You are my hero
イタリア、オーストリア、ハンガリー、クロアチアに囲まれた小さな国で、ふだん、テレビのニュースなどではまずお目にかかることのない名前だ。
私は以前、ヨーロッパを旅行したときにたまたまこの国を訪れたのだが、それまでこの国の存在を知らなかった(あるいはスロヴァキアと混同していた)。
なのでスロベニアには1泊しかしなかったのだが、今ではとても後悔している。
山と湖に囲まれたこの国は、とても美しい。
城とドラゴンにも魅了された。
そしてなにより、人の温かさに感動した。
その時の様子は→こちら
スロベニアの首都、リュブリャナでお世話になったホストには、感謝してもしきれない。
もう一度彼らに会うために、私はまたこの国を訪れようと思う。
このように、私にとってスロベニアという国には良いイメージしか思い浮かばない。
だからこの国から来たカウチサーファーは無条件で受け入れたいくらいだ。
ところが、この小国は人口も少ない。当然、日本を訪れるスロベニア人の数もそれほど多くはない。
だから過去に私の部屋に泊まったスロベニア人はたったの一人。
ちょっとさみしい。
そんなある日、ニナという女性からカウチリクエストをもらった。
住所が中国になっていたので、最初は中国人かと思っていたのだが、写真を見るかぎり、どう見てもアジア人のようには見えない。
カウチサーフィンのプロフィールをよく読んでみると、彼女はスロベニア出身だということが判明した。
もちろんすぐさま彼女のリクエストをOKしたのだが、このニナはあらゆる意味で私のスロベニアに対する印象を根底から覆してくれた。

スロベニアの大学で中国語を専攻したニナは、現在、中国に住んでいる。
「どうして中国語を勉強しようなんて気になったんだい?」
「ほんとはフランス語やイタリア語を勉強したかったのよ。
でも私の成績じゃあそれらの学部に入学することはできなかったの。
それでしかたなく中国語を選んだってわけ」
なんだか消極的な動機だなあ。
そんな彼女も中国に暮らすようになってからはや数年。
今ではネイティブなみに中国語を操ることができる。
英語だってなかなかのものだ。
実は彼女は中国では英語の教師をしている。
教える場所はさまざま。
大学や高校など、主に教育機関が彼女の職場だが、たまには少し毛色の違った場所もある。
以前彼女は中国の航空会社のパイロット養成所の英語教官をつとめたことがあったという。
「でもね、わたしすぐにそこをやめちゃったの」
「どうして?」
「だって生徒がみんなバカばっかなんだもん」
「でも航空会社のパイロットなんてみんなエリートだろ。
そんな彼らがバカということはないと思うんだけどな」
「それがとんでもない大馬鹿なのよ。
中国が一人っ子政策をとってるのは知ってるでしょ?
その影響で子どもたちはみんな甘やかされて育ってるのよ。
だから私の言うことなんて聞きやしない。
授業中もずーっと私語が飛び交っていて、とても集中して勉強できる環境じゃなかったのよね」
話を聞いていると、どうもニナは中国人のことがそれほど好きではないようだ。
彼女がバスに乗っていた時のこと。
若者のグループがニナのことについて悪口を言っていた。
「ヘンな外国人」だとか「デブ」だとか。
まさか彼らはニナが中国語を理解できるとは思っていない。
だが彼らの会話はすべて彼女につつぬけだった。
ニナは皮肉たっぷりに言い返す。
「ちょっとあんたたち、デブで悪かったわね。悪いけど私、中国語ペラペラなのよ」
ニナは中国の四川省で暮らしているのだが、昼間英語講師をしているだけでなく、夜はラジオやクラブのDJもやっているらしい。
そのクラブには大勢の欧米人が訪れるのだが、その欧米人目当ての中国人女性もたくさんやってくる。
彼女たちは白人男性を物色しては、夜の街に消えていく。
「どうしてアジア女性はヨーロッパ男性があんなに好きなんだろうね」
とニナはなげく。
ニナ、その意見には俺もはげしく同意するよ。
テーブルの上に目をやったニナは突然絶叫した。
「ねえマサト。なんであなたがこんなもの持ってるの?」

彼女が指さしているのはキーホルダー。
リュブリャナ名物のドラゴンの写真がプリントされている。
スロベニアを訪れた時に、カウチサーフィンのホストが私にくれたものだ。
「うそでしょ。まさかこんなところでこんな物に出会うなんて!」
ニナはえらく感動している。
無理もない。
スロベニアという国自体を知らない人も多いのだ。
リュブリャナを訪れ、おまけにそのキーホルダーを持ち歩いている日本人に遭遇する確率はかなり低いのではないだろうか。
「あなたは私のヒーローよ!」
カメラを取り出したニナはリュブリャナのキーホルダーの写真をバシャバシャと撮っていた。
あとでフェイスブックにでも投稿するつもりなのだろう。

ニナのくれたおみやげ。
彼女は今、中国の四川省に住んでいる。
成都といえば、やはりパンダ。

こちらはチベットのおみやげ。
成都はチベットに近く、チベット観光の拠点にもなっているそうです。
いろいろと制約の多いチベット旅行ですが、一度は行ってみたいものです。
ニナは
「成都に来たらぜひうちに寄ってよ。案内してあげるから」
と言ってくれます。
彼女が中国にいる間にぜひとも訪れてみたいものです。
ちなみにニナはアフリカのナイジェリアに暮らしていたこともあるそうです。
彼女はこの国でよほどひどい目に遭ったらしく、ことあるごとにナイジェリアの悪口を言っていました。
私はアフリカにはまだ行ったことはありません。
どこもいっしょだと思っていたのですが、彼女によるとまったく違うそうです。
ある日ニナはナイジェリアから、隣国のベナンに旅行にでかけました。
ナイジェリア側の税関検査で彼女は係官からワイロを要求されます。
発展途上国ではよくある光景ですね。
ところがこのナイジェリアでは、何人もの係官が国境ゲートで待ち構えているのです。
一人にワイロを渡すだけでは出国させてもらえません。
それとは対照的に、ベナンの人々はおっとりとしていて、みんなとても親切にしてくれます。
国境審査官のチェックも甘く、ニナをすんなりと入国させてくれました。
もちろんワイロなんて要求されません。
しかし、この時彼女はうっかりしていて、ビザを持たずにベナンに入国してしまったのです。
これは記録上は不法入国にあたるので、当然ナイジェリアに再入国する際にひっかかりました。
しかもナイジェリアの係官は底意地が悪い。
ここぞとばかりにべらぼうなワイロを要求してきました。
この時よほどいやな思いをしたのでしょう。
彼女は私に忠告してくれました。
「マサト、もしもあなたがアフリカに行くことがあったとしても、ナイジェリアだけはやめておきなさい」
しかし、そう言われると余計に行きたくなるものなんだよなー。
実はニナには彼氏がいます。
それもナイジェリア人の。
おいおい、言ってることとやってることがちがうじゃないかよ。
テーマ : カウチサーフィン(Couch Surfing)
ジャンル : 旅行