カウチサーフィン(CouchSurfing)と愉快な仲間たち

俺はヤクザだ(キシニョウ、モルドヴァ)

キシニョウ(モルドヴァ)でカウチサーフィン(CouchSurfing)


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ホストのアントンの車で、キシニョウ市内まで送ってもらいます。
彼は仕事があるので、市内まで通勤するのですが、そのついでに乗せてもらったのです。
ラッキー!
カウチサーフィンってこういう時に便利です。

途中、「CHISINAU」 と大きく書かれたオブジェを見かけたのですが、アントンは職場へ急がねばなりません。
車を停めてもらって写真撮影したかったのですが、それは断念せざるをえませんでした。

残念。
これがカウチサーフィンの限界か・・・


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アントンの車から見たキシニョウの市内。
やはり日本とは走っている車の種類も異なり、なかなかおもしろいです。


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ところどころに面白そうな形をした建物が見えます。
モルドヴァはあまり観光地としてはメジャーではありませんが、なかなか楽しめそうな国だと感じました。
次回はもっと時間をとって、じっくりと滞在してみようかと思います。


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これがアントンの車。
日本車です。

最近日本ではあまり古い車を見かける機会はありませんが、実は私たちの知らないうちに世界中に散らばっているんですね。
私たちの感覚では
「もうこんな車、古くて使えないよ」
と思ってしまうような年代物でも、他の国へ行けば
「やっぱり日本車はいいな」
と大人気。

日本にいる時はあまり実感できませんが、日本という国の海外での存在感は、私たちが思っている以上に大きいようです。


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国会議事堂。
モルドヴァの国旗がひるがえっています。

仮説のステージを建設中でした。
後でアントンに聞いたところ、明日はモルドヴァの独立記念日なのだそうです。
そのための式典の準備をしているのでしょう。

そういえば、オデッサを訪れた時はウクライナの独立記念日だったっけ。
ポーランドでは士官学校の卒業式に出くわしたし。

ひょっとして俺ってお祭り男?!


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侍の衣装を着て、「勝利の門」の前で記念撮影。
式典の準備をしている軍人さんたちに何か言われるんじゃないかと心配でしたが、なーんにも言われませんでした。
もうちょっとかまってほしいな・・・


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大きなチェス盤を発見。
これ、自由に動かしてゲームをしてもいいそうです。

「こんな所に置いておいて、誰かが駒を盗んだりしないのだろうか」
と心配になりましたが、後でアントンに聞いたところ、やはり時々盗難の被害に遭うことがあるそうです。

それでも撤去したり柵を設けたりする気はないみたいですね。
モルドヴァは今日も平和です。


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キシニョウ大聖堂


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市庁舎


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キシニョウのメインストリート、シュテファン・チェル・マレ大通り。
まだ朝早いためか、人通りはそれほど多くありません。


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大勢の軍人さんたちが通りを行進しているところに出くわしました。
これから国会議事堂などの官公庁の警備に向かうそうです。


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シュテファン・チェル・マレ通りをつきあたりまで歩き、解放広場まで出ました。
このあたりは高そうなホテルが多いです。
モルドヴァにそんなにたくさんの観光客が来るとは思えないんですけどね。
商用かな。


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聖ティロン大聖堂。
入り口に料金所のような小屋があったのですが、まだ朝早いためか、受付には誰もいません。
他の人もお金を払っていなかったので、そのまま中へと進みます。


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教会の敷地内には早朝にもかかわらずたくさんの人がいました。
スカーフのようなものを被っている女性も多く、みんな敬虔な信者のようです。


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キシニョウ観光はこれでおしまい。
沿ドニエストル共和国に行くために、バスターミナルへと向かいます。

その途中、青空市場を発見。
朝早くから大勢の人でにぎわっています。
なんだかおもしろそうだったので、ちょっと中を冷やかしてみることにしました。


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ブドウを見ると、昨夜飲んだモルドヴァ・ワインを思い出してしまいます。
せっかくだからこのブドウと一緒に記念撮影をしよう、と思い、三脚にカメラをセットしたのですが、人通りが多くてなかなか写真を撮ることができません。

もたもたしているうちに、この市場の責任者のような人が来て、
「こんなところで写真なんか撮るな。 出ていけ」
と言われてしまいました。

といっても彼は本気で怒っているわけではなさそうで、
「サムライ! サムライ! 」
と他の商店主たちと笑っています。

今から思えば、彼らと一緒に写真を撮っておけばよかったのですが、
「出ていけ!」
と言われビビッてしまっていた私は、そそくさとその場を逃げ出してしまいました。


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「出ていけ!」
と言われたものの、この市場は人々の熱気があって、なかなか立ち去り難い魅力があります。

ドキドキしながらも、さらにウロウロしてしまいました。


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シュテファン・チェル・マレ通りを歩いているときは、人々の表情は硬く、
「モルドヴァの人間ってなんだかよそよそしいなあ」
と感じていたのですが、この市場の中は雰囲気が異なります。

道行く人々は、侍の衣装を着た私のことをチラチラと見ています。
確かな手ごたえを感じるのですが、なかなか私に近づいてこようとはしません。
モルドヴァの人はシャイなのかな。


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それでも時々陽気なおばちゃんたちに声をかけられます。
彼女たちは英語が話せないようなのですが、どうやら
「写真を撮れ!撮れ!」
と言っているようです。
がっしりと肩を組んできました。

ああ、これが若くてかわいい女の子だったらなあ。


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ここで急きょ、新たなマイ・ルールを設定することにしました。
それは、
「訪れた街すべてで、現地の美しい女性と一緒に写真を撮る」
というものです。
旅の思い出に「いい女」は欠かせません。

いい被写体はいないものかと獲物を探していると、私好みのかわいらしい少女を発見しました。
「一緒に写真を撮ってよ」
とカメラを構える仕草をしたところ、その女の子はギャーギャーわめきながら逃げまどいます。

あら? なんだか俺、変質者扱いされてる?

これはちょっと困ったことになったぞ、
と思っていると、その娘の母親らしき女性がその女の子に向かって、
「せっかくだからサムライと一緒に写真を撮ってもらいなよ」
みたいなことを言っています。
英語ではないのであくまでも私の推測ですが。

しかしその女の子はなおもキャーキャー言って私から逃げようとします。

とその時、お母さんが娘をガシッと捕まえました。
「ほれほれ、撮ってもらいな」

体格のいい母親の腕は太く、一度捕まってしまったら容易に逃げ出すことはできそうにありません。
娘はついに観念したのか、カメラに向かってほほ笑んでくれました。
でかしたぞ、お母さん。

カメラをお母さんに渡し、その女の子と一緒に写真を撮ってもらおうとしたのですが、
今度こそその娘は「ぴゅーっ」とどこかへと走り去ってしまいました。



その後も市場内をうろついていると、なんだか後ろに気配を感じます。
振り向くと、そこには私のことをじーっと見つめている一人の少女がいました。

他のモルドヴァ人とは明らかに異なる、派手な赤色のドレスを着たその少女の背はとても低く、
年齢はおそらく10歳に満たないと思われます。

しかし、どうも様子がおかしい。
彼女の顔つきは大人の女性そのものなのです。
物腰も落ち着いていて堂々としている。
首から上は成熟した女の人なのに、首から下は幼女体型。
見れば見るほど奇異な印象は強くなっていきます。

一瞬私は、その女性はなにかの病気を患っていて、体格は少女のまま大人になってしまったのではないかと思ってしまいました。

彼女は英語が話せます。
そして話しているうちに、やはりこの娘はまだ子供なんだということがわかってきました。
話し方も話の内容も小さな子供そのものです。

百聞は一見にしかず、ということで、ぜひともみなさんに彼女の写真をお見せしたいのですが、
その女の子は断固として写真撮影を拒否しました。
どうしてかはわかりませんが、彼女は異常に写真を嫌がります。
その意思の固さは普通じゃありませんでした。



その女の子と別れると、すぐに別の男性に声をかけられました。

「先生、ぜひうちの道場に来て稽古をつけてくれ」

どうやら彼は私のことを合気道の達人と勘違いしたようです。
そういえば昨日、シュテファン・チェル・マレ通りで合気道の道場を見たっけ。
彼はあそこの生徒らしいのです。

「いや、俺はこれから沿ドニエストル共和国に行かなきゃならないから・・・」
と言って断ると、

「稽古は夜からだ。あんたの電話番号を教えてくれ。ほんのちょっとでいいんだ。日本の先生に稽古をつけてもらえる機会なんてないから、きっとみんな大喜びするはずだ。頼むっ。」

何度も断ったのですが、彼はなかなか引き下がりません。
どうしても今夜道場に来てくれと言って聞かないのです。

仕方がない。
ほんとの事を言うとするか。

私はこんな格好をしているけれども、合気道なんてまったくできないのだ、
ということを正直に彼に打ち明けました。

すると彼は

「 Hey man ! Come on ! 」
とだけ言って、とても残念そうにしながら立ち去っていきました。

こういうことは初めてではありませんが、なんともいえないみじめな気分になります。
侍の衣装を着てるだけじゃだめだ。
日本に帰ったら合気道の道場に通おう。


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男が去ったと思ったら、今度は女の子が私のことを見つめていました。
サムライはモテるなあ。

でもごめんね。
俺は偽サムライなんだ。

私が話しかけても、その女の子はちょこんと首をかしげるばかり。
どうやら英語はわからないらしい。

ではいったいこの子は俺と何がしたいのだろう。
カメラを向けると、恥ずかしそうに下を向いてしまう。


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「下を向いちゃだめだよ。
 ほらほら、ちゃんとレンズを見て!
 こっち、こっち!」

私がその女の子にそうお願いすると、彼女はもじもじしながらもおずおずと顔を上げてくれました。
その恥ずかしそうにしている様子がまたかわいいのなんのって!

なんだかもっといじめたくなってきました。
俺って病気かなあ。


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はたから見てると、まるで私がいたいけな少女をいじめているようにでも見えたのでしょうか。
別の女性がさっとやってきて、女の子の肩を抱きしめました。

「私が一緒にいてあげるからね。もう大丈夫よ」

おおっ。
かわいい女の子が二人に増えた。
私としてはとてもラッキーです。

ところでこの女性は少女とどんな関係なのだろう。
お姉さんなのかな。
それともお互いの家が近所だとか。

「姉妹じゃないわよ。
 それにこの娘を見るのも今日が初めてだし」

へー、そうなんだ。
まったく見ず知らずなのに肩を組んで一緒に写真を撮ったりするのか。
モルドヴァの女の子はオープンな性格なんだなあ。



少し市場に長居しすぎた。
そろそろ沿ドニエストル共和国に向かわないと時間がなくなってしまう。
明日には俺はモルドヴァを出国しなくてはならないのだから。

バスターミナルは市場に隣接しているからすぐにわかった。
だが問題はどれが沿ドニエストル共和国行きのバスかだ。

沿ドニエストル共和国はモルドヴァから分離独立する形で自らを国家と名乗るようになった。
その過程では多くの血が流れている。
準戦争状態にあると言っても過言ではないだろう。

そんな状況にある国に行くバスが、本当に首都のターミナルから堂々と出発するのだろうか。
人に聞くのもためらわれた。
もしも私が沿ドニエストル共和国に行くことをこの国の人が知ったら、

「なにっ? お前はあいつらの国に行くのか! 許せんっ」

とか言われて怒られるんじゃなかろうか。


それにそもそも私はどこに行きたいんだろう?
沿ドニエストル共和国のことはつい最近知ったばかりで、十分な情報取集をしていない。

あてもなくバスターミナル内をうろうろしていると、一人の男が声をかけてきた。
侍の衣装を着てるのだから人目を引くのは当然だ。

50歳くらいに見えるその男からは、どこか暴力的な臭いがした。
日本の文化に興味がありそうにしていたので話を聞いてみたら、なんと日本に行ったことがあるらしい。
いったい何の用で?
この男が観光目的で外国を訪れるようには見えない。


前述したとおり、沿ドニエストル共和国は微妙な立場にある。
いちおう独立を宣言してはいるが、ほとんどの国は認めていない。
しかし独自の政府や軍隊を持っているものだから、うかつに立ち入ることはできない。

国際社会の目が行き届きにくいのをいいことに、この国は違法な薬物や武器の流通ルートになっているとも聞く。
大量のアングラマネーが流れ込み、実はこの国は豊かなのだ、という人もいる。


今、私の目の前にいるこの男も、ひょっとしたらそういう世界の住人なのかもしれない。
少しこわかったが、なかなか彼は親切だった。

「なにを探してるんだ?」
「沿ドニエプル共和国に行きたいんだ」

「ティラスポリか?」
「そうだ」


本当はティラスポリなんていう地名は知らなかったが、まっさきにこの男の口から出てきたところをみると、きっと沿ドニエストル共和国を代表する有名な街なのだろう。


「こっちだ。ついてこい」

男はそう言って私の前を歩き出す。
何人かの運転手と話をした後、一台の車を指さした。

「あの車に乗れ」

「いくらだ?」
バスの値段を聞くと、男はチケット売り場らしき建物に連れていってくれた。
意外と親切なんだな。


「俺はヤクザだ」

男は別れ際にそう言った。
ポケットからライターを取り出して私に見せる。
そこには
「SAMURAI 」
と書いてあった。

多くの日本人は「キシニョウ」と聞いても、その都市の正確な位置を思い浮かべることはできないだろう。
そんな街の市場のかたすみに、「SAMURAI」と書かれたライターを持つヤクザがいる。
日本ってすごくない?


