェ、ウスツェ、ウジツェ。
私にはどれも同じに聞こえますが、まったく別の場所なのです。
こんな時に「地球の歩き方」は便利ですね。
写真を見せれば一発で分かってもらえました。
最初からこうすればよかった。

この国の人にはがっかりさせられっぱなしでしたが、ウシツェからストゥデニツァ修道院へ向かう道はなかなかの景勝路。
雨が降りそうな空模様でしたが、それでも息を飲むほどきれいな景色がひろがっています。

バスを降りて、ストゥデニツァ修道院へと向かいます。

きっとあれが入り口なのでしょう。

門をくぐるとそこには・・・

古代の遺跡の残骸が散らばっていました。

敷地はかなり広く、よく手入れされた庭がひろがっています。

そしていよいよ、お目当てのストゥデニツァ修道院が見えてきました。
感動の一瞬です!

世界遺産だというのに、観光客の姿は見えません。
いや、修道士の姿さえありません。
この広い敷地内には、私しかいないのです。
これではまるで、ストゥデニツァ修道院を貸し切っているみたいです。
世界遺産を独り占め!
といえば聞こえはいいですが、なんかさびしい。

そんな状態でしたから、売店も当然閉まっています。
絵葉書買いたかったのに・・・

建物内を歩いてみましたが、人の気配がまるで感じられません。
恐ろしいほどの静寂。
さすがは修道院。瞑想がはかどりそうです。

世界遺産・ストゥデニツァ修道院。
一応セルビア旅行のハイライトのはずなのですが、おどろくほどつまらん。(※感じ方には個人差があります!)
もしもこれを見るためだけにこの国を訪れたとしたら、そのがっかり感ははんぱないだろう。
きっと膝から崩れ落ちてしまうにちがいない。
そういうわけだったので、一応侍の衣装に着替えてはみたのですが、いまいち気分は盛り上がりませんでしたとさ。
まあいろんな国を旅していれば、たまにはそういう日もあるさ。


ストゥデニツァ修道院の近くには雑貨店があり、食料補給ができます。

どこかのブログにバスの時間が書いてあったので、その30分前からバスを待っていたのだが、いつまでたってもバスは来ない。
売店の人に聞いてみると、次のバスが来るのは18時だという。
事前に調べておいた情報と違う。
うかつだった。
ネット上の情報を鵜呑みにしてはいけない。
いつでも変更はあり得るのだから、常に自分で裏をとらねば。

ストゥデニツァ修道院自体はつまらなかったが、ここに来るまでの道はなかなかの景色だった。
歩くのも悪くはない。


山あいに点在する村々を眺めながら歩くのは実に気持ちがよかった。
途中までは。
だが、歩けど歩けど、いっこうにバスターミナルのある村、ウシツェは見えてこない。
地図上ではたいしたことない距離でも、アップダウンのある曲がりくねった山道は予想以上に時間を食う。
まずいな。
このペースだとクラリェヴォ行きのバスを逃してしまう。
さっきまで晴天だったのに、ポツポツと雨粒が落ちてきた。
よし、ここはヒッチハイク開始だ。
ルーマニアと違い、このセルビアでどれくらいヒッチハイクが認知されているのかはわからない。
だが、この道は一本道で、ここを通る車は全部ウシツェを通過する。
距離だってそんなにない。
きっと乗せてくれるに違いない。
楽観的な気持ちで始めたヒッチハイクだったが、なかなか停まってくれない。
スピードを落とす気配すらなく、ビュンビュンと私のそばを走り去って行く。
せまい道だから、ヘタに親指を立てていると、腕ごと跳ね飛ばされそうになる。
だから車が横を通過する時には引っ込めなくてはならない。
なんとも腰の引けたヒッチハイクだ。

ヒッチハイク成功!


セルビア戦士の墓?

世界中どこにでも一人くらいは親切な人がいる。
とりあえず今日のところは一人でじゅうぶんだ。
私を拾ってくれた彼はストゥデニツァ修道院の近くの村に住んでいて、ちょうどウシツェに行くところだった。
英語こそできなかったが、彼の性格が良いことはよくわかった。
私が何も言わなくてもウシツェのバス停で降ろしてくれ、その場にいた人たちに
「この日本人をクラリェヴォ行きのバスに載せてやってくれ」
と言い残して去って行った。
ここにはバス停の標識なんてなかったから、彼の助力がなければ苦労したことだろう。
その土地の印象は出会った人にかなり左右される。
これまでセルビアの人にはあまり良い印象を持てなかったが、最後にいい人と出会えてよかった。


ウシツェの街。
なにもない小さな街だが、なんとも言えない風情がある。
こういう場所に泊まらないと、ほんとのセルビアはわからないんじゃないかという気がしてくる。
だが、私にはウシツェに泊まるほどの余裕がない。
もっとゆっくり旅をしたい。
もっともっと時間とお金が欲しい。

