学生時代、私は大学の寮に住んでいました。
けっこう大きな寮で、そこに住む学生の数は100人以上。
これだけの人数がいればメンツには困らないせいか、毎晩どこかの部屋で麻雀が行われていました。
そこで私は先輩から「キルクルの法則」なるものを教わります。
ある役が狙えそうなので、それに関係する牌をずっと待っているのですが、なかなかツモることができません。
そこであきらめて、別の手でアガることを考え、いらなくなった牌を捨てます。
するとすぐに、あんなに待ち焦がれていた牌を引いてきてしまうのです。
切り捨てた途端、欲しかった牌がやってくる。
この「キルクルの法則」はマージャンだけでなく、競馬などでも使われるそうですね。
私は今、東ヨーロッパの旅行を準備中。
カウチサーフィンのホストを探していて、ふと、この「キルクルの法則」を思い出してしまいました。
カウチサーフィンのサイトには、オープンカウチリクエストというシステムが存在します。
一人のホスト候補にカウチリクエストを送る際、このオープンリクエストにチェックマークを入れておくと、その地域に住むその他のカウチサーファーもカウチリクエストを見ることができるというものです。
一通のメッセージを送っただけで、多くの人の目に触れることができるため、ホストが見つかる可能性が飛躍的に高まります。
東欧でのホストを探していた時、私のオープンリクエストを見た青年からすぐにレスポンスがありました。
「俺の部屋に泊まりにこいよ」
私はこの青年にはカウチリクエストを送ってはいません。
彼の方から声をかけてくれたのです。
カウチリクエストを送信してからわずか数時間後に、ホストが見つかってしまった。
私はうれしさのあまり、すぐに彼のオファーを受け入れました。
ところがその翌日、別の女性からもメッセージが届きます。
「マサト、あなたにぜひ会いたいわ。 私の部屋に泊まりに来てちょうだい。」
彼女のプロフィール写真を見て、思わず私は息をのみました。

セクシーな美女がほほ笑んでいます。
なんてこったい。
私はこの女性にはカウチリクエストを送っていません。
それなのに、彼女の方からお誘いがかかっているのです。
嗚呼、素晴らしき哉カウチサーフィン。
最初に私を受け入れてくれた青年の家はせまく、二人が並んで寝るともう足の踏み場もありません。
しかし、この女性の家は広く、しかも豪華!
どう見てもこの女性の家に泊まった方が快適に過ごせそうです。

でも、でも、 俺はもうすでに青年からのオファーを受諾してしまったんだよっ!
いまさら、
「すげー美人が泊めてくれるっていうから、俺、そっちに行くわ。じゃあな、あばよっ!」
なんてそんな節操のないことはできないよ。
さらに別の都市でも悲劇は繰り返されます。
私が目星をつけたホスト候補は大の日本ファン。
彼女のカウチサーフィンのプロフィールにはこう書いてあります。
「私、日本のことがチョー好きなの。 日本人大好き! 日本の人、ぜひ私の家に泊まりに来て!」
これは私のカウチリクエストを受け入れてくれる可能性が高そうです。
しかもさらに、この女性は思わず3度見したくなるほどの東欧美人、という特典付き。

さっそくカウチリクエストを書いて、震える指を制しながら送信ボタンを押しました。
「どうか俺のリクエストを受け入れてくれますように」
待つこと数時間。
またしても意図したのとは異なる男性からメッセージが届きました。
この男性、カウチサーフィンを利用した経験はこれまでになく、プロフィールもほとんど空欄。
「あやしい」
そこでとりあえずフェイスブックの友達になって様子を見てみることにしたのです。
その間に本命の彼女からホストOKの返事がもらえるかもしれないしね。
くだんの青年のフェイスブックを見る限り、別段おかしなところはなかったので、彼からのオファーも受けることにしました。
その後も他のカウチサーファーから
「よかったら俺の家に泊まりに来いよ」
というオファーを3件ほどもらったのですが、本命の彼女からはなんの反応もありません。
他の都市でのホストも探さなければならず、その他の旅行の準備もしなければならない私は、
忙しさの中に彼女のことなんて忘れてしまっていました。
ところが、ところがです。
例の「日本大好きっ!」東欧美女から返事がきました。
「ごめんなさい、返事が遅くなっちゃって。マサト、あなたいい人みたいだから、ぜひうちに来てちょうだい」
私が彼女にメッセージを送ってからすでに3週間。
遅い、おそいよっ!
私を受け入れてくれた青年とは、すでに何度かフェイスブックでやり取りをしています。
彼はけっこういい人みたいで、
「マサト、お前はどこに行きたい? 何をしたい?」
などと聞いてくれます。
そんな彼に対して、
「俺、やっぱ美人のお姉ちゃんの家に泊まるわ。
今までいろいろとありがとうな。
あばよっ!」
なんて言えるわけがありません。
ホテルなら部屋に空きがある限り、予約をすれば確実に泊まれます。
しかも泊まれるかどうかは瞬時にわかります。
でも、カウチサーフィンはホテルとは違うのです。
リクエストを送っても断られることの方が多いし、返事がこないことだって日常茶飯事。
たとえホストOKの返事がもらえるとしても、それがいつになるかはこちらにはわからないのです。
常に不確実性がつきまとうカウチサーフィン。
限られた時間の中で、いかにして狙ったホストから返事を引き出すか。
高度な駆け引きや心理戦が要求される場面もあるでしょう。
ギャンブルや知的ゲームの要素をもあわせもつカウチサーフィン。
まだ旅に出ていないというのに、なんなんだろうこの高揚感は。
今度の旅もまた刺激的なものになりそうだ。
テーマ : カウチサーフィン(Couch Surfing)
ジャンル : 旅行