彼にはいろいろと世話になったので、礼を言って握手をしようとしたら拒まれた。

「つい最近友人が死んだんだ。
 だから今俺は喪に服している。
 悪いが握手はできない」


その友人とやらがどんな死に方をしたのか、やはり聞かない方がいいんだろうな。





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キシニョウでカウチサーフィン(モルドヴァ)

キシニョウ(モルドヴァ)でカウチサーフィン(CouchSurfing)




オデッサ(ウクライナ)での私のカウチ。
すぐ隣にはサンベルとリーザの寝室があります。
二人の愛の巣に闖入した私は、お邪魔じゃなかったのかしらん。




彼らの飼っているオウム。
サンベルの父親がアフリカから持ち帰ったものだそうです。

このオウムはなかなか賢く、我々と会話をすることができます。
しかも、ただ「オウム返し」するだけでなく、自分で状況を判断することができるようなのです。
このオウムと話していると、彼の知能の高さに背筋が寒くなる思いをすることがありました。




オデッサからモルドヴァのキシニョウへは電車が通っているようなので、当初は電車で行くつもりでした。
しかし、サンベルたちが言うには、バスの方がいろいろと便利なのだとか。
彼らは時刻表も調べてくれ、車でバスターミナルまで送ってくれました。
バスターミナルの位置はガイドブックには載っていません。
いいホストに巡り合えて本当によかった。




オデッサのバスターミナル。
サンベルたちはチケットを買ってくれ、乗り場まで一緒についてきてくれました。
至れり尽くせりです。

オデッサではずっと彼らが一緒にいてくれたので、私は一歩たりとも独りで歩くことはありませんでした。
おかげで3日間もいたにもかかわらず、オデッサの地理はいまだに把握できていません。
良いホストに恵まれると、バックパッカーとしての勘が鈍っちゃうなあ。




バスが出発するまでには時間があったので、サンベルたちと別れた後、隣接する市場をぶらつくことにしました。






この車でモルドヴァまで行きます。
「オデッサ」はかろうじて読めるけど、「キシニョウ」はどうしても読めません。
ほんとにこの車であってるのかと不安になります。


車の中で一人の女性に話しかけられました。

「あなた日本人なの?
 なんでわざわざこんな大変な時期にウクライナになんか来るわけ?」

ウクライナを旅行していると、いろんな人からこの質問を受けます。

でも、そんなに大変かなあ。
銃声が聞こえるわけではないし、空襲警報だって鳴りません。
普通に観光できます。
制限や不自由を感じたことはありません。


ウクライナ~モルドヴァ国境では、けっこう念入りに荷物検査をされました。
空港と違い、普通は陸路国境越えの場合はそれほど厳しくチェックされることはありません。
戦争の影響も少しはあるのかな。

私の荷物の中には、侍の刀があるので、けっこう冷や冷やしながらの国境通過となりました。




モルドヴァ領に入ってからしばらくして、食事休憩のために車は停まりました。
私はモルドヴァのお金はまだ持っていなかったので、ご飯はがまんです。


私たちの乗ったバスは、若い男女が運転手と助手でした。
ところが、この二人はどう見てもデキてるのです。
車内ではまるでドライブ・デートでもしているかのようにラブラブ状態。

もちろん休憩中も手をつないでレストランへと入っていきました。
きっと楽しくおしゃべりでもしているのでしょう。
なかなか出てきませんでした。

早く出発しようぜ。
俺は今日のうちに少しでもキシニョウを観光しておきたいんだ。




オデッサ~キシニョウ間には大きな都市はありません。
小さな村が点在するのみです。

東ヨーロッパを旅行していると、日本というのはほんとに人口密度の高い国なんだなあ、と思い知らされます。




これがモルドヴァの伝統的な家屋なのだろうか。
なんだか独特の形をしています。




バスターミナルに到着。
ガイドブックの地図を見る限り、バスターミナルはキシニョウの市街地のど真ん中にあるはずなのに、
ここはどう見ても郊外に位置しているようにしか見えません。

英語の通じそうな若い女性に聞いてみると、やはりここから市街地まではかなり距離があるとのこと。
「歩いて行けるか?」
と聞くと、彼女は私の荷物にちらっと目をやり、
「無理!」
と即座に答えました。

ガイドブックの地図にはこのバスターミナルは載っていないので、グーグルマップとGPSで現在位置を確認します。
たしかに街の中心部までは遠そうですが、歩いて行けない距離ではなさそうです。
さきほどの女性に
「1時間あればたどり着けるか?」
と聞くと、
「そんな長い距離歩いたことないからわかんない!」
と失笑されました。


バスターミナルには両替所があったので、モルドヴァのお金を入手することにします。
窓口に並ぶと、気配を察したのか、私の前にいた女性が振り返ります。
私の姿を認めるや否や、私の目をにらみつけます。
きっと私が彼女の荷物を盗もうとしているとでも思ったのでしょう、彼女は私の顔をにらみつけたまま、地面に置いていた荷物を大事そうに抱きかかえました。

気持ちはわかるけどさあ、なんか感じ悪ぅー。
人のことを泥棒あつかいするなよ。
俺、なにもしてないのに!


しばらく待った後、ようやく私の順番がやってきました。
窓口の方へ進もうとすると、後ろからサッと割り込んでくる女性がいます。

「おいっ! 俺が先だろ? ちゃんと順番を守れよ!」
と怒鳴ると、その女性は私の顔をにらみつけます。
なんで俺がにらまれなきゃならないんだよ。
悪いのはそっちの方なのに。


なんなんだ、モルドヴァ?
この国の人間はみんなこんな感じなのか?

その国の印象は出会った人にかなり左右されます。
モルドヴァでの最初の一歩はあまり芳しくないものとなりました。




けっきょくウクライナのお金を両替してはもらえませんでした。
ATMを探すのもめんどうなので、やはりバスは使わずに歩いてキシニョウ市内へ向かうことにします。

でもその前に腹ごしらえ。
リーザがくれた弁当をいただきます。
ミッキーマウスの焦げ目の付いたパン。
優しかったウクライナの人たちの顔が目に浮かびます。

それにひきかえ・・・




市内への行き方を教えてもらおうとしたのですが、二人に聞いたところ、それぞれ別の方向を教えられました。
最期に頼りになるのはやはり自分しかいないということか。
グーグルマップとにらめっこしてどの道へ進むか考えます。
遠回りだけど簡単な道を行くか、近道だけどややこしそうな道を選ぶか。

迷うのを覚悟で近道を行くことにしました。

交通量は多いのに信号はなく、横断歩道などという歩行者に優しいものはこの国には存在しないようです。
おまけに私は重い荷物を担いでいます。
車が途切れた瞬間を見計らって道を渡るなんて芸当はできないのです。

しかたがない。
ベトナム方式で行くか。

車が猛スピードでビュンビュンと行き交う中、ゆっくりと道路を横断します。
日本で同じことをやったらクラクション鳴らされまくりでしょう。

しかし、意外にもみんなおとなしく、私のためにスピードを落としてくれました。
モルドヴァ人もいいとこあるじゃん。






モルドヴァというのはとても貧しい国だというイメージがあったのですが、とてもそんなふうには見えません。
たくさんの車が走り、新しい建物もあちこちに見受けられます。
豊かなのはいいけど、物価が高かったらいやだなあ。




キシニョウにはなぜか、いたるところに両替商があります。
何軒かの店に入ってみたのですが、なかなかウクライナの通貨を交換してくれる所はありません。
隣の国の通貨だというのに。
ロシアと戦争状態にある国のお金なんて危なくって使ってられない、ということでしょうか。

店先に出ている通貨レート表にはウクライナは載っていませんでしたが、ダメもとである両替商に入ってみました。
今までに試してみた何軒かの店では、ウクライナのお金を見せた途端に首を横に振られたのですが、
この店ではどうやら交換してもらえるようです。

計算機に数字を打ち込み、受付の女性が私にそれを見せます。
かなり悪いレート。
ごっそりと持ち金が減ってしまいます。

しかし、ウクライナのお金なんて持っていても、この先使うあてはありません。
これまでに何軒も両替商をまわりましたが、すべて門前払いでした。
少額でもいいから、モルドヴァのお金に換えておくしか他に手はなさそうです。


私の旅のスタイルは、複数の国を駆け足で一気に回るというもの。
国によって通貨が異なるので、両替のロスを防ぐためにも、余らないように計算しておくのが鉄則です。
あるいは、なるべくクレジットカードで支払うようにするというのも一つの手段でしょう。

でも、私は小心者なので、常に懐に余裕がないと不安なのです。
なのでついつい大目にお金を引き出してしまいがち。

それに、クレジットカードはあまり使いたくありません。
せっかく遠い国まではるばるやってきたのだから、その国のお金をこの手で使ってみたい。


西ヨーロッパでは多くの国がユーロを導入しています。
しかし、ここ東ヨーロッパではほとんどの国がそれぞれ独自の通貨を使用しています。
国境を超えるたびに両替を繰り返していると、そのコストもバカになりません。

それでも、それでも私は現地のお金を触ってみたいんだよ。

東欧の国の中にも、ユーロの導入を検討しているところがあります。
近い将来、ほとんどの国が統一の通貨を利用するようになるかもしれません。
さらにはクレジットカードや電子マネーの普及により、お金そのものがなくなる日もそう遠い未来の話ではないでしょう。

だからせめて今だけは、人の手垢にまみれてしわくちゃになったお札を使っていたいんだよ。




ようやく手に入れたモルドヴァの紙幣。
シュテファン・チェル・マレの肖像が印刷されています。
東ヨーロッパを旅行していると、うんざりするくらいこの名を聞くことになります。




キシニョウのメインストリート、シュテファン・チェル・マレ通り。
ここまで来ればもう迷う心配はありません。

ちょうどタイミングよく、ここでのホスト、アントンからメールが届きました。

「マサト、今どこにいるんだ?」

胸を張って答えられます。

「シュテファン・チェル・マレ通り!」

「Great ! 」

アントンは詳しい待ち合わせ場所をメールで送ってくれました。
彼はすでに仕事を終えているようです。
あまり待たせるわけにはいきません。
背中のリュックが重いけど、少し歩を早めることにしよう。




一国の首都の、メインストリートとは思えない惨状。
モルドヴァの人は細かいことは気にしない主義なのかな。






東欧はどこもそうなのですが、ここモルドヴァでもアジア人をまったく見かけません。
ここまでくると気持ちいいです。

東洋人は珍しいはずなのに、誰も私の存在など気にもとめない様子。
モルドヴァ人は目が悪いのか、好奇心が希薄なのか。
アジア人だからといって差別されることはないのですが、まったく無視されるのもさびしいなあ。




こんなところにも合気道の道場が!




