炎よ燃えろ (スチャバ、ルーマニア)

ゲストハウスの共用スペース。
といっても、宿泊客は私一人なので、実質家を一軒まるごと独占状態です。

宿のおばさんに「洗濯機はどこ?」と聞いたら、洗濯してくれました。
といっても、後で料金を請求されるんだろうな。
いくらだろ。

宿のおばさんはとても気さくな人で、「朝食の準備ができたから食べろ」とバルコニーに連れていってくれました。
とてもうれしい配慮なのですが、このコーヒー、あまりおいしくありません。
朝食代は宿泊料に含まれているのだろうか。
これで別料金とられたらいやだなー。
バルコニーで朝食を食べていると、一人の男性がやってきました。
どうやら近所に住んでいる人のようです。
あまり言葉は通じないのですが、無理やり会話しました。
お互いにお互いの話していることが理解できない状態での会話なので、かなり疲れます。
頭をフル回転させて、相手が言わんとしていることを解釈しなければなりません。
それでも、やはり誰かと一緒に食べる食事はいいものです。
ルーマニア人って素朴で温かくって、なんだか好きです。
このゲストハウスは恐ろしく交通の不便なところに位置しているのですが(だから他に客がいない)、
宿のおばさんが車でスチャバ市内まで送ってくれました。
今日は平日で、ジョージは仕事があるため、夕方まで一人で時間をつぶさなければなりません。

世界遺産に登録されている、「モルドヴァ地方の教会群(5つの修道院)」。
スチャバはそれらを巡る拠点となり、それぞれの修道院はかなり離れたところにあります。
ところが、わざわざ郊外まで出かけなくても、このスチャバ市内にもたくさんの修道院がありました。
この地方でしか見られない、あの独特の建築様式です。
うわあー、俺ほんとにルーマニアまで来ちゃったんだなー。
この修道院を見て、初めてその実感がわいてきました。







ルーマニア人というのはよほど信心深いのか、街中いたるところに教会があります。
どれもみな似たような形をしているのですが、よく見ると細部が微妙に異なっています。
スチャバという街はそれほど大きくはなく、教会以外は特に見るべき物もないので、ひととおり歩いたら時間が余ってしまいました。
今日は快晴なのですが、風がびゅうびゅうと吹いていてとても寒いです。
今は8月だというのに、なんでこんなに寒いんだろう。
風をしのぐためにスーパーに入って昼食を買いました。
かなり大きなパンを買ったのですが、安い。
ほとんどタダ同然です。

夕方、仕事を終えたジョージが宿まで迎えにきてくれました。
もちろんBMWでです。
かっちょいー!

このゲストハウスはおそろしく不便な場所にあります。
幹線道路からは遠く離れていて、もちろん公共交通機関もありません。
おまけに道路は未舗装。

スチャバ郊外にあるジョージの村へと向かいます。
信号なんてありません。
渋滞なんてありません。

途中、馬車とすれちがいます。
これぞルーマニア!

さらに馬車。

一日の仕事を終えて、ちょうど畑から帰ってくる時間帯なので、大量の馬車と遭遇することができました。

ああっ、俺も馬車の荷台に乗りてー!

畑の間を音もなく貨物列車が通り過ぎていきます。
なんてのどかな光景なんだ!

ようやくジョージの村に到着しました。
なんて辺鄙な村だ。
こんな僻地を訪れた日本人なんて他にはいないだろう。
と思っていたのですが、残念。
少なくとも2人はこの村に泊まったことがあるそうです。
日本人カウチサーファーって世界中にいるのだな。

ルーマニアっていいなあ。
どうして俺はこの国にこんなにも心惹かれるのだろう。

まず最初に案内されたのは、ジョージの彼女の家でした。
私のために手料理を作って待っていてくれたのです。
うれしいじゃありませんか!
ところでジョージ、お前、彼女いたの?
日本へは一人で旅行に来てたから、てっきり独り身なのかと思ってたよ。
まあどうせジョージの彼女なんだから、熊みたいな女なんだろうけどさ。






左側にいるのがジョージの彼女。
うわっ! むっちゃ美人じゃん!
なんでジョージにこんなかわいい彼女がいるんだよ。
うらやましすぎる。
なんか無性に腹がたってきた。
殺意に近いものを感じる。
ちょっとその場所を変われよ、ジョージ。

