ラテン女の口説き方
アフリカや中東からのものはほとんどない。
南アメリカからはごくわずか。
近い将来、南米諸国にはぜひ行ってみたいと思っているので、これらの国々からのカウチサーファーは大歓迎なのだが、なかなかそのチャンスがない。
そんなところへセバスチャンからメールが届いた。
カウチリクエストの文面には私の名前は書いていないし、プロフィールも読んでなさそうっぽい、典型的なコピペ・リクエストだが、この際大目に見るとするか。

(左:アレックス(ギリシャ)、右:セバスチャン(コロンビア))
前回に引き続き、今回も男性二人組。
この間の大男二人には、その体格の大きさで圧倒されてしまったが、今回の二人は標準サイズ。
とはいえ、アレックスは私より背が高いのだが、この前の筋肉ムキムキ男に比べれば、その存在感はかなり希薄。
なんだか少しホッとした。
彼らは現在、中国に留学中。
寮のルームメイトらしい。
普段、漢字に囲まれて暮らしているだけあって、日本での旅行にもそれほど不自由は感じないそうだ。

中国から来た彼らには物足りないかもしれないが、せっかく嵐山にいるのだから、ということで、竹林を案内した。
彼らはまだ中国では竹林を見ていなかったらしく、えらく感動していた。
とくにセバスチャンは感情をストレートに表現する。
「マサト、こいつはすげえぜ!」
頭を大きく振りながら、何度もそう言った。
それに比べてアレックスはというと、なんだか控え目。
ギリシャ人というのはもっと情熱的でおしゃべりだと思っていたのだが、彼の口数は少ない。
微笑を浮かべて友好的な空気を醸し出してはいるのだが、自分自身の意見を積極的に述べようという意思は感じられない。
表には出さないだけで、きっと彼の頭の中には哲学的表現がびっしりと詰まっているのだろう。

セバスチャンのくれたおみやげはチョコレート。
おおっ!
コロンビア産のチョコレートなるものを食べるのはこれが初めてだ。
さぞかし「熱い」味がするのだろうと期待して食べてみたのだが、
日本のチョコレートと違いはなかった。
まあ、チョコレートなんてどこのも同じか。

私が南米を旅行する際には、コロンビアは必ず訪れることになる。
中米・パナマからの玄関口となるからだ。
できるだけ空路は使わず、陸路で南米入りしたいと思っていたのだが、地図を見る限り道路が途中で消えている。
どういうことだ?
「悪いことは言わん、マサト。素直に飛行機を使え。」
セバスチャンは例によって大げさな身振りで私の計画に反対した。
「道はないことはないが、ジャングルを通ることになる。陸路国境が外国人に開かれているかどうかもわからん。
それになにより、時間がかかる。ツーリスト・バスはおろか、地元民用の定期バスだってないから、自分で車を捕まえなきゃならん。
いったい何日かかるかわからんぞ。
どうして飛行機じゃだめなんだ? 空だとあっという間だぞ。」
やはり陸路でのコロンビア入りは難しいのだろうか。
ジャングルの中には麻薬シンジケートの兵隊がいそうでちょっとこわい気もする。
ずいぶん前の話だが、ニュースでコロンビアのことをやっていた。
麻薬組織が警察署を襲い、包囲していた。
多大の損害をだした警察側はついに犯罪者集団に降伏してしまった。
なんと、警察官が白旗をあげてギャングに投降していたのだ。
その映像を見た私の脳裏には、今でもそのイメージがつきまとっている。
「恐ろしい国、コロンビア」
その話をセバスチャンにすると、彼は口をとがらせて抗議した。
「いったい何年前の話をしているんだ、マサト。
俺たちの国ほど平和で美しいところはないんだぜ。
だが、ベネズエラだけは気をつけな。
あそこはほんとにヤバい。
どうしても行きたいっていうんなら、たっぷりと保険をかけてからにするんだな」
いや、ベネズエラにももちろん行くんですけど・・・
セバスチャンに「地球の歩き方」を見せながら、コロンビアについていろいろと教えてもらったのだが、
この本に載っている情報は驚くほど少ない。
「たったこれだけ?
こんなんじゃあコロンビアを見たことにはならないぜ。」
セバスチャンは自分の国は安全だというが、地球の歩き方はそうは書いていない。
日本人観光客にはまだまだ敷居の高い国なのだろう。
だが、ガイドブックには、
「コロンビア女性は世界一美しいといわれている」
とも書いてある。
そのことをセバスチャンに告げると、彼はニヤリと笑いながらこう言った。
「たしかにその通りだ、マサト。
だがな、生半可な気持ちでいたら大けがするぜ。
コロンビア女を口説くには命懸けだ。
ラテン女をものにするには相当なエネルギーが必要なんだぜ」
セバスチャンには国もとに彼女がいる。
彼はその彼女としょっちゅう電話をしている。
食事中はもちろん、道を歩いている時や歯を磨いている時、片時も携帯電話を離さない。
大きな声のスペイン語でまくしたてている。
よくもまあ話すことが尽きないもんだと感心してしまうくらいに話し続けている。
シャワーを浴びながらも彼女と会話しているのを見た時にはさすがにあきれた。
お互い地球の裏側にいる時ですらこんなに騒々しいのだ。
実際に会って会話している時の彼らはきっとすさまじいくらいに怒鳴り合っていることだろう。
口下手な私には、コロンビア女性と付き合うのは無理なようだ。