キシニョウのランドマーク、「勝利の門」にたどり着くことができました。
アントンが指定した場所はこの近くのはず。
でも、私の地図には載っていません。
どうせならこの「勝利の門」を待ち合わせ場所にしてくれりゃいいのに。

なかなか待ち合わせ場所を見つけることができず、ウロウロしていると、アントンから再びメールが。

「今どこにいるんだ?」
「勝利の門 ! 」

アントンは近くにいたようで、歩いてやってきてくれました。

いや、だから最初からここを待ち合わせ場所にしとけば・・・



アントンの車に乗り込み、彼の家へと向かいます。
どうやらここからかなり離れた場所のようです。

明日はアントンは仕事があるので、私は自分一人でキシニョウ観光をしなければなりません。
でも、彼の家がキシニョウ市内からこんなに遠いんじゃあ不便だなあ。

しかし、アントンの話を聞いて、私がいかに甘えたことを言っているのか思い知らされました。

彼は以前、日本人の女の子をホストしたことがあるそうです。
今回私は彼の車で家まで連れていってもらっていますが、その女の子は住所だけ渡されて、自力で彼の家までたどり着いたのだとか。
アントンの家はキシニョウ市内からは遠く、「地球の歩き方」の地図には載っていません。
バスの乗り方も書いてありません。
それなのに独力でアントンの家を探し当てるとは。
日本の女子バックパッカーはたくましいのだな。


彼の家で荷物を降ろし、さっそく夕食です。

「なにが食べたい?」
とアントン。

もちろんモルドヴァ料理!

でも、私の持っている「地球の歩き方」にはキシニョウ市内のレストランは1軒しか載っていません。
アントンにそれを見せると、

「もっといい所があるよ」

ということなので、連れていってもらいました。
彼の家から歩いていける距離です。




このお店はモルドヴァのファミレスのようなもので、あちこちに姉妹店があります。
値段もリーズナブル。

アントンがこんな話をしてくれました。

あるテレビ番組で、二組のレポーターがモルドヴァを旅行することになりました。
一人は潤沢な資金を持たされ、もう一人は少額のお金しか持っていない、という設定です。

お金をたくさん持っている方の人は「地球の歩き方」にも載っている高級レストランへと行き、
貧乏な方の人はこのお店で食事をすることになりました。

どちらの店も、同じモルドヴァの伝統料理をだします。
もちろん、値段には雲泥の差がありますが。

ところが、でてきた料理を見た視聴者はびっくりしました。

「どっちの店で食べても一緒じゃん!」


もちろん、見た目ではわからない素材の違いや、調理の手間暇の差はあるのでしょう。

「それでも俺はこっちの店の方をすすめるよ」

地元の人がそう言うのですから、私にも異存はありません。


あっ、でもモルドヴァの物価は安いので、普通の日本人旅行者の感覚からすれば、高級な方のレストランを選んだとしても、
「こんなに食べてもこの値段なの? 安い!」
と思えることでしょう。





モルドヴァの料理なんてなんにも知らなかった私は、すべてアントンにおまかせすることにしました。

「典型的なモルドヴァ料理を食べさせてくれ!」

という私の注文に、彼は困っています。
メニューに載っているのはどれもモルドヴァ料理なので、その中からどれか一つ選べ、と言われてもすぐには決められないのでしょう。




お店の内装も、伝統的なモルドヴァの家屋をイメージしているようです。








モルドヴァの料理というのはあまり特徴がなく、それほど印象に残りませんでした。

しかし、しかしワインは違います。
私はワインのことなんかまったくわかりませんが、そんな私でもモルドヴァ・ワインにはうならされました。
むちゃくちゃおいしいです、このワイン。
私が今までに飲んだどんなワインとも比べものになりません。

ファミレスのチェーン店で飲める一番安いワインですらこんなにおいしいのです。
高級店で飲む本物のモルドヴァ・ワインなんて飲んだ日にゃあ、いったいどうなってしまうんでしょうね。
いつの日か試してみたいものです。




左がホストのアントン。
おっとりとした性格で、彼と一緒にいると心が安らぎます。




食事の後、スーパーに立ち寄りました。
モルドヴァは物価が安いので、ここで必要なものをそろえておこうと思ったのですが、品ぞろえはあまりよくありません。
日本ってやっぱり豊かな国だったんだなあ。


幹線道路から一歩外れると街灯はなく、あたりは真っ暗。
道路工事で掘削しているのに、フェンスで覆ったりもしません。
うっかりしてると転落してしまいます。

いたるところでインフラの不十分さが目につきます。
やはりこの国はそれほど豊かではないのかな。


アントンはとても親切で、キシニョウの見どころを丁寧に教えてくれました。
ガイドブックにはほとんど記載がないモルドヴァですが、実はいろいろと楽しそうな場所はあります。

しかし、アントンには悪いのですが、私は彼が教えてくれた場所をほとんど訪れることはできないでしょう。
もともとモルドヴァで観光をしようというつもりはありませんでした。

私には、

「すべての国でカウチサーフィンを利用する」

というミッションがあるためにモルドヴァにやってきただけです。
なのでこの国には2泊するだけです。
そのうち観光に費やせるのは実質1日のみ。

しかもその一日は、キシニョウではない別のところにあてるつもりです。


ガイドブックにはモルドヴァの情報はほとんど載っていないので、インターネットで情報を集めていました。
そこで偶然、「沿ドニエストル共和国」なるものを発見してしまったのです。

これはウクライナとモルドヴァの間にある地域で、彼らは独立国を宣言しているのですが、ほとんどの国はそれを認めていません。
沿ドニエストル共和国を独立国家として認めているのはロシアくらいのものです。

しかし、過去にかなり激しい紛争があったため、モルドヴァの施政権が及んでいないのも事実なのです。
彼らは独自の政府と軍隊を持っているため、モルドヴァの警察は立ち入れません。

ということは、国際的にはそこは無法地帯?

そんな状況なので、日本の外務省も邦人にはここに行ってもらいたくなさそうです。

独立を宣言しているのに、誰からも認めてもらえない。
それなのに誰も手出しできない。

こんなおもしろうそうな国、見過ごすわけにはいかないじゃないか!

というわけで、明日 行ってきます。


テーマ : ヨーロッパ旅行記
ジャンル : 旅行

ポチョムキンの階段(オデッサ、ウクライナ)

オデッサ(ウクライナ)でカウチサーフィン(CouchSurfing)




今朝もリーザが朝食を用意してくれました。
サワークリーム? チーズ?
よくわからないけど、めちゃくちゃ美味しかったです。




オデッサの街を歩いていると、こんな車を見かけました。
持ち主はやはり日本好きなのだろうか。




港の近くには、「愛の橋」というのがあります。
地球の歩き方にも載っているくらいなので、かなりメジャーなスポットなのでしょう。

ここは恋人たちが永遠の愛を誓って、橋に南京錠をかけていく場所なのですが、
現在は橋ではなく、このオブジェに南京錠をかけるように指導されているようです。

というのも、あまりにたくさんのカップルが鍵をかけていくため、その重さを無視できなくなってしまったのです。
このままでは南京錠の重みに耐えきれず、橋が落下する恐れも・・・

サンベルたちからその話を聞いたとき、
「んなアホな。 それくらいで橋が落ちるもんか」
と思ったのですが、この話にはまだ続きがあります。

卒業式などのイベントのある時には、酒に酔った学生たちがこの橋に大挙して押し寄せて、みんなで一斉に橋を揺らすのがオデッサの隠れた習わしなのだとか。

この「愛の橋」、言っちゃあなんですが、かなりちゃちな造りです。
普通に歩行者が何人か歩いているだけでかなり揺れます。

それを酔った学生たちが大勢でゆすったりしたら、いつの日か本当に落ちるかもしれません。
これで私はウクライナのニュースから目が離せなくなってしまいました。




港には数隻の軍艦が見えます。
これらの艦船はもともとはクリミア半島にある軍港を母港としていました。

しかし、かの地は現在ロシアに取られてしまったので、やむなくオデッサに避難しているのだそうです。
その混乱の中、何隻かは寝返ってロシア側についたのだとか。
大丈夫か、ウクライナ?




ついにやってきました、オデッサ港。
これこれ。
この写真を撮りたかったんだよ。

それにしても、どうして俺はこの場所にこんなにも惹かれるのだろう。
ガンダムのオデッサ作戦のせい?




侍のかっこうをしていると、いろんな人から記念撮影をせがまれます。






私の写真にちょっかいをだしてくれるリーザ。
彼女のそういうとこ、好きです。






それにしても絵になるカップルだ。
見せつけてくれるぜ。




このオデッサを訪れるにあたって、私は映画「戦艦ポチョムキン」を見てきました。
映画の中のワンシーン、暴動を鎮圧する冷酷な兵士になりきって階段を下りる私。

ガイドブックによると「戦艦ポチョムキン」はソヴィエト映画史上ナンバーワンなのだそうだ。
え? あれで?
ということは他のソヴィエト映画はあれよりもっとつまらないということなのだろうか。




ウクライナ中どこへ行ってもこの青と黄色を目にする。
これほど自国の国旗を愛する民族も珍しい。
それとも、日本人の日の丸に対する感情が複雑なだけなのだろうか。




オペラ・バレエ劇場。

キエフ市民はキエフの劇場がウクライナ一だと言い、
リヴィウ市民はリヴィウのものが一番だと言う。
そしてもちろん、オデッサ市民はオデッサのバレエ劇場が一番だと言って譲らない。
まあ気持ちはわからんではないが。




オデッサはプーシキンとゆかりがあるようだ。
といっても、私はプーシキンのことなんて何も知らない。




プーシキンと一緒に記念撮影。
あまり気乗りしなかったのだが、サンベルたちが撮れ、撮れ!とうるさいのでしかたなかったのだ。


この後、サンベルとリーザは、以前彼らが暮らしていたというアパートにも案内してくれた。
なんの変哲もない住宅街で、観光スポットからは離れている。
もちろんガイドブックには載っていない。

本来なら退屈きわまりないはずなのだが、なつかしそうに眼を細めて歩くふたりを見ていると、なんだかこっちまでほんわりと暖かくなってくる。
こういう時間も悪くない。



今日はウクライナの独立記念日。
港では記念式典が行われるらしい。

海軍艦艇が勢ぞろいし、空軍のアクロバットチームが華麗なデモンストレーションを披露する。
さらにはパラシュート部隊が巨大なウクライナ国旗を掲げながらダイブしてくるのだという。
そんな特別な日にオデッサを訪れることができた俺はツイてる。

いったん家に戻り、サンベルの妹たちと落ち合う。
彼女たちも記念式典に一緒に行くのだが、軍事パレードに興味があるわけではない。

なんと、彼女たちは私に会いに来たのだという。

聞けば、サンベルの妹とその友達はコスプレイヤーなのだそうだ。
日本のアニメに夢中な二人。
そんな彼女たちは私がただ日本人というだけの理由で、うっとりとした目で私を見つめてくる。
日本人に生まれてきてよかった!


サンベルの車に乗り込み、記念式典会場へと向かう。
日本大好きウクライナ少女たちに両脇をはさまれ、ゴキゲンな私。
彼女たちは「もっと日本の話を聞かせて」とせがんでくる。
日本にいるとなかなか気づかないが、日本ってけっこういい国なのかもしれない。


上機嫌な私だったが、港に着いた途端、雲行きが怪しくなってきた。
さっきまで快晴だったのに・・・・
もしも雨が降ってきたら、パレードはどうなるのだろう?

と言っているはたから雨が降り出した。
それも土砂降りの大雨。

「どうしてこのタイミングで降り始めるわけ?
 この1か月、雨なんて一滴も降らなかったのに!」
サンベルが叫ぶようにつぶやく。

夏のオデッサに雨が降ることなどめったにないらしい。
自分の運の悪さを呪った。

この天候じゃ空軍の戦闘機によるアクロバット飛行は絶望的だ。
パラシュート部隊の降下もないだろう。
海軍パレードだってあやしいもんだ。




傘をさして海を眺めていると、一艘の船が横切っていくのが見えた。

「パレードができるかどうか、波の状態を確かめに来たのよ」
と誰かが言う。

ウクライナ海軍の船らしいが、とても小さい。
荒波に小さな船体が翻弄されている。




タタタタッ、タタッ。

なんの前触れもなく、機関銃の音が響いてきた。
どうやら模擬戦闘が始まったらしい。




照明弾を落としたりしているが、解説がないので、いったいなにをやっているのかいまいち理解できない。
それに、どの船も小さい。
海軍のパレードだというから、もっとごっつい戦艦を期待していたのだが、どうも沿岸警備隊っぽい。
がっかりだ。




ようやく戦艦が現れた。
ヘリコプターが戦艦に着艦すると、あちこちから歓声が沸き起こる。

ここからは目と鼻の先のクリミア半島には、ロシア軍が駐留している。
オデッサ市民と私とでは、軍事パレードに対する感慨はまったく異なるのだろう。




銃声が止み、どうやらパレードは終わったようだ。
悪天候だから仕方ないのかもしれないが、いまいち盛り上がりに欠ける。


近くの喫茶店に入り、何か飲もうということになった。
みんな暖かいドリンクを注文する。
だが、ココア一杯くらいでは、冷え切った体を温めることなんてできやしない。

今は8月。
ここは東ヨーロッパ有数のビーチリゾート。
それなのに、なぜ俺たちは寒さに震えているのだろう。




サンベルの妹とその友達。
今度会うときは、初音ミクのコスプレで来てね。




サンベルの車で家へと向かう。
雨は上がり、晴れ間も見えてきた。
雨が降っていたのは記念式典の間だけだ。
なにかの嫌がらせか?