この乗り合いバスが私をクラリェヴォまで連れていってくれるらしい。
車体には「イタリア」の文字が見えるが、まさかイタリアから走ってきたわけではないだろう。

気のせいだろうか。
対向車がやたらとパッシングしてくる。
と思っていたら、クラリェヴォ行きのバスは警察に止められた。
検問だ。
バスの中にいた他の乗客たちはみなIDカードを取り出している。
私もパスポートを用意しようとして青くなった。
ない。
パスポートはホテルに預けてある。
これはまずいことになったぞ。
制服警官とは別に、人相の悪い男が二人、バスに乗り込んできた。
鍛え上げられた筋肉、全身から漂う威圧感。
どう見てもこいつらカタギの人間とは違う。
パスポートを所持していないことで、なにか因縁をつけられるんじゃないだろうか。
しかも私の荷物の中には、侍の衣装や日本刀(のようなもの)が入っているのだ。
だが、私服警官たちは私にはまったく興味を示さなかった。
他の乗客たちのIDカードは入念にチェックし、手荷物検査もしていたのに、私のことは完全にスルー。
いい意味で人種差別が働いてくれたようだ。
検査はかなり長く続き、その間ずっと緊張を強いられた。
警官たちはトランク内の荷物を全部降ろして、ひとつひとつ中身を調べている。
いったいなにが起こっているのかわからないので不安でしかたないのだが、誰も英語を話さない。
ある人はタバコを吸う仕草をした。
別の人はアルコールを飲む仕草をした。
「ドラッグ・コントロール」と言う人もいた。
ようするに密輸の取り締まりをしているらしい。
ここはコソボやマケドニアの国境と近いからだろうか。
ようやく検問が終わり、バスが走り出すと途端にドッと緊張が解けた。
それまで押し黙っていた人々が堰を切ったようにしゃべりだす。
大声をあげて笑う者もいる。
陽気なセルビア人たち。
私独りがその饗宴から取り残されていた。
ここはセルビア。
俺は異邦人。
まわりが騒々しければ騒々しいほど、自分が孤独なのだと思い知らされる。


19時頃、クラリェヴォに到着。
その足でレストラン「クラリュ」へと向かう。
地球の歩き方に載っているレストランは、クラリェヴォではこの店だけ。
きっとほとんどの日本人旅行者はこの店で食事をしているんだろうな。

英語のメニューはなかったが、なんとなくわかる。
ガイドブックにはセルビアの代表的な料理の名前が列挙してあるから、それをもとに見当をつけることができるからだ。
私が選んだのは「メシャノ・メソ」というミックスグリル。
一度にいろんな食材を味わうことができるらしい。

セルビアの代表的な酒、「ラキヤ」も頼んだ。
普段お酒を飲まない私には、この酒はきつい。
疲れた体にしみわたる。

これがその「メシャノ・メソ」
ボリュームがすごい。
すでに前菜としてサラダとパンもあったので、とても全部は食べ切れない。

一人で黙々と食う私。
一人旅は気ままで楽だが、やはり食事時は寂しさを感じる。
カウチサーフィンを利用していれば誰かと一緒に食事をできるのだが・・・
食事を終えて店を出ると、大音量の音楽が聞こえてきた。
どこかでお祭りでもやっているのだろうか?
地図を見るとその方角には「セルビアの戦士広場」というのがあるらしい。
それほど遠くないので、とりあえず行ってみることにしよう。

広場ではコンサートをやっていた。
いったいなんの催しだろう?

夜店もでている。
なにかのお祭りらしい。
私は今回の旅では、行く先々で催し物に出くわす。
天候には恵まれなかったが、そういう意味ではラッキーだったのかもしれない。

音楽にあわせて、人々が熱唱している。
まるで、ベルリンの壁崩壊を祝っているかのようだ。
歌われている曲は、セルビアの他の都市では聞かなかったから、ここクラリェヴォのローカルバンドのオリジナルだと思う。
セルビア語の歌詞だから、なんて言っているのかはまったくわからない。
ただ、サビの部分で「・・・ memory! memory! ・・・」と言っていることだけはわかった。
私は普段は音楽をそれほど聞かないのだが、この曲だけは妙に印象に残った。
セルビアの、しかも地方都市クラリェヴォのローカルバンドのオリジナル曲。
おそらく、二度とこの曲を耳にすることはあるまい。
祭りの広場からホテルへの帰り道、ふと、自分がその曲を口ずさんでいることに気づいた。
あのなんとも言えないもの悲しいメロディーが、頭の中にこびりついて離れないのだ。
これといった見どころもなく、印象の薄い国セルビア。
私にとってこの国でもっとも記憶に残ったのはこの曲となった。

広場の近くでは、三人組の若者と出会った。
彼らは最初、おそるおそる
「チャイニーズ?」
と聞いてきた。
「いや、日本人だ」と答えると、彼らの表情がパッと明るくなった。
「私、made in Japan が大好きよ!」
そう言う彼女たちは、(自称)アーティストだ。
といっても、彼らの主な作品はストリート・アート(壁の落書き?)。
「メイドインジャパンの塗料が一番ノリがいいのよ!」と言う。
ヨーロッパの街角でよく見かけるストリート・アート。
そこにも日本製品が使われていると知り、なんだか複雑な気分になった。
ハイテク製品やアニメだけでなく、その他の品々でも世界中の市場を席巻する日本製品。
きっと我々は自分の生まれた国を誇りに思っていいのだろう。

彼女が描いたというイラストを何点かもらった。
「もちろんこれも日本製のペンで描いたのよっ!」
そう言ってうれしそうに彼女がカバンから取り出したペンには、日本の有名文具メーカーの名前が書かれてあった。