余は満足じゃ
昨日とはうってかわって、今日は快晴。
陽射しは強く、まるで夏のようだ。
もっとも、これがこの時期の本来あるべき姿。
本格的な梅雨に入る前に、初夏のさわやかな陽気を楽しんでおきたい。
それに今日はルーマニアからの大切なゲストをおもてなししなければならないのだ。
あいにくの雨にたたられた昨日の失点を取り戻して、京都を思う存分楽しんでもらわなければ。
接待二日目、開始。
本日のスタートは嵐山から。
明るい陽ざしのもと、新緑がまぶしく映える。
「うおぅっ!」
ジョージが感嘆の声をあげる。
それはそうだろう。
今日の嵐山の眺めはいつもにもまして素晴らしい。
毎日この景色を見ている私ですらため息がでるほどだ。
「嵐山ってなにもないのね。山と川だけじゃない。なにがおもしろいの」
こんなふうに言うカウチサーファーだって少数ながら存在した。
だが、ジョージはちがうようだ。
彼ならきっと、竹林も気に入ってくれるにちがいない。
たしかにジョージは嵐山の竹林を大いに気に入ってくれた。
「話には聞いていたが、これほどまでとは・・・」
あれほど饒舌だった男が、今は言葉を失っている。
そこまで感激してもらえると、嵐山に住む者としてやはりうれしい。
だが、ジョージを喜ばせたのは竹林だけではなかった。

着物姿の女の子を見つけたジョージは、すかさず私にカメラを手渡す。
「マサト、頼むっ!」
と言い残して女の子の方へと駆け寄る。
ちゃっかりと二人の肩を抱いている。
がっしりと!
昨日の女の子たちは台湾人だったが、今ここにいる子は二人とも日本人。
いきなり体を触られて彼女たちが怒るんじゃないかと心配だったが、
ジョージがヨーロッパ人だったから大目に見てもらえたのだろう。
もしも私が同じことをしたら、ぜったいに通報されてるよな。
なんだか不公平だ。

(ジョージと私。金閣寺にて)
嵐山からは本日の目玉、金閣寺へと向かう。
昨日は一日中歩きっぱなしだったが、今日はバスを目いっぱい使う。
「よかった。今日はそんなに歩かなくてもいいんだな。」
ジョージはほっとしている。
昨日はかなり疲れさせてしまったらしい。
しまった。
彼は大事なゲストなのだから、もっと丁重に扱うべきだった。

嵐山の竹林は比較的すいていたのだが、さすがにここ金閣寺は大勢の観光客であふれかえっている。
そのうちの大部分を修学旅行生が占める。
ぎゃあぎゃあとはしゃいで、うるさいことこのうえない。
こいつらさえいなければ、もっと落ち着いて観光できるのに。
だが、ジョージはそういうふうには思っていないようだ。
女子高生の集団と一緒になってはしゃいでいる。
「マサト、頼む」
はいはい、わかってますよ。
ジョージからカメラを受け取り、ファインダーをのぞくと、
そこには満面の笑みを浮かべた一人の男がいた。
なんてうれしそうな顔をしているんだ。
もともと彼は陽気な男だが、それでも、こんなに楽しそうなジョージを見るのはこれが初めてだ。
接待、成功。
と言えるのかな。うん。
この後は北野天満宮と銀閣寺をまわり、本日の観光は終了。
「ありがとう、マサト。 お前は本当にいい奴だ。」
ジョージに求められて、がっしりと握手を交わす。
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