雨があがったので、かねてからの予定通り、サイクリングに行くことにした。
アルカーディアまではけっこう距離があるが、海沿いのサイクリングロードがあるそうだ。




レストラン「KYOTO」




サイクリングロードをひた走る。
リーザの自転車のカゴにはラジカセが入っていて、音楽を聴きながら走ることができる。
なんだか楽しい。
ウキウキしてきた。




天気は快晴とはいかなかったが、それでも海沿いのサイクリングロードを走るのは気持ちよかった。
しかもただの海ではない。
ここはオデッサ、黒海沿岸のビーチリゾートなのだ。






アルカーディアに到着。
予想以上に都会だった。
オデッサ市内よりもはるかに人口密度が高そうだ。






ホテルにリゾートマンション。
バーやレストラン。
ビーチというよりは、一大歓楽街のようだ。

建築中の高層ビルが何棟も見える。
この街はこれからさらに混雑することになるのだろう。




オデッサからアルカーディアまで自転車で行くという発想はなかった。
ガイドブックにもサイクリングロードのことは載っていない。
いい経験をさせてもらった。

ありがとう、サンベル、リーザ。




今日はウクライナの独立記念日。
オデッサ港では花火大会が開かれるらしい。
ポチョムキンの階段から見る打ち上げ花火。
これは一生の思い出になるだろう。

花火を見ようと、広場には大勢の人が集まっていた。
だが、予定時刻になっても花火は上がらない。
昼間の雨で火薬がしけってしまったか?




花火はあきらめて、食事にすることにした。
彼らが連れてきてくれたのは、その名も「オデッサ・カフェ」。
そしてもちろんオデッサのビールを注文する。




それにしても寒い。
できればオープン・カフェじゃなくて、店舗の中に入りたかったな。

凍えながらビールを飲む私を見かねて、リーザが毛布を持ってきてくれた。
真夏の夜のオープンテラスで、肩に毛布を掛けながらビールを飲む。
なにかが間違ってる気がする。




サンベルとリーザ。
今日も一日、付き合ってくれてありがとね。
君たちは最高のカップルだ。


テーマ : カウチサーフィン(Couch Surfing)
ジャンル : 旅行

目のやり場に困る (オデッサ、ウクライナ)

オデッサ(ウクライナ)でカウチサーフィン(CouchSurfing)


記念撮影と職務質問でかなり時間を食ってしまった。
列車はほぼ定刻に到着したから、オデッサの駅にはカウチサーフィンのホスト、サンベルが迎えに来てくれているはずだ。
彼を待たせてしまったか?

急いで駅舎に向かって歩いていると、

「マサト?」

と呼びかけられた。
どうやら彼がサンベルらしい。

カウチサーフィンのプロフィールで見るよりもなかなかの男前。

「いやあ、ごめん、ごめん。
 警察官に職務質問されちゃってさあ。
 ほら、これ見てよ。
 侍の刀に見えるだろ? 
 これのせいで警官に怪しまれたんだよ」

と弁解しても、

「それが彼らの仕事だからな。
 長旅で疲れただろ。
 荷物を持つよ」

とサンベル。
予想以上に親切な好青年だ。

彼とは日本を発つずいぶん前からFacebookで友達になっていたのだが、サンベルはあまりFacebookのヘビーユーザーではないらしい。
サンベルがカウチサーフィンを利用するのは今回が初めて。
CouchSurfingのプロフィール・ページもほとんど白紙で、顔が見えない。
彼について事前に得られる情報量が少なく、
「いったいどんな人なんだろう?」
と少し不安に思っていたのだが、取り越し苦労だったようだ。


「ここから君の家までは遠いのかい?」
「いや、車で来てるからすぐだ」

やったー。
重い荷物を持って歩かなくてすむ。

駅前に停めてあった彼の車を見て驚いた。





「BMWじゃないか!」
「中古の安物だけどね」

サンベルはそう謙遜するが、腐っても鯛だ。
ひょっとして俺はいいホストに拾われたのかもしれない。
今回の旅ではこれまでずっとホストに恵まれてきたのだが、正直言ってサンベルにはあまり期待していなかった。
だが、どうやらそれはうれしい誤算だったようだ。
そしてそのことはすぐに別の事実によって裏付けられた。

豪華な門をくぐり、広大な中庭に車を停めると、そこには風格を感じさせる建物がそびえていた。
共産主義時代、この土地を治める高級官僚用に建設されたものらしい。

天井がおそろしく高い。
必要以上に高い。
「電球を取り替える時はどうするんだろう?」
と余計な心配をしてしまうほどに高い。

「若造のくせにこんなに高そうな家で暮らしているのかよ」

内心、彼に嫉妬したのだが、家の中に入ってすぐにそれは憎悪に変わった。
サンベルの奥さんが私のために食事を用意して待っていてくれたのだが、これがまたとんでもない美人(しかも色っぽい)。
そして彼女の手料理も見るからにおいしそう。

BMWを乗りこなすイケメンで、
歴史のある豪邸に住み、
料理が上手でとびきり美人(しかも色っぽい)の奥さんを持つ男。

幸せいっぱい、ラブラブ・モードのこの二人の愛の住処に、俺はこれから3日間お世話になるのか。
ラッキー!と思う一方で、どこかいじけている自分がいた。



( サンベルの奥さん、リーザの作ってくれた手料理)




食事が終わると、さっそく彼らが外に連れ出してくれた。
彼らの家はなかなかいいロケーションにあるみたいで、どこへ行くにも歩いて行ける。

外へ出てすぐに、キエフともリヴィウとも異なる開放的な雰囲気に圧倒された。
戦争で古い建物はあらかた破壊されたはずだが、いたるところに特徴的な建築群を目にすることができる。



彼らの家はパッサーシュのすぐ近くにあった。
ここはガイドブックも「忘れずのぞいてみよう」と推奨する場所。
「彫刻で飾られたアール・ヌーヴォー建築」がここのウリなのだが、アーケードに入るとまずその天井の高さに圧倒された。
それよりもさらに私を驚かせたのは、道行く人々の美しさ。
それほど着飾っているわけではないのだが、みんなスラリと姿勢がよく、「サッサッサッ」と軽やかに歩く。
おしゃれな街に住んでいる人はやはりおしゃれなのだな。
侍の衣装を忍ばせたリュックからにょきにょきと刀を生やしている自分が、とてつもなく場違いな存在に思えた。


(パッサーシュ)



ここから歩いて海まで行くのだという。
私が水着を持っていないことを伝えると、「じゃあここで買っていこう」という話になった。

この瞬間、私のヌーディストビーチへ行くという夢は潰えた。
リーザも一緒に行くというのに、
「いや、俺はヌーディストビーチに行きたいんだっ! ぜひ連れていってくれ」
なんて言えるわけがない。

来年の夏は、ホストのことを良く調べてからカウチリクエストを送るようにしようと思う。


「ビーチまでは歩いてすぐだよ」
と彼らは言うが、土地勘のない私にはかなりの距離を歩いているように感じられる。
汗もかいてきた。

「早く冷たい水に飛び込みたいなあ」
と思い始めたころ、大きなマンションが見えた。
ウクライナのセレブ御用達の超高級リゾートマンションらしい。



「海の見えるマンション」
ということは、ビーチはすぐそこのはずだ。

目を凝らすと、たしかに海が見える。
ついに来たぞ。
あれが黒海か。




ついにやってきたぞ、黒海!
はやる気持ちを抑えて、侍の衣装に着替える。

黒海に特に思い入れがあるわけでもないのに、こんなにもワクワクするのはなぜだろう。
なぜかリーザもうれしそうに一緒に写真を撮る。
ヌーディストビーチには行けなかったけど、こんな美人が一緒なんだからまあいいか。

人妻だけど・・・




石段を下りて海に近づくにつれ、ますますビーチリゾートらしくなってきた。
むちむちの水着に見を包んだお姉さんや、ほとんど裸同然で走り回る子供たち。

噴水からは勢いよく水が吹き出し、平和で開放的な光景がひろがる。
腰に刀を差し、暑苦しい格好をしている自分が、どうしようもなく場違いな存在に思えてきた。




砂浜だけでなく、コンクリートで固められた港の周辺も、水着姿で日光浴をしている人々であふれかえっていた。
なんだか想像していた「オデッサのビーチ」と少し違う。




途中、何人かのウクライナ人青年たちとすれ違った。
彼らは私にむかって何か言っている。
サムライのコスチュームを着てヨーロッパを歩いているとよくあることだ。

と思っていたのだが、どうもいつもと様子が違う。
彼らが話しているのは英語ではないので、なんと言っているのかはわからないが、どう見ても友好的な表情には見えない。
むしろ怒りをあらわにしている。
彼らの髪型はみんなスキンヘッドか丸刈りで、胸板も厚く太い腕をしている。
そんな男たちが私のことを血走った目でにらみつけているではないか。
いったいなにが起こってるんだ?

サンベルたちが困った表情をして彼らをなだめている。
彼らの言葉が理解できない私は、無理やり微笑を浮かべて
「私はみなさんの敵ではないですよ」
的なオーラを必死でふりまいていた。
それ以外に何をしたらいいのかわからなかったからだ。

怒れる青年たちからなんとか逃げ出したものの、彼らはずっと私のことをにらんでいた。
サンベルが説明してくれたところによると、私の侍の衣装についている家紋が、ロシア海軍のシンボルと似ている、といちゃもんをつけれらたようだ。

いやいや。
俺がロシア海軍の軍人に見えるか?
お前ら日本のサムライを見たことないのか?


現在、ウクライナとロシアは準戦争状態にある。
東部国境では激しい戦闘が続き、今も大勢の若者が命を落としている。
そんな状況下では血気盛んな青年たちが神経質になるのも無理はないのかもしれない。

道端や広場で目にする花束。
親ロ派との戦いで命を落とした若者たちの遺影。
我々日本人にとってウクライナ情勢とは、「遠い国の出来事」だが、彼らにとっては他人事ではない。
明日は我が身。
今そこにある危機。

深い青色をした大海原はどこまでも続き、きらきらと太陽の光を反射している。
どこからどう見ても平和そのものの風景だが、同じ黒海沿いのクリミア半島は現在、ロシアの制圧下にある。
戦争の影はここオデッサにも確実に忍び寄っていた。




砂浜にシートを広げ、腰を下ろす。
侍の衣装を脱ぎ、水着に着替える。
ここからはリゾート・モードだ。

だが、なんだか落ち着けない。
なんだろう、この違和感は?
日本のビーチとなにかが違う。

そうだ、まわりがみんな白人なのだ。
アジア人は私だけ。

たったそれだけの違いなのだが、その差はあまりにも大きい。
アジア人とヨーロッパ人。
服を脱いで水着になると、その差は絶望的なほどに一目瞭然だ。

男も女もみんな絵になるが、やはり若い女性に目が行ってしまう。
「目の保養」とはよく言ったもので、心地よい刺激に脳が痺れるような感覚をおぼえる。

一人や二人ではない。
すらりと手足の長いモデル体型の美女がそこらじゅうにうじゃうじゃいるのだ。
しかも色っぽい水着を着てビーチのあちこちに横たわっている。
あるいは金色の髪をなびかせながら砂浜を闊歩している。
豊満な肉体を揺らしながらビーチバレーをしている。

水着を着ていてもこうなのだ。
もしもヌーディストビーチなんかに行っていたら、きっと私はどうかなってしまっていたことだろう。


私の目の前には一人の若い女性が横たわっている。
ほんの数十センチほどの距離だ。
いや、数センチかもしれない。
だから普通に前を向いているだけで、いやでも彼女の姿態が目に飛び込んでくる。

アジア人とはまったく異なる極上のプロポーション。
彼女は日焼けしに来ているようで、全身くまなくこんがり焼くために、定期的に体の向きを変える。
まるで自慢の肉体を見せつけるかのように。
おかげで彼女の体をすみからすみまで観察することができた。

