Resort Lovers

郵便受けに封筒が入っていた。
持ってみるとけっこう重い。
送り主は「地球の歩き方」。
そう、あの有名な旅行ガイドブックだ。
心当たりがないではなかった。
でも、まさか、まさか。
いくらなんでも遅すぎる。
あれからもう2年も経っているのだ。
「地球の歩き方」に情報を提供し、それが掲載された場合には謝礼として掲載誌をプレゼントしてくれる。
どうやらそれが届いたらしい。

今回私が投稿したのは「ラオス」編。
うん、このルアンパバーン名物の托鉢、よ~く覚えてますよ。
苦い思いをさせられましたからね。
ぼったくりおばさん

2年前私はラオスのプランパバーンを訪れた際に、あるゲストハウスを利用した。
そこはまだオープンして間がなかったからか、「地球の歩き方」にはまだ載っていなかった。
だから、情報提供したのだ。
該当箇所にはご丁寧にもピンクの付箋紙が貼ってあった。
なかなか芸が細かいね、「地球の歩き方」の編集部さん。

当時私が投宿したのは、「メコン・チャーム・ゲストハウス」。
この宿を紹介する記事の中には、ちゃんと私の名前も載っている。
へへ。
なんだか照れくさいや。

この宿を切り盛りしているのが、このトゥーンさん。
彼女にはルアンパバーン滞在中、ずいぶんとお世話になりました。
チェックアウト後も宿のロビーでWiFiを使わせてもらって、次のカウチサーフィンのホストを探していた時、
トゥーンさんに
「なにを見ているんですか?」
と聞かれたのです。
無神経な私は、彼女にカウチサーフィンについてとうとうと述べました。
カウチサーフィンがいかにおもしろいか、
自分はこれまでに何十か国もカウチサーフィンを利用して旅してきた、
などということを熱く語ったのでありました。
ところが、です。
いつも穏やかな表情を浮かべているトゥーンさんの表情がサッと変わりました。
「なんですって! 無料で泊めてもらえるっていうの?」
「それはここ、ルアンパバーンにもあるの?」
彼女は怒りをあらわにして私に詰め寄ります。
それはそうでしょう。
トゥーンさんはゲストハウスを営んで生計をたてているのです。
旅行者がみんなカウチサーフィンを利用するようになったら、商売あがったりです。
そんなこと、ちょっと考えたらわかりそうなもんですが、私は空気を読めずに
「カウチサーフィン万歳!」
的な演説をぶってしまいました。
なんという愚か者でしょう。
私は海外を旅行する場合、極力日本人とはかかわらないようにしています。
いわゆる「日本人宿」は避けて通ります。
それでも、何か月も異国の地をさまよっていると、ときどき日本語が恋しくなることもあります。
私がプランパバーンに立ち寄った頃がそうでした。
そんな時に出会ったのがこのトゥーンさんです。
彼女は日本に数年暮らしたことがあり、日本語も達者です。
しかも京都大学の大学院に通っていたというのです。
京都に住んでいる私にとって、これほど心休まる存在はありません。
旅先で人のやさしさに触れ、ほろりとしてしまうのはよくあること。
私もトゥーンさんの微笑みと日本語に癒され、予定していたよりも長くルアンパバーンにとどまることになりました。
毎日顔をあわせ、朝に夕に言葉を交わすうちに、いつしか二人は、単なる女将と旅人という範疇を超えてしまっていたのです。
真っ赤な夕陽がメコンのほとりに沈むころ、二人は宿から離れた川辺でひっそりと逢います。
満点の星が降る岩陰で、他の客の目から逃れるように。
川面にはホタルの乱舞。
「すてき。こんな気持ちになったの初めてよ。
宿のお客さんと出歩くことなんて今までなかったのに。
でも、明日にはあなたは行ってしまうのね。
私もあなたと一緒に京都に行こうかしら」
「そんな必要はないさ。
俺はここがものすごく気に入った。
ずっとここで暮らそうかと考えてるくらいだ」
「本当?」
http://couchsurfingkyoto.blog.fc2.com/blog-entry-607.html

なんてことあるわけありません。
全部嘘です。私の脳が作り出した妄想です。
夏の恋なんてみんな夢まぼろしです。
異国の地で出会う女性なんて、すべてまやかしに決まってます。
そんなことわかりきっているはずなのに、今まで何度も痛い目に遭ってきたというのに、
毎年この季節になると身悶えてしまうのはなんででしょうね。
ハッ!
追憶にひたっているうちに、気づけば夜になっていた。
いかん。トゥーンさんに連絡しなければ。
彼女のゲストハウスがガイドブックに載ったことを知ったら、きっと喜んでくれることだろう。
彼女は毎日、ボートが船着き場に到着するたびに、日本人旅行者の姿を探しているのだ。
トゥーンさんとは今でもfacebookでのやり取りが続いている。
だが、なんだか気が重い。
「地球の歩き方」に載った私のコメントは、私が意図したものとは違うものとなっている。
これを読むと、なんだか私が
「このゲストハウスは料金が高い」
と文句を言っているようにも読める。
もちろん私が言いたかったことはそんなことではない。
ルアンパバーンは日本人旅行者にも人気のスポットだが、宿の従業員で日本語が話せる人などほとんどいないと思う。
そんな中にあって、日本に何年も暮らしたことのあるラオス人が経営するゲストハウスというのは貴重な存在だ。
これはかなり価値のある情報だと思ったからこそ編集部にタレこんだというのに、記事はまったくそのことには触れていない。
「地球の歩き方」の編集部はいったい何を考えているんだ?
なんだか恣意的なものを感じる。
とはいえ、「地球の歩き方」編集部の方には感謝している。
ほんの束の間とはいえ、ルアンパバーンでの記憶を呼び起こしてくれたのだから。
あれからもう2年にもなるのか。それなのに、
「必ずまた戻ってくる」
といった約束はまだ、果たせていないんだな。
テーマ : カウチサーフィン(Couch Surfing)
ジャンル : 旅行