左側にいるのはジョージのいとこ。
といっても、この村は小さいからみんな親戚みたいなもんだそうです。



「あれは何? 祠?」
と聞いたら、
「井戸だ」
という答えが返ってきました。
ルーマニアではどこの家庭にもこの井戸があるそうです。
もっとも、最近では水道が普及したため、この井戸を使う機会はほとんどないということです。
なんだかさびしいですね。


敷地内には家畜小屋もあります。
彼女の家では豚を飼っていました。


庭ではブドウだって採れます。
まさに自給自足。



ルーマニアの伝統的な門。

食事の後、いよいよジョージの家へとやってきました。

「おーい、マサト! 遅かったじゃないか」
見上げると、そこにはミッシェルがいました。
なにやってんだ、そんなとこで?

現在、ジョージの家を建築中で、ミッシェルはその手伝いをしているのだとか。


大工さんたち。
みんなこの村の住人です。

ジョージの家の前には牛が一頭いました。
おとなしい動物のはずですが、近づいてみるとけっこうこわい。
若干ビビり気味の私。

牛さんと仲良くなろうと思い、餌づけを試みます。

恐怖のあまり絶叫してしまう私。
なんと情けないサムライだ。

こんな小さな村にもバーはあります。
もちろんビールの銘柄は「スチャバ」!

バーはこの一軒しかないので、仕事を終えると、村中の若者がこの店へと集まってきます。
といっても、全部で10人ほどですが。

侍の私に対抗してか、先ほどの大工さんが家から刀を持ちだしてきました。
あんた、なんでそんなもん持ってるんだ?


「夕陽のきれいな丘がある」
ということで、ジョージに連れてきてもらったのがここ。
一面畑が広がっている雄大な景色に、心洗われます。

きれいな景色になど目もくれず、チャンバラを始めるジョージとミッシェル。
まったく、こいつらときたら・・・


ジョージの目が怖い・・・

俺ははるばるルーマニアまでやってきて、いったいなにをやってるんだろう。

この丘の中腹には牧場もあります。
おとなしい羊も、これだけたくさんいると、ちょっとこわい。

暗くてよく見えませんが、草をたっぷりと食べた後、一日の終わりに羊さんたちはみんな乳を搾り取られてしまいます。

柵の中に入れてもらいました。
地面はぬかるんでいて、足元がグニョグニョします。
なんでこんなに柔らかいんだ? 雨でも降ったのかな?
まさか・・・
泥だと思っていたものは、すべて羊のフンでした。
あたりは一面フンだらけ。
うへぇ、気色悪ぅー。


丘の別の斜面では、ジョージの友人たちがバーベキューの準備をしてくれていました。
私のためにジョージが企画してくれたようです。

とてもうれしいのですが、 寒い!
8月なのにたき火が恋しくなるとは。
日本ではまだまだ猛暑が続いているというのに、私は東ヨーロッパで火にあたりながら震えている。
旅の日程はまだ一か月以上残っている。
これからもっともっと気温が下がっていくんだろうなあ。
リュックの中には夏用の装備しかない。
大丈夫かな、俺。

バーベキューのメインメニューはこれ。
ミンチをスティック状にして、特別な味付けをしたもの。
ルーマニアの定番料理だと言っていました。
おいしそう!

このお肉、独特のクセがあるのですが、食べだしたら止まりません。
焼いても焼いても、足りません。
みんなバクバク食べています。
お肉もお酒もみんな彼らが準備してくれていて、私は完全に「お客さん」状態。
いいのかな、こんなにお世話になっちゃって。

夜も更けてくると、ますます冷え込んできました。
彼らのうち何人かが森へ入って、薪を集めてきました。
器用に火を起こし、盛大なキャンプファイアーの始まりです。
そういえばスロヴァキアでも同じようなことがあったっけ。
日本ではたき火をしたことなんてほとんどなかったのに、この東欧の旅ではすでに2回も経験してしまった。
満天の星。
草原を見渡す丘。
温かいたき火と肉の焦げるにおい。
そして素朴なルーマニア人たち。
俺には分不相応な、ぜいたくな夜だ。