「このスケベ野郎」
との非難は甘んじて受けよう。

だが、私にどうしろというのだ?
手を伸ばせば触れる距離に極上の美女が横たわっているのだ。
どうしたって妖艶ボディが視界に飛び込んでくる。
ずっと目をつぶっていろとでも言うのか?
そんなことできるはずがない。



黒海の水は透明度が高いと聞いていたが、このビーチの水はそれほどでもなかった。
ビーチの砂の質も悪い。
大都市近郊の海水浴場なんてこんなものか。

だが黒海はでかい。
来年の夏はぜひとも隠れた穴場的ビーチを訪れてみたいものだ。
その頃にはウクライナ情勢も収束していることを望む。




歩いてサンベルたちの家に戻る。
影が長くなり、日没の時刻が近づいていることに気づかされる。





「TOKIO」という文字が見える。
ここでも日本料理は人気なようだ。




家に帰ると、リーザがホットサンドを作ってくれた。
ミッキーマウスの焼き色が入っている。




美人で料理上手な嫁さんと豪邸に住むサンベル。
気が向いたときにいつでも黒海に泳ぎに行ける。
なんともうらやましい生活だ。




少し休憩した後、サンベルたちは再び私を外へ連れ出してくれた。




この店は「KOBE」と書いてある。








通りは人であふれかえっている。
昼間よりも混雑しているくらいだ。

日中は暑いから、みんな日が暮れてから活動しはじめるのだとか。




有名な「ポチョムキンの階段」
明日はここをじっくりと歩く。
今夜はその下見だ。




階段を上るにつれて人混みが激しくなってきた。




ポチョムキンの階段からオデッサ港をのぞむ。
ここを紹介する写真はたいてい昼間に撮られたものだから、夜のオデッサ港は新鮮だった。
明日はここもじっくりと見物する。
オデッサのハイライトだ。




広場ではコンサートが催されていた。
ステージの上には、青と黄色のウクライナ国旗がひるがえっている。
明日はウクライナの独立記念日らしい。
今夜はその前夜祭ということか。




オデッサの姉妹都市の名前がずらりと並んでいる。
やはり港湾都市が多い。
左上の方に「横浜」の名が見える。




薄い壁のように見えるが、それは目の錯覚。
実は巨大な建築物なのだ。




サンベルとリーザは精力的に夜のオデッサを案内してくれた。
オデッサなんてポチョムキンの階段ぐらいしか見るべきものはないだろうと思っていたのだが、なかなかどうして。
とても魅力的な街だ。
やはり地元の人に案内してもらえるのはうれしい。






エカテリーナ2世像。



オデッサでカウチサーフィンのホストを探していた時、まっさきに私に声をかけてくれたのがサンベルだった。
早く宿泊先を確定させたかった私は、すぐに彼の申し出を受け入れた。

ところが、このオデッサという街はかなり開放的な土地柄らしく、その後たくさんのホストからオファーを受け取った。
なかには「日本人大好きっ! ぜひ私の家に泊まりに来て!」と言ってくれる女の子もいた。
彼女はかなりの美人だったので、早々にサンベルをホストに選んでしまった自分を恨んだりしたものだ。

だが、サンベルとリーザの家に泊まることにして正解だった。

彼らがカウチサーフィンに登録してからもう何年も経っている。
これまで彼らはホストした経験はない。
サーフしたこともない。
それなのに彼らの方から積極的なアプローチがあった。
私がカウチリクエストを送ったわけではない。

今までずっと幽霊部員状態だった彼らが、なぜ私を招いてくれたのかはわからない。
特に親日家というわけでもなさそうだ。

それなのにサンベルもリーザもこれ以上ないくらいに親切にしてくれる。
今回の旅行はほんとにホストに恵まれている。
あまりにもみんな私に親切にしてくれるものだから、なんだか逆にプレッシャーを感じてしまう。
私に親切にしたところで、彼らにはなんの得にもならない。
それなのに、どうしてここまでしてくれるんだ?
俺に彼らの好意を受け取る資格なんてあるのか?

私は今まで京都でたくさんのカウチサーファーをホストしてきた。
そうしておいて正解だったと思う。

でなければ、素晴らしいホスト達の善意に押しつぶされてしまっていたことだろう。

テーマ : バックパッカー
ジャンル : 旅行

リヴィウ~オデッサ(ウクライナ)



リヴィウの駅で、オデッサ行きの夜行列車を待つ。
深夜0:30の出発だから時間はたっぷりあるのだが、残念ながらWiFiは使えないようだ。

どうやって時間をつぶそうかと考えたあげく、ここのところ忙しくてつけることのできなかった日記をまとめて書くことにする。
ブログの更新はできなくとも、その日起こった出来事を記録するだけならばネット環境がなくてもできる。

「こんなおもしろいこと、記録なんかつけなくても忘れるはずがない」
と高をくくっていて痛い目に遭ったこともある。
毎日毎日が刺激的な出来事の連続だから、どこか外部に記録しておかないと脳と精神がパンクしてしまう。

私の旅は基本的にホテルを使わないスタイルだし、東欧のネットインフラは貧弱。
なかなかブログの更新ができず、たまりにたまっている。

でも、それはいいことだと思う。
毎日きっちりブログの更新ができるゆとりのある旅行なんてつまらない。


今夜の0:30から明日の午後12:30まで、まるまる12時間を夜行列車の中で過ごすことになる。
体力の温存を気にする必要はない。
時間に余裕があるこの機会に、ゆっくりと日記をつけることとしよう。




ひととおり日記を書き終えて、ふと顔をあげると待合室はほぼ埋まっていた。
もうすぐ深夜になろうかというのに、なんなんだこのにぎわいは。
リヴィウの駅は昼間よりも深夜の方が混雑している。

国土が広く、列車のスピードも遅いウクライナでは、長距離を移動するにはもっぱら夜行列車を使うのかもしれない。
東欧の他の国では電車よりもバスの方が便利なことが多いのだが、ウクライナに関しては夜行列車の方が断然使い勝手がよかった。


ふと、自分が空腹であることに気付く。
そういえばまだ夕食を食べてなかったっけ。

駅の構内には食事をする場所が何軒かあったのだが、さすがに夜中の11時30分を過ぎているので閉まっている。
売店でスナック菓子を売っているが、こんなのが晩飯だなんてあまりにも自分がかわいそすぎる。

待合室はほぼ満席だから、今ここで席を離れると座れなくなる恐れがある。
だが、私は食料をまったく持ち合わせていない。

旅人にやさしくないウクライナのことだ。
夜行列車の中で食事にありつける保証もなさそうだ。
あったとしても割増料金を取られるだろう。

駅の外に食料を調達しに出かけることにした。
用心のためにすべての荷物を持って行く。
後ろから前から、重たいリュックが肩に食い込む。
たかがパンを買うためだけなのにこの重労働。
一人旅は気楽でいいのだが、こういう場合に不便だ。


駅の外には店がいくつかあったはずなのに、みんな閉まっている。
「日本なら少し歩けば24時間営業のコンビニがいくらでも見つかるのに」
と思わず弱音をはきそうになる。

これまで当然だと思っていたことが、実は特別なことだったのだと思い知らされる。
東欧ではパンひとつ、シャーペン1本買うのさえ苦労することだってあるのだ。


幸いなことに、パン屋が一軒まだ開いていた。
列車の中では寝ることと食うことしか楽しみがないだろう。
少し多めにパンを買っておくことにしよう。
もしも余ったら、明日、黒海を眺めながら食べればいいさ。

黒海!

そうだ。
明日の午後には俺はオデッサにいるのか。
東欧屈指の保養地オデッサ!
意味もなく血がざわざわし始める。
なぜかって?

オデッサ近郊には有名なヌーディストビーチがある、らしい。
男に生まれたからには、一度くらい体験しておきたい。

それにここはウクライナ。
世界一の美女大国なのだ。

明日に備えて体力をつけとかないと。
パンをもう一つ追加注文した。

ニヤニヤしながらお金を払う俺のことを、店員は気味悪そうに見ていた。




食料を買い込んで戻ってくると、待合室の前に人だかりができていた。
それも尋常でない人数だ。
いったいなにが起こってるんだ?

こわごわ待合室の中をのぞいてみると、中にはほとんど人がいない。
どうやら深夜0時を過ぎると、全員追い出されるみたいだ。
きっと掃除でもするのだろう。

再び入室可能になるのをみんながかたずを飲んで待っている。
合図と同時に壮絶な椅子取り合戦が始まるに違いない。

夜中にそんな競争に巻き込まれるなんてごめんだ。
バックパックをイス代わりにすればどこにだって座れる。
どこか適当な場所を探していたら、別の待合室があった。
こちらはまだ空席が残っている。

それもそのはずで、こっちの待合室は有料。
インターネットも使えるらしい。
試しにWiFiの電波が拾えないか探してみたが、きっちりパスワードがかかっていた。
けち。

どうしてもインターネットが必要なわけではないし、あきらめて通路に腰をおろしてパンをかじる。
トイレももちろん有料。
列車の中ではただで使えるのだから、がまんすることにしよう。
ヨーロッパ旅行は膀胱に悪いのだな。

待合室の方が急に騒々しくなった。
どうやらイスの争奪戦が始まったようだ。
年寄りも子供も関係ない。
みんな必死の形相で場所を取りに殺到する。

なんでそこまで真剣にする必要があるんだ?
みんなこの駅で夜を明かすつもりなのだろうか。

私の乗る夜行列車はそろそろ到着するころだ。
リュックのひもを肩に食い込ませ、ホームへと向かう。




「一番安い席をくれ」
と注文すると、たいてい上段のベッドが割り当てられる。
下段の方が広くて、人気があるらしい。

でも私は上段のベッドの方が好きだ。
高い所への上り下りは苦にならないし、せまくても平気だ。
むしろこっちの方が落ち着く。
もしかしたら前世は猫だったのかもしれない。





夜行列車というのはほんとに人気があるようだ。
途中何回か列車は停まったのだが、そのたびに誰かが降りていくし、入れ替わりに誰かが入ってくる。
深夜の2時とか3時に乗り降りがあるものだから、そのたびに眠りが中断される。


私は基本的に列車やバスの予約をしない。
いつも当日にチケットを買ってきたし、それで売り切れだったことはなかった。

だが、それはたまたま運が良かっただけなのかもしれない。
この列車を見ている限り、車内は常に満席。
ということはチケットを買えずに乗れなかった人もかなりいるに違いない。




朝になり、そこかしこでいい匂いがたちこめ始める。
朝ごはんを食べているのだろう。
私も! と思うのだが、私のスペースは寝台の上段。
体を起こすだけのスペースはない。
しかたなくベッドを降りる。

コンパートメントは4人掛けで、私以外の3人は親子連れだった。
私一人が部外者なので、なんだか居心地が悪い。
座席の隅の方にちょこんと腰かけてパンをほおばる。
テーブルは親子連れが占領しているので、飲み物の置き場に困った。
列車はかなり揺れるので、こぼれないように気をつかう。





西ヨーロッパでは鉄道の時間はあてにならなかった。
1時間や2時間の遅れはざらだ。

だが、ウクライナでは列車の時刻はかなり正確。
もし予定通りに到着するとすれば、そろそろオデッサのはずだ。
トイレをすませ、荷物をまとめる。



そしてついにオデッサに到着!
空には雲一つなく、真っ青に晴れ渡っている。
この街が俺を歓迎してくれているように感じた。

それにしてもなんなんだ、この空気は?
同じウクライナなのに、ここはキエフともリヴィウともまったく異なる。
ただ快晴だからというだけではない。
体中がウキウキしてくる。

間違いなくオデッサには人を熱狂させるなにかがある。
だから毎年夏になると大勢の人がやってくるのだろう。


混雑する他の乗客の迷惑も考えず、調子に乗って記念撮影などしてしまった。
だめだ。
なんだか俺、舞い上がってる。

ラリッっているようにでも見えたのかもしれない。
ホームで警察官の職務質問を受けた。

「パスポートを見せろ。
 それはなんだ? お前は武器を持ち歩いているのか?」

武装した警官を前にしても臆することなく、私は嬉々として質問に答えていた。
オデッサでは警察官までもが俺を出迎えてくれている。
勝手にそんな勘違いまでしていた。




職務質問を終え、パスポートをしまう頃には他の乗客の姿はなくなっていた。
見上げると、そこには雄大なオデッサの駅舎がそびえている。

荷物を点検していて、キエフで泳いだ時に水着を忘れてきてしまったことに気付いた。
「新しい水着を買わなきゃだめだな。
 でもまあここはビーチリゾートだから、水着なんてどこにでも売ってるだろ」

などと考えている自分に気づいて、思わず苦笑してしまう。

水着なんていらないじゃないか。
だって、だって、ただのビーチじゃないのだから。


ついに来たぞオデッサ。

黒海だ!
ビーチだ!
ウクライナ美女だ!

