























































パリ
再びパリ。
だが雨が降っている。
これまでこの旅では天気に恵まれていたが、最後の最後で運が尽きたようだ。
モンパルナスの駅では三人組の男に突き飛ばされたあげく、罵声を浴びせられた。
駅構内にはあいかわらず自動小銃を構えた兵士が徘徊している。
せっかくパリに来たのに、なんだか気分が高揚しない。
実は、私はパリでのホスト、アンとグレッグの事は前から知っていた。
数ヶ月前、彼らは私にカウチリクエウトを送ってきた。
おもしろそうなカップルだったので承諾した。
だが、その後急遽、私はヨーロッパ行を決めたので、彼らのリクエストをキャンセルしたのだ。
普通なら気分を害するところだ。
それなのに彼らは怒るどころか、
「パリに来たらぜひ立ち寄ってくれ」
と言ってくれたのだ。
もちろん半分はリップサービスだろう。
ダメもとで彼らにカウチリクエウトを送ったら承諾してくれた。
なんて寛大なんだ。
地下鉄の駅にはアンが迎えに来てくれた。
うわ!
無茶苦茶美人だっ。
カウチサーフィンのプロフィール写真では彼らは変な顔をしている。
ところが実物のアンは、典型的なパリジェンヌ。
顔が長く、手足も長いモデル体型。
思わず見惚れてしまった。
人妻だけど・・・
アンとグレッグは日本の文化が大好き。
日本を旅行した時は、主な日本の料理を食べ尽くした。
風呂場には日本語の単語帳が貼り出してある。
そのおかげか、かなり日本語を話せる。
彼らはパリを案内してくるというのだが、グレッグの仕事が終わるまで私一人で観光することにした。
彼らはエッフェルタワーと凱旋門の行き方を丁寧に教えてくれた。
といっても、地下鉄一本で行けるのだが。
あいかわらず雨が降ったり止んだりの空模様。
エッフェルタワーを見上げても空は青くなく、なんとなく気分が重い。
お金を払ってタワーに登る気も失せてしまった。
凱旋門も同じ。
写真だけ撮ってさっさとモンマルトルに向かうことにした。
さすがは芸術家の街、モンマルトル。
駅を降りた途端に雰囲気が違った。
あいかわらずの雨模様だが、なんとなくうれしくなってしまう街だ。
フランスに限らず、観光地には多くの物売りがいる。
だが、ここの黒人はしつこかった。
私の腕をつかんで離さない。
「Trust me!」
とドスの効いた声で言うが、とても信用などできない。
モンマルトルの丘の上には教会があり、ここからの景色も素晴らしいのだが、私の目的は別にあった。
画家にペギーの絵を描いてもらいたかったのだ。
雨にも関わらず、広場には大勢の画家がいた。
彼らの描いた絵を見ながら、どの人に描いてもらおうかと吟味する。
広場をウロウロしていると、何人かの画家が声をかけてくる。
そのうちの二人と交渉することにした。
人の良さそうな夫婦だ。
ペギーの写真を見せて描けるかどうか聞いてみたら難色を示した。
彼らは似顔絵専門で、上半身は描かないという。
しかもペギーは着物を着ている。
難しそうだ。
夫婦は何事か二人で相談した後、こう言った。
「普段は50ユーロもらうことにしているんだが、今回のケースは難しいので70ユーロでどうか?」
70ユーロ!
17ユーロの間違いじゃないのか?
そんなに高いとは知らなかった。
グレッグとアンに電話して聞いてみたら、50ユーロくらいが相場じゃないか、と言う。
ボられているわけではなさそうだ。
彼らにお願いすることにした。
彼らが絵を描いている間、椅子に腰掛けて待っていたら、大勢の人が見物しに来て恥ずかしかった。
その後グレッグ達と合流して、ピカソの住んでいた家を探した。
なんの変哲もない普通の家だった。
まあ当然か。
彼らはルーブル美術館やポンヌフ橋、ノートルダム寺院、パンテオン、ルクセンブルク公園などを効率よく案内してくれた。
時折雨が降る中 申し訳ない。
時々グレッグが地図を見ているのには驚いたが。
本当にパリジャンか?
遠くにエッフェルタワーが見えた。
夜はライトアップされていて とてもきれいだ。
曇り空も気にならない。
ルーブル美術館もいい。
名物のピラミッドはライトアップされていなかったのでよく見えなかったが。
夕食には本格的なフランス料理を食べたい、とリクエストしたら二人とも困っていた。
彼らは普段は家では日本食を食べているので、フランス料理のレストランは知らないという。
アンとグレッグは地図を片手に、ああでもないこうでもない、とセーヌ河畔を奔走してくれた。
一時間くらいはパリの街を彷徨っただろうか。
あまりにも空腹で、もうフランス料理なんてどうでもよくなってきた。
レストランを探している間、多くの日本食レストランを見かけた。
パリでは日本食が人気だと言う話しは聞いたことがあるが、ここまでとは思わなかった。
焼き鳥、寿司、刺身などの看板があちこちにある。
紆余曲折の後、ついに一つのレストランに決定。
少しでも多くのフランス料理が食べれるように、との彼らの計らいで、三人で食事をシェアすることになった。
食前酒に、ビール、ワインと、彼らは当然のようにお酒をドカドカ注文する。
空腹の上に大量のアルコールを摂取したため、文字通り私はフラフラになってしまた。
でも気持ちいい。
デザートのアイスクリームにもウォッカが入っている。
レストランの後にさらに彼らの行きつけのバーにも行った。
フランス人というのはこんなにも酒豪だったのか。
ここはパリ。
しかもフランス料理。
やはり値段はそれなりにした。
ちと懐が痛いが、フランスはヨーロッパ最後の訪問地。
彼らにはお世話になったので、ここは私が支払おうとしたがグレッグが払ってしまった。
いいのだろうか。
三人で120ユーロ以上もしたというのに。
ほろ酔い気分でパリの街を歩いた。
あれがアンの通っている大学だ、と指差した先にはソルボンヌ大学があった。
才色兼備とはまさに彼女のためにある言葉だ。