すっぽん鍋は眠らない

駅で見かけたポスターを見て喜ぶメイサン。
日本の痴漢は世界中でその悪名をとどろかせているようです。
そういう輩はどの国にもいそうなもんだけどな。日本だけなのか?
いずれにせよ、痴漢よりもメイサンの顔の方がよっぽど怪しいぞ。

「日本のおいしい料理が食べたい」というお父義さんの要望にお応えして、先斗町へとやってきました。

そこでメイサン父子の目に止まったのがこののれん。
「これはすっぽんといって、食すると精力が高まっちゃう危険な食べ物なんですよ」と説明すると、
「おお、いいねえ。ここにしよう」と大盛り上がりの親子。
いったいなにをそんなにはしゃいでいるのか。
ほんとに私の言ってることを理解してるんですかねえ。

もちろんここでもメイサンのお父さんの3Dビデオカメラがさく裂。
どこまで行っても怪しいおじさんです。

この3Dビデオカメラ、録画した映像をすぐにその場で確認できるというスグレモノ。
ちょっと見せてもらいましたが、あまり立体感を感じることはできませんでした。
やはり大画面のテレビで見ないと迫力はないそうです。

いよいよメインディッシュ、すっぽん鍋がやってきました。
私もこれを食べるのは今日が初めてです。
しかし、値段の割には、具はとても少ない。
これだけではとてもお腹はふくれそうにありません。
まあ、おなかいっぱいになるために食べるものじゃないんでしょうけど。

メイサンのお父さんはしきりに私にすっぽん鍋をすすめてきます。
「ほらほら、もっと食え食え」
そう言って、すっぽんの肉を私のお椀に次々とよそってくれるのです。
すべての具を食べ終わっても、スプーンでスープをすくっては、私のおわんへと注いでくれます。最後の一滴まで。
いやいや、お父義さん。
お気持ちはありがたいのですが、そんなにすっぽんを食べさせられたら精力絶倫になっちゃうじゃないですか。
どんなに気持ちがたかぶっても、あなたが娘さんと一緒にいるかぎり、何も手出しできないんですけど。
はっ!
もしかしてこれは、「親公認」ということなのだろうか。
などと甘い幻想を抱いていたのですが、お父さんが一緒の部屋にいるんじゃねえ・・・
夕食を終えた帰り道、先斗町を歩いていると、何人かの人が路上でパフォーマンスをしていました。
足を止めてメイサン父子が中国語で会話していると、そのパフォーマーも中国語で話しかけてきました。
彼はどうやら中国出身のようです。
しばらく中国語でやり取りした後、メイサンのお父さんはポケットから小銭を取り出して、パフォーマーの前に置かれていた空き缶に投げ入れました。
続いてメイサンも、なんと1000円札を空き缶に放り込みます。
現在、東南アジアには大勢の中華系の人たちが住んでいますが、彼らの祖先はビジネスチャンスを求めて中国から渡ってきた人たちです。
きっと現在の経済的繁栄に至るまでは、苦難の連続だったことでしょう。
異国の地で生き延びるためには、お互いに支え合う必要もあったにちがいありません。
そのせいか、中華系の人たちの団結力には目を見張るものがあります。
中国からはるばる日本にやって来て、小銭を稼ぐために路地裏で大道芸を披露している同胞を見て、メイサン親子は手を差し伸べずにはいられなかったのでしょう。
中華系の人々の、意外な一面を見たような気がしました。
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すっぽんの効果はすさまじい。
その夜はなかなか眠りにつくことができなかった。
ウトウトしても、すぐにまた目がさめてしまう。
すぐ隣の部屋ではメイサンが寝ている。
そしてそのまた隣には彼女のお父さん。
もんもんとした気持ちを抱えながら、眠れぬ夜を過ごす私。
いったいなんのための「すっぽん」だったんだ?