マラムレシュ地方の木造教会(ルーマニア)

今回の旅のハイライトの一つでもあるマラムレシュ。
世界遺産に指定されている木造教会群。
毎日曜日には伝統衣装に身を包んだ人々が礼拝にやってくるという。
あまり事前に期待しすぎるとがっかりさせられることも少なくないのですが、
ここは違います。
天気は快晴。
建築群は予想以上に見ごたえがあり、厳かな雰囲気に包まれたミサに感動。
そしてなにより、伝統衣装に身を包んだ女性たちの美しさ!
もともとルーマニアには良いイメージを持っていたのですが、今日新たに確信しました。
ルーマニア最高!
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ホテルの窓からの風景。
古き良き面影を残すここSighetu Marmatiei の街も、体調不全の私には暗いイメージにしか映らない。
あまり観光地化されていないこの場所の雰囲気はけっこう好きだ。
また来たいと思う。
そして今度はもっとゆっくりとここの空気を味わいたい。
明け方まで嘔吐と下痢を繰り返したおかげでフラフラだ。
吐くという行為は、ずいぶんと胃袋の筋肉を酷使するものなのだな。
普段使うことのない筋肉だけに、その疲労感はすさまじい。
幸い、下痢も嘔吐も小康状態を保っている。
そりゃそうだろう。
体の中にあるもの全部ぶちまけちまったんだから、もうなにも残ってない。
フロントでチェックアウトを済ませる。
受付にいたのは昨日と同じ女性だ。
この娘、昨夜は深夜までここにいた。
そして今朝は早朝から働いている。
きっとこのホテルに住み込んでいるのだろう。
私は社交的な性格ではない。
日本では、ホテルの従業員と仲良くなるなんてまず考えられないが、
海外を旅行しているときは違う。
ここのフロントで働いているルーマニア女性は美人で、面倒見がよく、
昨夜はずいぶんとおしゃべりをした。
できることならもっと仲良くなりたかった。
一緒に写真も撮りたかった。
でも、今朝はとてもそんな気分じゃない。
「俺の息、吐しゃ物の臭いがしないだろうか?」
などと不安になってしまう。
口を大きく開けて話すことすらできない。
「バスの出発まで、まだ時間があるでしょ。
コーヒーでもどう?」
彼女に促されて、フロント奥の事務所へと向かう。
その間、彼女のヒップにみとれていた。
きゃしゃな体つきの彼女だが、お尻だけがなぜか異常にデカい。
ヨーロッパ女性にはよくある体型だ。
もしも日本人女性が同じような体型をしていたら、間違いなく「ぽっちゃりしてるね」などと言われてしまうだろうが、
ルーマニア女性の場合、このアンバランスさが妙にしっくりときている。
って、朝から俺は何を考えているんだ。
体調が悪かったんじゃなかったのかよ。
生命の危機に瀕したとき、生物は種の保存本能が強まるという。
だとしたら今の俺の状態は、それほどまでにひどいということなのだろうか。

街の外れにあるバス停。
行き先も時刻表も書いていないから、部外者には使いづらい。
昨日、ホテルの受付で詳しく聞いておいてよかった。
バスを待っていると、一人の女の子が話しかけてきた。
まだ高校生らしい。
いかにも「先週学校で習いました!」って感じの英語を話す彼女は、外国人に興味津々といった様子だ。
中国と日本の区別がつかないようだったので、私がむきになって説明すると
「きゃはは、超ウケる。 なに言ってんのかわかんないんですけど」
と笑っていた。
それにしても、ルーマニアのJK、色っぺー。
とてもまだ十代とは思えん。
そうこうしているうちに、彼女の友人たちがやってきた。
私と同じく、Barsana まで行くらしい。
といっても、彼女たちは教会へ礼拝に行くわけではない。
今日は天気がいいから、ハイキングに行くのだそうだ。
ルーマニアの高校生はなんて健全なんだ!
東洋人が珍しいようで、バスの中でも彼女たちと和気あいあいと会話を楽しんだ。
と言いたいところだが、それどころではなかった。
道路はところどころ未舗装なのか、バスは「ガクンッガクン!」と上下に大きく揺れる。
あちこちに開いてる穴ぼこを避けるために、右へ左へと迂回する。
ルーマニアにアミューズメントパークはいらない。
なんとか吐き気をこらえた。
むちむちぷりぷりのルーマニア女子高生たちはBarsana の村で降りていった。
私も一緒に降りようとしたら、運転手に制止された。
教会は村の中心からずいぶん離れた場所にあるらしい。