テーマ : ヨーロッパ旅行記
ジャンル : 旅行

君の名は・・・(リヴィウ、ウクライナ)

サムライバックパッカー@リヴィウ(ウクライナ)


ヨーロッパを旅するようになってもうずいぶんと経つが、いまだにバスは苦手だ。
どこで降りればいいのかタイミングがつかめない。

だから目的地を運転手に連呼して、そこで降ろしてもらえるようにアピールする。
でもたいていの運転手は英語ができないので、返事がかえってこない。
私の言ったことを相手が理解したのかどうかわからず、不安なままバスに乗り続けることになる。

それでもリヴィウはまだましだ。
人々が親切で、助けてくれる。
英語なんてまったく話さないおじいさんですら手を差し伸べてくれる。
「ここで降りろ。わしの後をついてこい。駅まで案内してやる」
身振り手振りでそう言ってくれるのである。

私はこれまでたくさんの街を歩いてきた。
「土地柄」というのは確実に存在する。
リヴィウの人は間違いなくとても優しい。




文字は読めなくとも、なんとなく「リヴィウ」と書いてあるんだろうな、と推測できる。




チケット売り場がたくさん並んでいる。
これは電車の切符を買うのも簡単そうだ。
ガイドブックを見せながら、
「オデッサ、トゥナイト! オデッサ、トゥナイト!」
と連呼する。

だが、受付の女の人の反応はにぶい。
手をひらひらと振って、「あっちへ行け」というジェスチャーをする。

どうしてだ?
なんで切符を売ってくれないんだよ!

もしかして行き先ごとに窓口が異なるのだろうか?
どこにもそんなことは書いてないようだが、もしかしたらどこかに書いてあるのかもしれない。
たとえ書いてあったとしても、私はこの国の文字が読めない。

別の窓口に行ってオデッサ行きの切符を買おうとしたのだが、ここでも同じ反応をされた。
だが、さっきの女性よりはジェスチャーが複雑になっている。
どうやら「あっちへ行け」と追い払っているのではなく、こことは別のチケット売り場があるようだ。
あたりを見渡してみるも、それらしきものはない。

それでも女性の指し示した方向に歩いてみるしか他に選択肢はなさそうだ。
重いリュックを背負っているから、あまり無駄に歩きたくはない。
リヴィウ観光に費やせるのは今日一日だけだから、時間だって限られている。
さっさと夜行列車の切符を買って、リヴィウ市街に向かいたい。

しばらく探し回ったのだが、やはりそれらしき場所はない。
再びチケット売り場に戻り、今度は別の窓口に行って「オデッサ!」と叫んだ。

すると窓口の女性は紙に地図を書いてくれた。
それによるとチケット売り場はここからかなり離れたところにあるようだ。
なんで駅のそばに切符売り場がないんだよ。
理解に苦しむ。




メモに書かれたとおりに歩いていくと、遠くに大きな建物が見えた。
まさかとは思うが、あれがリヴィウ駅なのか?

知らなかった。
リヴィウ駅が二つあるなんて。
近距離用と長距離用だろうか。
ガイドブックにはそんなことは書いていない。
私の持っている地球の歩き方は2010年度版。
情報が古いのだろうか。




リヴィウ駅の切符売り場はかなり混雑していた。
窓口がいくつかあるが、どこでもオデッサ行きのチケットは買えるのだろうか?
外国人旅行者っぽい大きなトランクを抱えた人が多そうな列に並んだ。
きっとこの人たちもオデッサに行くのだろうから。




私は基本的に、市内観光には乗り物を使わず、自分の足で歩くというスタンスなのだが、
ここリヴィウでは素直にトラムに乗ることにした。

夜行列車のチケットを買うのにかなり時間がかかってしまったし、
トラムの値段はおどろくほど安かったからだ。
日本円にして20円ほど。
ほとんどタダみたいなものだ。




トラムはリヴィウの中心地、リノック広場に到着した。
いよいよ観光のはじまりだ。




まずは市庁舎の塔に登ってみることにした。




ここはかなりの人気スポットのようで、塔の上は大勢の観光客で混雑していた。




ここからの眺めはそれほどきれいではなかったが、街の位置関係は確認することができた。
予想通り、かなり小さな街だ。
これなら一日あればじゅうぶん見てまわれる。
夜行列車が出発するまで、のんびりと過ごすことにしよう。




ガイドブックを見る限り、この街にそれほど魅力的なスポットはない。
古都の面影を残す、街全体の雰囲気をゆったりと味わうことにしよう。

まずは薬局博物館。
博物館といっても、今も営業中の薬局でもある。




中に入るとけっこうたくさんの人がいて、半分くらいは観光客だが、あとの半分は薬を買いに来た地元の人。
カメラ片手にはしゃいでいる人もいれば、げんなりとした表情で体の不調を訴える人もいる。
古き良き時代の面影を残す、観光都市リヴィウらしい光景だ。




「リヴィウ最古の薬局」というだけあって、店の内部はアンティークな雰囲気があふれている。
棚にはたくさんの瓶が並べられていて、どれも作られてからかなりの時間が経過してそうだ。

でも、店の客が買っていくのはつい最近発売されたばかりのように見える新しい薬ばかり。
現実に体の調子が悪い人はやはり昔の薬よりも、現代科学を駆使した最新の薬の方がいいのだろう。

幸い私は健康だ。
薬なんて必要ない。

でも、せっかくここへ来たのだから、ここの名物を買っていきたい。





それがこれ。
この薬局ができた1735年からここで売られてきた歴史あるお薬。
万病に効く「鉄ワイン」だそうだ。

私の旅はまだまだ続く。
荷物を増やしたくないから、おみやげは買わない主義なのだが、おもわず買ってしまった。

万が一病気になった時のためのお守り代わりになるかもしれない。
それに、安い!
100円もしないのだ。




バックパッカーらしき女の子に、この鉄ワインと一緒に写真を撮るのを手伝ってもらった。
彼女はこの鉄ワインのことを知らなかったようで、

「ところで、あなたが手に持っているのはなに?」
「鉄ワインだよ。この薬局ができた時から存在する薬で、どんな病気でもこれを飲めば治るらしいぜ」
「へえー、おもしろいわね」

彼女は私の持っている瓶を興味深そうに眺めていたが、結局買わなかった。
他の観光客も、地元の人たちも、誰も買わなかった。

薬局の主人も、私がこの鉄ワインを買うと、怪訝な顔をしていた。
実はあまり人気がないのかもしれない。




アルメニア教会






オペラ・バレエ劇場。








大聖堂。
電線がびっしり。

観光都市を標榜するつもりなら、もう少しなんとかした方がいいんじゃない?




街全体としてのリヴィウはとても魅力的なのに、一つ一つの建物はいまいちインパクトがありません。
「見よっ! これがリヴィウだっ!」
と呼べる目玉がないのです。

まあそれがこの街のいいところなのかもしれませんが。




聖アンドレイ教会。




ドミニカ聖堂。




ドミニカ聖堂の内部。
別に教会の中に興味があったわけではありません。
トイレがどこかにないかと期待して入ったのですが、見当たりませんでした。




めぼしい場所はひととおり見てまわったぞ。
さて、これからどうしようか。




私は今回の旅では、訪れた都市のランドマークと一緒に侍の衣装を着て写真を撮ることにしています。
ところが、ここリヴィウにはランドマークと呼べるものがない。
じゃあいったいどこで写真を撮ろう?

そうだ、あの娘と一緒に写真を撮ろう。
今朝この街に到着したときに見かけたあの娘。
あの時は声をかける勇気がなくて、もたもたしているうちに彼女は行ってしまったけれど、今は違う。
サムライの衣装を着た俺にできないことなどない。
今なら堂々と彼女に声をかけることができる。

「ナターシャ、待っててくれ。 必ず君を探し出してみせる」

彼女の名前なんて知りません。
なんとなく「ナターシャ」っぽいな、と思っただけです。
具体的な名前があった方が感情移入しやすいので、私は勝手にあの娘のことをナターシャと呼ぶことにしました。

病んでる?




侍のコスチュームを着てすこし歩くと、すぐに声をかけられました。
彼らは陽気なのですが、あまり英語が得意ではなさそうです。
微妙に会話がちぐはぐしてます。

「あんたたちはこの街に住んでるのかい?」
「俺たちはウクライナ人だ!」

「青いドレスを着た、髪の長い女の子を見かけなかったかい?」
「OK, I understand 」


彼らとの会話からは、まったく得るものはなかったのですが、なぜか妙に楽しい。
なんだかこの街全体が私に笑いかけているような気がします。
「ようサムライ、よく来たな!」

その街との相性というものは確かに存在します。
リヴィウとは相性がよさそうな気がする。

「ナターシャはまだこの街のどこかにいる」
根拠はありませんが、確かにそんな気がします。




ナターシャを探し求めて歩いていると、今度は大きなカメラを持った男性に呼び止められました。
彼はこのリヴィウに住んでいるのですが、カメラが趣味で、いつも被写体を探してこの街をウロウロしているそうです。

「君は実にいい被写体だ。ぜひ写真を撮らせてくれ」

そんなふうに言われたら、やはり悪い気はしません。
彼に要求されるまま、いろんなポーズをとらされましたよ。

「いいよー、いいよー。
じゃあ今度はちょっと体をひねってみようかあ。
いいよー。
もう少し上を向いて。
いいよー。最高だよう」


知らなかった。
モデルになるというのがこんなに快感だとは。
なんだかくせになりそう。




私のカメラでも何枚か撮ってもらったのですが、なんかいまいち。
セミプロを自任する彼ですが、私が撮ってもらいたい写真とはかなりズレがあります。
感性というのは人それぞれ異なるから、それはしかたのないことなのかもしれません。




しかも自称「カメラマン」のこの彼、なかなか注文がうるさいのです。

「今度は走りくるトラムをバックに撮りたいから、トラムが近づいてくるのにあわせて歩いてえ。
あっ、トラムが来た! 急いで! 早くはやくうぅ」

人使いの荒い男だな。







自称カメラマンの君と別れて一人で歩いていると、遠くの方に見覚えのあるシルエットが見えます。
もしかしてナターシャか?




残念、ナターシャではありませんでした。
でもせっかくなので、一緒に写真を撮ってもらえるようにお願いしてみます。

日本にいる時は女の子に声なんて絶対にかけられない私ですが、外国を旅行中なら不思議とできてしまいます。
しかも侍の衣装を着ているときの私は怖いものなし。




この女の子、シャイなのかあまり話しません。
同じウクライナでも、リヴィウとキエフとでは人々の雰囲気がかなり違います。

「君と同じようなドレスを着ている子を探してるんだけど、どこにいるか知ってる?
青いドレスで髪の長い子」
「・・・」

彼女は答えてはくれませんでした。
ただにっこりほほえんで、首をちょこんとかしげるばかり。

英語は苦手なのかな。





もう少しこの女の子と話していたかったのですが、なかなかそうはいきません。
私のまわりが急ににぎやかになったと思ったら、ガキどもに取り囲まれてしまいました。
ギャーギャーわめいてうるさいったらありゃしない。
そのうちの何人かは私の刀を引っ張って奪おうとします。

元気のいいのは当然で、彼らはサッカーチームのメンバーだったのです。
引率のコーチが申し訳なさそうに言います。

「すまないが、この子達と一緒に写真を撮ってもらえないだろうか」

彼らはリヴィウではなく、スロバキアとの国境に近い、カルパチア山脈にある村からやってきたそうです。
日本の子供たちと同じように、ウクライナの歴史を学ぶために修学旅行のようなものがこの国にもあるみたいですね。

それにしてもうるさい子供たちだった。
付き添いの先生もたいへんだな。




おっと、今度はものすごい美人に話しかけられちゃいましたよ!
侍の衣装はご利益があるなー。
この恰好をしてなかったら、絶対にこんな美人と知り合うチャンスなんてなかっただろうな。

それにしてもウクライナの女性というのはほんとに美しい。
彼氏持ちだけど、そんなの気にならないくらいにきれいだ。
ウクライナ人にしては小柄で華奢な体つきの彼女。
思わず抱きしめてしまいたくなります。
隣に彼氏がいるから無理だけど。




