祇園祭の宵山
今日はその宵山だ。
梅雨から夏へと移り変わる、一年中でもっとも湿度が高く、暑苦しい時期にこの祭りは執り行われる。
そんなところへ日本中から大勢の人間が集まるものだから、もうどうしようもないくらいに暑い。
「一度行ったらもうじゅうぶん」
というのが大方の人の意見だと思う。
私も京都に来た最初の夏に一度行ったきりで、それ以来もう二度と行く気がしなかった。
カウチサーフィンを始めるまでは。

今回のゲストはノルウェーから。
金髪の北欧美女の二人組だ。
彼女たちが京都の街を見てみたいというので、もう日も暮れかかっていたが嵐山から市内へと繰り出すことにした。
たまたま今日は祇園祭の宵山。
しかし彼女たちはそれを知って京都にやってきたわけではなかった。
なんたる偶然。
運のいいお嬢さんたちだ。
烏丸通は通行止めになっており、道路の脇には屋台がずらりと並んでいる。
普段はひっきりなしに車が走るビジネス街も、今夜だけは特別な様相を呈していた。
かわいらしい浴衣を着た女性の姿もあちこちに見える。
たくさんの人でごったがえしているわりには、それほど蒸し暑くない。
夏祭りの夜にふさわしい、ちょうどよい暑さだ。

四条通りも歩行者天国になっている。
遠くには山鉾が見える。
ノルウェーから来た女の子たちが
「あれは何?」
と私にたずねる。
山鉾はいったい英語で何と言えばいいのだろう。
下手な説明よりも、近くまで行って実際に見てみる方がいいだろう。

山鉾の上から祇園囃子の鐘の音が聞こえる。
なんとも言えない独特の雰囲気。
私は特にこの祭りに思い入れがあるわけではないが、今回あらためてじっくり聞いてみると、なんだか心が落ち着くような気がする。
ノルウェーから来た女の子たちも立ち止まって、じっと耳を傾けていた。
日本の夏を堪能してくれているのだろうか。



(今回のカウチサーフィンのゲストはノルウェーから。
真ん中がイングリッド。右がソブリグ。
五条警察署の前で一緒に写真を撮ったのだが、最初二人はしぶっていた。
「メガネをかけてるととてもブスに見えるの」)
山鉾は全部で20基くらいあるのだが、全部見るだけの時間もエネルギーもない。
この後彼女たちは浴衣を見に行くのだ。
警察署の前でちょっと一休みすることにした。
屋台で焼きそばを買う。
ちょうどそこへ、着物を着て日本髪を結った女性が通りかかった。
舞妓さんだろうか。
ノルウェーの女の子たちがもぞもぞとしている。
どうやら一緒に写真を撮りたいようだ。
「頼んであげようか?」
だが、我々3人がもたもたしているうちに、その女性は気配を察したのか、さっさと行ってしまった。
警察署の前に腰掛けて、道行く人をボーっと眺める。
普段はビュンビュン車が走っている大通りを、大勢の人々がぞろぞろと歩いている。
浴衣を着た若い女性、大きな風船のひもを持つ子供。
私は人混みはきらいだが、年に一回くらいならこういうお祭りも悪くない。
もうしばらくこの往来を眺めていたかったのだが、ノルウェー人の女の子たちが時計を気にし始めた。
「お店の時間は大丈夫?」
そうだった。
今夜の本来の目的は、彼女たちに浴衣を見せに行くことだった。
もうすっかり日も暮れた時間帯だったが、浴衣のレンタル・ショップはまだ開いていた。
祇園祭の真っ最中ということもあってか、お店の中はとても混雑している。
もうすぐ閉店の時間だし、もともと彼女たちはそれほど浴衣に興味があるというわけでもなかった。
だから今夜のところは「ちょっと見てみるだけ」という話だった。
ところが、店の中に入って浴衣を物色しているうちに、だんだん彼女たちの目が本気モードに。
ノルウェー語(?)でなにやらごにょごにょと相談している。
その間も浴衣を選ぶ手は止まらない。
そしてついに、「どうしても浴衣を着てみたい!」という結論に達したようだ。
それもレンタルではなく、購入してノルウェーに持って帰りたいのだとか。
もちろん、明日の祇園祭・山鉾巡行にも着ていくつもりだ。
だが、彼女たちは浴衣の着方を知らない。
それに、せっかくだから髪の毛も浴衣に似合うようにセットしたい。
ということで、翌朝の予約を入れて帰ることにした。

翌日、念願の浴衣を手に入れてご満悦の二人。
これを着て、いよいよ祇園祭のフィナーレ、山鉾巡行だ。