教会の前でバスを降りたのは私一人だった。
山あいにある小さな村を、一目見て私は気に入った。
なにもない辺鄙な村。
だが、私をゾクゾクさせるなにかがこの場所にはある。

小川にかかる吊り橋。
ふと、ベトナムのサパを思い出した。
きっとこの橋の向こう側には、素朴な原風景が広がっているのだろう。
古くからの伝統やしきたりを今なお守り続ける、人々の暮らしを垣間見てみたい。
「この橋を渡ってみようか?」
そんな衝動に駆られそうになるが、教会の礼拝はもうすぐ始まる。
時間に制約された旅行というのはいやなものだ。
もっとのんびりと旅をしたい。

バス停の向こう側には木造教会が見える。
ついに来たぞ。
一人の老婆と目が会った。
スカーフを被り、ルーマニアの民族衣装をまとったこの老婆も、今から礼拝に行くところなのだろう。
腰が大きく曲がったその老婆は、今は亡きおばあちゃんのことを私に思い出させる。
「こっちだよ、こっち」
しわくちゃの顔をさらにしわくちゃにしながら老婆は私に手招きをする。
言葉を交わしたわけでもないのに、どうしてこんなにもジーンとするのだろう。
のどかな村に住む敬虔な女性は、そこに存在するだけで心を和ませてくれる。
この老婆と一緒に歩いて教会まで行きたかったが、この女性、歩くのがとても遅い。
彼女と一緒のペースで進んでいたら、教会にたどり着く前に日が暮れちゃうんじゃないだろうか。
一刻も早く木造教会と対面したかった私はあせった。
ミサもいつ始まるかわからない。
貴重な瞬間を、一瞬たりとも見逃したくはない。
「おばあちゃん、先に行ってるね」
後ろ髪を引かれる思いで老婆を振り切った。
時間に追われる旅というのはほんとにいやだ。

教会の入り口。
思わずロケットを連想してしまった。
今にも飛び立とうとしているように見える。
ここの駐車場はほぼ満杯。
少し離れた所にはもっと大きな駐車場があって、そちらにも車がひっきりなしに入ってくる。
続々と集結してくる人々を見ているうちに、だんだん気分が高揚してきた。
マラムレシュ地方の伝統的な礼拝に、俺も立ち会うことになるのだ。
この瞬間のために俺はルーマニアにやってきたのだ。

教会は小高い丘の上にあって、村を見渡すことができる。
こんなにのどかな場所がまだこの地球上に残っていたとは。
静かだ。
なんて静かなんだ。
教会にも村にもたくさんの人がいるはずなのに、なんの音も聞こえない。
俺の耳は壊れてしまったのだろうか。

教会の敷地内にある小さな門。
こんなありふれた物を見るだけでも、なんだかウキウキしてくる。
目に映るすべての物事が楽しくってしかたがない。
だから旅はやめられない。

年甲斐もなくはしゃいでしまう。
礼拝までにはまだ時間がありそうだったので、カメラ片手に走り回る。
こんなだから日本人観光客は外国人から笑われるんだろうな。
でも、どうにも止まらない。
ばかみたいに写真を撮り続けた。

生神女進殿聖堂。
マラムレシュの木造聖堂群の中でも最も大きいもの(だと思う)。
それほど大きな建造物ではないはずなのに、圧倒的な存在感を感じる。
どんなカメラマンも、この重厚感を写真で表すことは不可能だ。
モン・サン・ミッシェルは写真からその豪壮華麗さがある程度は予測できた。
だから実物を見た時も心の準備ができていた。
でも、これはだめだ。
完全に打ちのめされてしまった。
教会を見上げながら、何度も何度も周囲をぐるぐるまわった。
きっとはたから見たら、変な人だったろう。
まあ、侍の衣装を着ている時点で「変な人」は確定なんだが。
それでもかまうもんか。
この感覚は写真ではけっして再現できない。
自分の目に焼き付けておくしかないんだ。



ルーマニアの子供たち。
彼らはサッカーチームのメンバーで、今日は近くの街から遠足に来ているらしい。
そういえば
クラクフ(ウクライナ)で出会った子供たちもサッカーチームの選手だったな。
彼らの住む街に外国人が訪れることはめったにないらしい。
引率の先生は英語も教えているらしく、子供たちに英語で私に話しかけるようにしきりに促していた。
もちろん、誰も先生の言うことなんか聞きやしない。
ギャーギャー騒いでいる。
ひとり変な顔してる奴がいるな。
子供たちはうるさかったけど、独りで旅行してるとこういうのもうれしい。(たまには)