彼女たちと話をしていると、わらわらと人が集まってきました。
ウクライナ人というのは、なかなか好奇心旺盛な民族らしい。




この彼、日本のことがむちゃくちゃ好きみたいです。
ずっと日本についてしゃべり続けていました。
私はウクライナやリヴィウのことなんてほとんど知らないのに・・・
なんだか申し訳なくなってきます。




この二人、まったく英語が話せないのに、なぜか私たちとずっと一緒にいました。




ウクライナの人って顔立ちが整っているし、スタイルもいいから、
どんなラフなかっこうをしていても絵になるんですよね。
うらやましい。




一番左の(一番私の好みの)女性が、
「なにか日本語を教えてよ」
と言ってきたので、
「日本が好きです!」
というフレーズを教えました。

私が無理やり言わせたんじゃないですよ。
彼らがビデオに撮れ撮れとうるさかったのです。

ほんとに陽気な人たちでした。
おかげでますますウクライナのことが好きになっちゃったじゃないかよ。




若者の一団が立ち去ると、今度は入れ替わりに小さな子供を連れたお父さんがやってきました。

「ほら、ジャパニーズ・サムライだぞ。 一緒に写真を撮ってもらえ」

お父さんはそう言って、男の子を私の隣に立たせようとするのですが、どう見ても子供はいやがっています。
今にも泣きだしそう。

「ほら、下を向いてないでカメラを見て」

お父さんはそう言うのですが、男の子は下を向いたきり顔を上げません。
なんだか俺が悪者みたいじゃないかよ。


なんとか写真を撮り終えた後も、父親は私から離れようとしません。
なんやかやとしゃべり続けています。

お父さん、子供は早く帰りたがってるよ。


彼は私の侍姿を見て、かなり興奮している様子。

「侍をじかに見るのは初めてだ。
 まさかリヴィウでサムライに会えるとは思ってもみなかった」

ごめんねー、俺は偽物なんだけどねー。

「リヴィウにはいつ来たんだ?
 なんなら俺がこの街を案内するよ」

彼はそう言ってくれるのですが、子供は・・・
それに市内の主な見どころはすべて見ちゃったしなあ。

「城跡にはもう登ったのか? 景色がよくて、リヴィウの街を見渡せるんだ。
 森の中の博物館には行ったか? まだ?
 じゃあ俺が連れていってやるよ。ここからそんなに遠くないから」

父親がそう言ってるそばから、子供がぐずりながら手を引っ張っています。
きっと
「お父さーん、早くおうちに帰ろうよー」
と言っているのでしょう。

彼はとてもいい奴みたいだけど、嫌がる子供と一緒にいても楽しめそうにありません。
それに私にはナターシャを探すという使命がまだ残っているのです。





ナターシャはどこだ?
リヴィウは小さな街だし、あんなに目立つ格好をしている女の子を見つけられないはずがないんだけどな。

太陽の力がだんだんと弱くなり、日暮れが近いことを知らせています。
だんだんとあせる私。
なんだかさっきから同じ道ばかり歩いている気がする。





「コンニチハ」
今度は日本語で話しかけられました。
またもや美男美女のカップル。
ウクライナという国はいったいどうなってるんだ?

ところでなぜこの男性は日本語を話しているんだろう。
そんなに日本はリヴィウで人気があるのだろうか。

彼はただ単に日本文化が好きというだけではありませんでした。
なんと合気道2段の腕前だそうです。
リヴィウにも合気道の道場があるのだとか。
袴を着ている私を見て、

「リヴィウには演武会で来たの?」
と聞いてきます。
完全に私のことを合気道の達人だと誤解している様子。

やばい。
冷や汗がでてきた。

今までの経験上、こういう場合、

「ぜひお手合わせをお願いします。」
とか

「うちの道場に来て、稽古をつけてくだされ」

という流れになることが予想されます。

しかし私には合気道の経験はまったくありません。
空手ならちいとばかし自信があるんだけどね。

なんとか話題を合気道からそらし、お茶を濁してその場を退散しました。

袴を履いてヨーロッパを歩くと、合気道がいかにポピュラーなのかを思い知らされます。
侍の衣装を着るからには、剣術や合気道も身につけておかないとだめだな。
日本に帰ったら道場に通うことにしよう。




市庁舎の前で休憩していると、今度はふたりの男の子に捕まってしまいました。
どうやら双子のようです。

彼らは私の刀に興味があるらしく、
「それをよこせ」
というジェスチャーをしています。

彼らに刀を渡すと、母親が目をむいて驚いていました。
「大丈夫ですよ。 偽物ですから危なくないです」

双子の顔つきを見てもわかるとおり、この子たちのお母さんもとてもきれいな人でした。
ウクライナでは美人でない人を探す方が難しいのかもしれません。






暗くなる前に電車の駅に着いておきたかったので、そろそろタイムリミットです。
「ああ、最後にあの娘をもう一度見たかったなあ」

あきらめてトラムに乗ろうとした時、遠くの方で見覚えのあるシルエットが揺れているのを視界の隅がとらえました。
青いドレスをたなびかせ、ふわふわと歩いていきます。

やっと見つけた。間違いない、ナターシャだ。
今度こそ逃がさないぞ。




これほど目立つ女の子を探し出すのに、どうしてこんなに時間がかかったのだろう。

彼女こそ、私が思い描いていた「ウクライナ人の女の子」のイメージそのものです。
この写真ではわかりにくいですが、八重歯と呼ぶにはあまりにも大きすぎる歯が唇から飛び出しています。
もしかしてルーマニア人の血も引いてるのかな?

「写真を撮ってもいい?」
と聞くと、にっこりとほほ笑んでうなずいてくれました。





残念ながら彼女はほとんど英語が話せないようです。
せっかく会えたのだから、もっとお話ししたかったのですが、なかなか難しそう。
名前を聞いたのですが、私の言っていることが理解できないみたいでした。

でもまあいいや。
彼女はナターシャだ。



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現地の人の生活を体験できる! それがカウチサーフィンだっ!(リヴィウ、ウクライナ)

リヴィウ(ウクライナ)でカウチサーフィン(CouchSurfing)


バスの窓からはなにも見えない。
リヴィウの街からはかなり離れているらしく、店はなく、あたりは真っ暗だ。

普通、ホテルは大通りに面した街の中心部にある。
だが私はリヴィウでカウチサーフィンを利用する。
ホストが常に町の中心部に住んでいるとは限らない。
リヴィウの街中に住んでいてくれたらこちらとしても観光に便利で助かるのだが、
ホストはこちらの都合で家を選んでくれたりはしない。

オーリャが目的地で私を降ろしてくれるようにバスの運転手に頼んでくれているはずだが、それでも不安になる。
すでにリヴィウの中心部からはかなり離れているし、こんな辺鄙なところにはホテルもありそうにない。
こんな町はずれでホストに会えなかったらいやだなあ。
雨もぱらついてるし。

バスの運転手に「降りろ」と言われて降りてみたものの、ほんとにここであってるのか不安でしかたがない。
コンビニはもちろん、ホテルやレストランもない。
なにもない村だ。

カウチサーフィンをやっていなかったら絶対にこんな場所に足を踏み入れたりなんかしない。
「もしかして俺は、この村にやってきた最初の日本人なんじゃないだろうか」
ふとそんな考えが頭をよぎる。

どう考えても日本人がここに来る理由がない。
大学も会社もない。
観光地からも遠く離れている。

そんなことを考えていると、男が近づいてきた。
ここでのホスト、イウリに違いない。




彼の家はバス停から歩いて10分ほどのところにあった。
家はたくさん建っているが、物音一つしない。
とても静かな村だ。


「腹はへってるか?」
と聞かれたので、「少し」と答えたら、
「これを食えばいい。ウクライナの食いもんだ」
と言われた。

どれどれ。
さっそく一つつまんでみる。


マズいっ!

餃子のようなその食べ物はパサパサと乾燥していて、ところどころ硬くなっている。
もともとは柔らかかったのだろうが、長時間外へ放置していたにちがいない。
味付けもほとんどなく、なんだか砂をかんでいるようだ。

私はグルメではなく、味にはこだわらない方だ。
実はおなかもすいていて、どんな食べ物でもおいしく感じる自信があった。

だが、不味い。
こんなにマズい食べ物を食べるのは久しぶりだ。

ごちそうしてもらっておいてこんなことを言うのもなんだが、ほんとに不味い。





今夜のカウチ。

リヴィウでホストを探していた時、
「うちに泊まりに来いよ。大歓迎だぜ」
と、イウリの方から招待してくれた。

彼のカウチサーフィンのプロフィールを見ていると、どうやら屋根裏を改造して住んでいるらしい。
なんだかおもしろそうだ、と思い、お世話になることにした。

ところが、そのイウリは今、ポーランドを旅行中だという。
え? じゃあ君はいったい誰なんだ?

彼の名はオスタップ。
イウリの兄弟だ。
顔がよく似ているから、てっきりイウリかと思った。
もしかしたら双子なのかもしれない。


「シャワーでも浴びて来いよ。その間に夕食を用意しておくからさ」

よかった。
どうやらちゃんとした食事にありつけるようだ。




シャワーを使う前にオスタップから講習を受ける。

「うちはちょっと変則的なんだ」


ここはもともと屋根裏部屋だったので、配管はオスタップが自分でやった。
シャワーには水が通っているものの、トイレに水は流れない。
ではどうするのか?

湯船の中に置いてあるバケツに水をため、それをトイレの便器に流すのだ。

「なんじゃそりゃー!」

疲れてるのにそんな面倒なことさせるなよ。
思わずベトナムでの体験を思い出した。
花モン族の家に泊まった時のトイレもひどかった。

http://couchsurfingkyoto.blog.fc2.com/blog-entry-660.html

だが、あれは東南アジアの山奥にある少数民族の村だ。
たしか俺は今ヨーロッパにいるんだよな?
まさかウクライナでこんなサバイバル生活を強いられるとは思いもしなかった。
カウチサーフィンって楽しいなー。

便器は壁と浴槽の間にはさまれていて、幅がとてもせまい。
普通に座って用をたすことができない。
なんでこんな設計にしたんだよ。


そしてシャワー。

汚い。
見るからに湯船が汚れている。
いたるところに水垢がこびりついている。

服を脱いで中に入ってみると、足の裏がザラザラする。
どうやったらこんなに砂がたまるんだよ。
オスタップ、君はここを毎日使ってるんだろ?

どうやら彼はとても器用にシャワーを浴びるようで、浴槽の真ん中だけはホコリがたまっていない。
だが、そのせまい範囲からほんの少しでも足をはみ出せば、とたんにザラザラとした感触が足の裏を襲う。

シャワーを浴びているはずなのに、どんどんと自分の体が汚れていく気がした。
ぜったいに湯船に腰を下ろしたくなんてない。


そしてここは屋根裏部屋。
湯船の上には斜めになった屋根が張り出している。
だからまっすぐに立ってシャワーを浴びることができない。
体をどちらか片方に捻じ曲げなければならないのだ。

ややこしい。
どうしてこんなところに湯船を置くんだよ。
シャワーはリラックスするためのもんだろ。
こんなんじゃちっとも落ち着けないよ。


体を斜めにしてシャワーを浴びていたら、なんだか足元がグラグラしてきた。
なんだ?
気のせいかな? なんだか湯船が揺れてるような気がする。

と思っていたら、

ガシャーンッ!

と音を立てて湯船が崩れ落ちた。


な、なっ!
いったい何がどうなってるんだ?