ついにミサが始まった。
教会内は厳かな雰囲気に包まれる。
とても部外者が入り込める余地はない。
私の他にも観光客は大勢いたのだが、みんな広場の中心部から遠ざかって、信徒たちの邪魔にならないようにしている。
それでも、やはり信者たちはやりにくいだろうな。
神聖であるべき礼拝中、観光客の視線にさらされ続けているのは気分のいいものじゃないだろう。
ここでまたベトナムのサパを思い出した。
彼の地には
「ラブ・マーケット」なる伝統行事が存在していたのだが、心無い観光客の好奇な視線にさらされるのを嫌がって、今ではなくなってしまった。
現在でも地方に行けばひっそりと行われているらしいが、以前の面影を見ることは難しい。
このマラムレシュ地方の習俗も、ラブ・マーケットの二の舞になってしまうんじゃないだろうか。
ふと、そんな予感がした。
ブカレストから遠く離れたこの地方にも、交通機関が発達すればもっと多くの観光客が押し寄せることだろう。
西ヨーロッパでは飽き足らなくなったアジア人旅行者が、次なる目的地として東欧を目指すのも時間の問題だと思う。
今日私の見た限りでは、この教会にアジア人旅行者の姿はなかった。
でもここは日本人好みの観光地だ。
いったんブームにでもなれば、大挙して押し寄せてくるに違いない。
そのせいで、この伝統行事がなくなったりすることがあるとしたら、残念でしかたがない。
自分もその「観光客」の一人なんだから、そんなことを言う資格はないんだけど。

ブカレストから来たという女の子たちと。

サムライの格好をしていると、ジロジロと見られますよー。
まあ、当然だけど。

この教会はそれほど広くはなく、その気になれば5分ほどでさっと見てしまうことも可能です。
でも、それじゃああまりにももったいない。
ミサが終わり、家に帰り始める人も出始めました。
ちょっと待ってくれー。
まだ一枚も地元の人と一緒に写真撮ってないことに気が付いた私はあせりました。
せっかくここまできて、民族衣装をまとった人と交流しないなんてありえません。
こんなチャンス、めったにないのですから。

まず最初に声をかけたのがこの母娘。
二人とも民族衣装を着ています。
娘さんは変な格好をした私を見てもにっこり微笑んでくれました。
ルーマニアの子供たちは人見知りしないのかなー。


こうして見ると、日本人と顔のつくりがまったく違いますね。
同じ人間だとはとても思えません。

親だけが民族衣装を着ていたり、子供だけだったり、パターンはいろいろ。
でも、男性は特別な服装をしていないみたいでした。
男性版もあるはずですよね。
毎週着るのはめんどくさいのかな。

日本では女の子に声をかけたことなんてないのに、今日はがんばりましたよ。
この娘たち、毎週こんなふうに着飾ってこの教会にやってくるそうです。
ルーマニア万歳!

「私も撮ってよー」
と言われて振り返ると、そこには女の子と男の子が。
「君は民族衣装を着てないじゃないかよー」
と言いかけたのですが、よく見るとなかなかかわいらしい女の子です。
きっとこの子は将来ものすごい美人になるんだろうなー。
10年後にまた会おうね。
それにしてもこの子、まだ小学生くらいだろうに、どうしてこんなにも物憂げな表情を浮かべることができるのだろう。
おそらく表情というより、もともとの顔のつくりがそうなってるんだろうけど、あらためてアジア人との違いを見たような気がしました。

ヨーロッパ人というのは、ほんとに小顔だなー。
というより、この女性の場合・・・
「ミスター! ミスター!」
どうやら私のことを言っているようです。
振り返ると、そこには修道女がいました。
一瞬いやな予感が走ります。
もしかしたらこの女性は、私に抗議しようとしているのかもしれません。
神聖な礼拝をカメラ片手に見物しにやってくる観光客の事を、尼さんたちは快く思っていない可能性は大いにあります。
その上さらに、私は侍の格好をして腰に刀まで差しているのです。
「さっさと出ていけ!」
と言われるんじゃないかと、反射的に身構えてしまいました。

ところが実際は、その逆でした。
この修道女は侍姿の私を見て大興奮。
大はしゃぎで一緒に写真を撮ろうとするその姿は、およそ尼さんらしからぬものでした。
イケメンでもない私を見つめる彼女の目は、まるでハート型そのもの。
侍衣装の威力おそるべしです。
一緒に写真を撮るときも、修道女は私に体をすり寄せてきます。
「えっ! これってもしかして肩を抱けっていうこと?」
判断に悩みましたが、ここは神聖な教会。
しかも相手は尼さんということもあって、さすがに躊躇しました。
ガイドブックかなにかで、
「僧侶や修道女にカメラを向けるのは厳禁」
って書いてあったので、そのことを聞いてみると、
「そんな規則はないわ。 ノー・プロブレムよ!」
ときっぱり明言。
それどころか、
「ちょっと待ってて」
と言って尼さんは教会の中へと入っていきました。
そして持ってきてくれたのがこの写真集です。


なんと、普通に買えばかなりの値がするであろう写真集をいただいてしまいました。
サムライのコスプレってほんとお得だなー。

礼拝が終わった後も、広場に残った人々は知り合いと話し込んだりしています。
教会は地域のコミュニティーの役割を果たしているんでしょうね。

おっ!
鮮やかな衣装が目を引く女性を発見。
なんかミツバチを連想してしまいました。
これってルーマニアの衣装なの?
どちらかというと「ブルガリア」って印象があるんだけど。
まあどっちでもいいか。
きれいなお姉さんは何を着ても似合うのです。
「一緒に写真を撮って」
と頼んだら、あっさり承諾してくれましたよ。
日本で同じことをやったら通報されるレベルですよねー。

東欧、とくにルーマニアの女性はおおらかな性格をしている人が多いので好きです。
笑顔も柔らかい。
癒される~。
ルーマニア、ほんとに来てよかった。

徐々に人の姿が見えなくなってきました。
礼拝のために訪れていた人たちはみな、昼食をとりに家路へとついたのでしょう。
残っているのは観光客くらいです。

人が少なくなったころを見計らって、結婚式の写真を撮っているカップルも見かけました。
ここはそういう写真を撮るのには絶好の場所ですよね。
今日は天気もいいですし。

「子供たちと一緒に写真を撮って」
今度はものすごい美女に声をかけられました。
かなり大きなお子さんが二人もいるというのに、この美貌をキープしているとは!
聞けば、彼女はルーマニアとウクライナのハーフなのだとか。
「世界一の美女大国」の誉れ高いウクライナ。
「妖精の住む国」ルーマニア。
その両者のハーフって史上最強じゃないか!
彼女の娘さんもまたとてつもない美少女。
息子さんもなかなかの男前。
そしてもちろん旦那も超イケメン(ケッ!)
ルーマニアは英語が母国語じゃないはずなのに、彼女の子供たちはとても流暢な英語を話します。
それも理路整然と。
きっとこの家族はとても裕福で、高度な教育を受けているにちがいありません。
「ルーマニアの感想はどう?」
といった話から始まり、私がここに来る前にはウクライナも旅してきたことがわかると、話がどんどん弾みます。
ついには、
「Sighetu Marmatiei まで戻るの? 私たちも同じ方向だから、よかったら車に乗っていかない?」
という流れとなりました。
これは願ってもない提案です。
この地域のバスの本数は少なく、次のバスが来るまであとどれくらい待たねばならないか予想もつかないのですから。
ところが、ところがです。
最悪のタイミングでやってきました。
あの強烈な吐き気が、またもやぶり返してきたのです。
いや、正確に言えば、ずっと気持ちは悪かったのです。
ただ、念願の木造教会群を前にしてハイになっていた私は、なんとかだましだましここまでやってきただけだったのです。
彼女たちと話している途中、急に私は黙り込んでしまいました。
吐き気をこらえるためです。
でも、彼女たちはそんな事情など知りません。
みんな怪訝な顔をして私のことを見ています。
ここはなんとかごまかして、急いでトイレに向かわねば。
でも、とてもそんな余裕はありませんでした。
うぷっ!
一目散にトイレめがけて駆け出したものの、2,3歩ほど行っただけで私は吐き出してしまったのです。
その様子はまるで、シンガポールのマーライオンが水を吐き出すようにも見えたことでしょう。
いや、私の噴出力はもっとすさまじく、レーザービームのようにピューッ!っとまっすぐ飛んでいきました。
食欲はありませんでしたが、脱水症状にならないようにと、水だけは飲んでいたのがあだとなったようです。
人間は何も食べなくても、水分補給さえしっかりしていれば1週間は生き延びることができると聞いたことがあります。
でも、今の私の体は水すらも受け付けないのか!
「大丈夫?」
母娘が心配して、ティッシュとペットボトルを持ってこようとしてくれました。しかし、
「ありがとう。大丈夫」
と言おうとした瞬間、
ウゴォヴォボゴヴォ
とまた噴出してしまいました。
「大丈夫? なにかできることある?」
そう言ってくれる彼女たちに対して、私は手を上げて「大丈夫」の意思表示をするのが精いっぱいです。
「お大事に」
そう言い残して、彼女たちは去っていきました。
うぅ。
なんてかっこわるいんだ、俺。
それに申し訳ない。
こんなにきれいな場所を汚してしまった。
まだ終わったわけではありません。
昨夜のパターンからすると、嘔吐の後には猛烈な下痢が襲ってくるはずなのですから。
今度は手遅れにならないように、トイレへと急ぎます。
私は日本では、ポケットティッシュすら持ち歩きませんが、旅行中はトイレットペーパーをまるごと一巻持ち歩きます。
お腹を壊している状態だとポケットティッシュではまったく足りませんからね。
ところが、問題は別のところにありました。
この教会にはもちろんトイレがあるのですが、その構造が極めて特殊なのです。
どうしてこんな造りにしたんだ?
と首をひねらざるをえません。
男性トイレ内には小用と大用の二つの便器があるのですが、大用は個室とはなっていないのです。
さらに無慈悲なことに、ドアに鍵はついていません。
私が使用中だろうと、そんなことにはおかまいなく、外からドアを開けられてしまうのです。
中途半端に広いトイレのため、用を足しながらドアを手で押さえておくこともできません。
そしてドアを開けると、外から丸見えになってしまう構造になっているのです。
ただでさえ恥ずかしい構造のこのトイレ、ましてや今の私は通常の状態ではないのです。
こんな状況で用を足しているときに、外からドアを開けられでもしたら・・・
こんな情けない姿を衆人環視のもとに晒された日には、人間やめたくなります。
でも、私には他に選択肢はないのです。
生神女進殿聖堂。
天国と地獄の同居する教会。
注) クリックするとトイレ画像が拡大されます。

予定ではこの後さらにもう一か所(できれば2か所)の木造教会を見て、サプンツァの陽気な墓にも行くつもりだったのですが、これはどうも断念した方がよさそうです。
世界遺産に登録されている木造教会は8つあり、当初私は全て訪れるつもりでした。
まだこの後バイア・マーレに数日滞在する予定なので、無理をすれば全部見ることは可能かもしれませんが、ゆっくりすることにします。
ルーマニアは私のお気に入りの国の一つ。
きっとまた必ず戻ってくるのだから、あせることはないでしょう。

そのように方針転換して、今日はこの教会で一日のんびり過ごすことに決めました。
私の旅のスタイルは詰込み型なので、こんな小さな場所でまる一日過ごすなんて異例のことです。しかし、
世界遺産に抱かれながらのんびりと昼寝をする。
これはこれでなかなかぜいたくな時間の使い方だと思います。

2時間ほど昼寝をしたら、ずいぶんと気分がよくなりました。
ふらふらと起きだして、教会内を散歩します。
もう観光客の姿はまばらなので、貸し切り状態で楽しむことができました。
世界遺産に登録された途端、観光客が殺到しててんやわんやになる所もあれば、
この教会のようにのどかな風情を保ったままでいる場所もあるのですね。




建築群がずらりと並ぶさまは圧巻です。
体が震えました。
俺は生きているうちにあと何回、この場所を訪れることができるだろう。
しっかりとこの風景を記憶に刻み付けてから、教会を後にしました。

道路沿いには土産物屋も1軒あります。
こんな民族衣装、絶対必要ないとは思いつつ、ついつい買ってしまいそうな衝動に駆られます。
結婚して娘ができたらこれを着せてみたいなー。
でもきっといやがるんだろうなー。

道路からも教会の建物がちらりと見える。
名残惜しい。

ルーマニアの伝統的な井戸はこの村にも健在です。
ほんの少し前までは、日本でもあちこちでこのような井戸を見ることができました。
でもまあ、水道の蛇口をひねれば水が出るのに、わざわざ井戸水をくみ上げる人なんているわけないか。

しばらくこの余韻に浸っていたかったので、Barsana の中心部まで歩くことにした。
この静かな道路沿いにもいつの日か、コンビニがずらりと建ち並ぶ時がやってくるのだろうか。
私が子供のころ凧揚げをして遊んだ田んぼは、今は見る影もなく、びっしりとレストランや商店で埋め尽くされている。
いったん開発されだしたらあっという間だからなー。
ルーマニアだけが例外ということもあるまい。

最期に振り返り、もう一目だけ教会を眺める。
この場所だけはいつまでも変わらないでいてほしい。
そう願うのはやはり俺のエゴなんだろうな。
テーマ : ヨーロッパ旅行記
ジャンル : 旅行