もちろんこのシャワールームもオスタップの手作り。
レンガを数個床に置いて、その上にバスタブを置いているのだが、固定はしていない。
ほんとにレンガの上に浴槽を乗せているだけなのだ。

そんなことは知らなかった私は、目の前に迫ってくる屋根を避けるために体を斜めにしてシャワーを浴びていた。
だからバランスが崩れて湯船がレンガから落っこちてしまったのだ。

勘弁してくれよ・・・

屋根は斜め。
バスタブも斜め。
片方だけレンガの上に乗った不安定この上ない浴槽の中でシャワーを浴びる私。

どんなに安いゲストハウスでもこんな経験はできないだろう。
やはりカウチサーフィンはおもしろい。




ほうほうの体でシャワー室を脱出してきたら、オスタップが夕食の準備をしてくれていた。
彼のお母さんも加わり、夕食を食べながら3人で話をした。

お母さんは英語を話さないが、とても好奇心旺盛な人のようで、私の話を熱心に聞いている。
こういう親でもない限り、子供がカウチサーフィンのホストをすることを許可したりはしないだろう。
親と同居しているホストはまれな存在だ。
こういうファミリーにはぜひともカウチサーフィンを続けてほしい。

トイレとシャワーはもう少しなんとかしてもらいたいものだが。





どうやらこの食事はオスタップが作ったもののようだ。
お世話になっておきながらこんなことを書くのは心苦しいのだが、この食べ物、
はっきり言って不味い。
いや、これを食べ物と呼んでもいいものかと思ってしまう。
いったいどうやったらこんなに味気ないものを作り出すことができるのだろう。
ここまできたら一種の才能としかいいようがない。




彼らの庭では果物や野菜を栽培している。
これらもけっしておいしくはなかったが、オスタップの手が加えられていない分だけまだましだと言える。




「お茶のおかわりが欲しかったら、このポットのお湯を使ってくれよ」

オスタップはそう言ってくれた。

ありがとう、

と言いかけて、自分の目を疑った。
ポットの周りには白い汚れがこびりついているように見える。
いや、汚れているのはポットの外側だけではなさそうだ。

気になって仕方がなかったので、オスタップが席を外したすきにポットを確認してみた。
信じられない話だが、中には白いものがびっしりとこびりついている。
それらがお湯に溶けだして、水は白く濁っている。

ま、まさか、今俺が飲んでいるこのお茶は、このポットのお湯を注いだのか?


よく見ると、食器には前回に食べたもののカスがこびりついている。
フォークのすきまにも得体の知れないものがはさまっている。
きっとよく洗っていないのだろう。


この屋根裏部屋には靴をはいたまま入る。
だから床が土まみれなのは仕方ないことなのかもしれない。

だが、砂をかぶっているのは床だけではない。
椅子やテーブルの上も、砂でザラザラしている。
そのテーブルの上で我々は今、食事をしているのだ。


なんなんだ、ここは。
私とオスタップとでは衛生概念がまったく異なるらしい。

ここはアフリカでもインドでもない。
ヨーロッパだ。

だが気をつけろよ俺の胃袋。
今までお前が口にしてきた食べ物はすべて、このオスタップが作っているということを忘れるな。
水だって汚染されている。
いつもの10倍の注意をはらって消化してくれ。
でないと明日の朝、あのわけのわからないトイレに直行するはめになるんだぞ。
そんなのはいやだろ?




右がリヴィウでのホスト、オスタップ。




屋根裏部屋へと通じる入り口。
もちろんこれもオスタップの手作り!








彼の家の庭は広く、いろんな種類の果物や野菜が植わっています。
はたして、あまりにもオーガニックすぎる彼の家の生活はヘルシーなのか、それとも体に悪いのか・・・




庭にはぶどう畑だってあるんです。




「バスの中でこれを食べたらいいよ」

もぎたてのぶどうをくれるオスタップ。

けっこうカウチサーフィン歴が長い私ですが、今回の体験はとても特別なものとなりました。
いろんな意味で。


___________________________________


いろいろと書いてきましたが、オスタップはとてもいい奴でしたよ。
彼の家族もとてもフレンドリー。
非の打ちどころなんてありません。

ただ、ほんの少し衛生環境に無頓着なだけ。
きっとウクライナ人の体は頑丈にできていて、少しくらいのことなんて気にもならないのでしょう。

彼らのおかげで、普通の観光客なら絶対にできないような体験をさせてもらうことができました。
お腹に自信のある人は、ぜひ彼の家を訪れてみてください。
きっと暖かく迎えてくれることでしょう。

ちなみに彼は観光ガイドのライセンスも持っているそうです。
日程があえば、リヴィウの街をガイドしてくれるかもしれませんよ。


「その土地に暮らす人々の生活を垣間見ることができる」

これがカウチサーフィンのいいところ。


でも、リヴィウの人ってみんなこんな暮らしをしてるのかなあ。

そんなわけねーし。

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あなた震えてるじゃない(リヴィウ、ウクライナ)





「親切な美女などいない」

これが私の持論だ。

心の優しい美少女ならいるかもしれないが、
本物の美女にはかなわない。

そして生まれついての美女などいない。
なぜなら美女とは作られるものだから。

男をたぶらかし、手玉に取り、もてあそぶ。
男にだまされ、裏切られ、捨てられる。

そうやって美女というのは作られるものだと思っている。
醜い感情の渦にもまれて磨かれなければ美しくなんてなれるはずがない。
だから、汚れのない美女などいない。

思いっきり私の好みが反映されているが、それほど的を外してはいないと思う。

美女は計算高く打算的で、無償の愛など持ち合わせてはいない。
そんな美女が人に親切にするときは、なんらかの意図があるはずだ。


異国の地で雨に打たれ震えているみすぼらしい男を、なんの見返りも求めずに助ける美女なんていない。
もしいたとしたら、気をつけなければならない。
相手が美しければ美しいほど、警戒レベルを引き上げなければならない。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「お前はどこに行きたいんだ?」
バスの車掌が私にそうたずねる。

リヴィウだ、きまってるじゃないか。そういう約束だっただろう?

「それはわかっている。俺が聞きたいのはリヴィウのどこか?ということだ」


私の乗ったバスはイタリア行きだったのだが、頼み込んでなんとか乗せてもらった。
だから私の立場は弱い。
文句など言える立場ではない。

リヴィウで降りる客は私だけだし、乗ってくる人間もいないみたいだ。
彼らにとって私は完全な「お荷物」。
はやく降ろしたがっている雰囲気がひしひしと伝わってくる。

外は雨が降っている。
もうすぐ日も暮れる。
そんな中、重いリュックを背負って見知らぬ街をウロウロしたくはない。
地図を指し示しながら、
「市庁舎、郵便局、大聖堂。どこだっていい。俺を町の中心部で降ろしてくれ」
と彼らに頼んだ。

バスの運転手と車掌が困っている様子が手に取るようにわかる。
リヴィウ中心地を通るのは、彼らにとって明らかに遠回りになるのだろう。

それでも私は信じていた。
彼らは心優しき男たちだ。
なんだかんだ言いながらも、結局は私をリノック広場まで連れていってくれるに違いない。


おもむろにバスは停まり、車体側面の扉を開けて私の荷物を降ろした。
「トラムに乗れば町の中心部まで行ける」
そう言い残してバスは去っていった。

雨はけっこう激しく降っていたので、荷物にカバーをかけ、傘を準備するまでに
私も荷物もかなり濡れてしまった。

寒い。
ほんとに今は8月なのだろうか。
寒くて震えが止まらない。

これ以上雨に濡れるのはいやだったから、何も考えず最初にやってきたトラムに飛び乗る。
現在地がどこかわからないし、このトラムがどこに向かうのかもわからない。
とにかく屋根のある場所に逃げ込みたかった。

運のいいことに、私の乗ったトラムは市の中心部に向かうらしい。
車掌は親切に、「ここが中心部だ」と言って私を降ろしてくれた。

ようやくリヴィウ市内に到着したが、まだスタート・ラインに立ったにすぎない。
リヴィウでのカウチサーフィンのホストはここから1時間ほど離れた所に住んでいるらしい。
彼の家への行き方はメールで教えてもらっていたが、私はこの街に到着したばかり。
まだ土地勘はない。
あいかわらず雨は降っているし、日が沈んで暗くなってきた。
これからあと1時間もかけてホストの家を探さなければならないのか。

なんだか疲れてしまった。
もういいや。
リヴィウ市内なら宿の1軒くらい探せばあるだろう。
今夜はホテルに泊まろう。
今すぐ暖かい布団で眠りたいんだ俺は。


「なにか力になれることはありますか?」

天使の声が聞こえた。
振り返ると、そこにはえらい美人がいた。

普段の私なら女性の顔をまともに見ることなんてできないのだが、
おもわず彼女の顔をまじまじと見つめてしまった。

美しい。

ウクライナではそれこそ数えきれないほどの美女を見てきたが、彼女はまた別格だ。


「親切な美女などいない」

頭の中で警報がガンガン鳴り響く。
「これは罠だ。 こんな美人が俺なんかに親切にしてくれるはずがない。
きっと後でなにか要求されるぞ。気をつけろっ!」

「あなた震えてるじゃない。なにか温かい飲み物でも飲んで体を温めないとだめよ。
近くにいいお店を知っているの。一緒に行きましょ」


絶世の美女がこの俺を食事に誘っている。
そんなうまい話があるわけない。
きっと後から怖いお兄さんが高額な請求書を持って店の裏から出てくるんだろうな。


彼女の名前はオーリャ。
とてもきれいな英語を操り、頭もよさそうだ。
すでに彼女の虜となった私に逃れる術はない。
オーリャのなすがままに、彼女の後についていくしかなかった。

店に行く途中、オーリャの友人と合流。
彼女の友達もまたかなりの美形。
「ああ、きっと俺は二人の女からたかられるんだろうなあ」




左がオーリャ。
彼女たちはカウチサーフィンのことを知っていた。
リヴィウに来た日本人と会ったことも何度かあるらしい。

それはつまり、日本人の男どもをカモにしてきたということなのだろうか。




オーリャはまずワインを注文した。
なんか高そうだなー。
俺、ちゃんと支払えるかな。




彼女は私のために暖かいスープも注文してくれた。
これでやっと生き返ったような気がする。




このお店の名物は魚料理だという。
入り口を入ってすぐの所にショーケースがあって、そこに食材の魚が飾られている。

オーリャに出会わなければ、俺はこの魚のように氷の上で冷たくなっていたかもしれない。
そんなのはごめんだ。

俺は決めた。
この先どんな結果になろうとも、もうかまわない。
今この瞬間を楽しもう。
毒を食らわば皿までだ。
どうせ後で高い金をとられるのだから、いっそのこと彼女たちの太ももでもさすってやろうか。




スープに続いて料理が運ばれてきた。
「これ、なんていうの?」
料理の名前を確認するふりをして、メニューを確かめた。
けっこうな値段がしますよ!

まあでも、美女ふたりと一緒に食べることを考えれば安いものか。
もっとボッタクリ料金を心配していたので、なんだかホッとしました。




まるで、こちらが安心しきった頃合いを見計らったかのように、やってきましたよ、怖いお兄さんが!
はいはい。
そんなことだろうと思ってましたよ。

彼はドイツ人だそうです。
オーリャの友達の体をベタベタと触っています。
どうやら二人はできているらしい。
ヤクザとその情婦というところか。




お店の人が長いパイプを使って音楽を演奏しはじめました。
なんだかいい雰囲気。
料理もおいしいし、けっこういいお店なんだよなあ、ここ。

欲をいうならば、もう少し部屋の温度を高くしてほしい。
そしてできることならば、料金は安くしてほしい。




料理を食べ終わり、いよいよ支払いタイム。
クレジットカードを取り出して支払おうとしたら、彼女たちに制されました。
え? どういうこと?

「雨に打たれて震えている外国人に払わせるなんてことできるわけないじゃない。」

まるで当然のように彼女たちが支払ってくれました。
けっこうな料金ですよ。

ドイツ人男性とその彼女は帰っていきましたが、オーリャは雨の降りしきる中、バス停まで一緒についてきてくれました。
私のカウチサーフィンのホストに電話で連絡してくれ、何時くらいにバスが彼の村に到着するかも伝えてくれました。
バスを降りた後、私が寒い中を長時間待たなくてすむように考えてくれたのです。

私の乗るバスはなかなか来なかったので、かなり長い間待たなければなりません。
吐く息が白くなるくらいに寒い中、オーリャはずっと私と一緒にいてくれました。

バスの運転手は英語ができないため、私の目的地を彼に伝え、そこで私を降ろしてくれるように頼んでくれました。
自分の財布からお金をだして、私のためにバスの切符も買ってくれました。

え? なんで? どうして君がそんなことまでしなきゃならないんだ?

バスの扉は慌ただしく閉まり、オーリャにお礼を言うこともできないうちに走り出してしまいました。
あんなに親切にしてもらったのに、「ありがとう」のひとことも言えなかった。


バスの中で重い荷物を抱えて立っていると、若い男性が席を譲ってくれました。
ウクライナ人は親切だ。特にリヴィウには優しい人が多い。
そんなふうに感じました。


「親切な美女などいない」
今でもこの持論を撤回するつもりはありません。

でも、ウクライナは例外です。

テーマ : ヨーロッパ旅行記
ジャンル : 旅行

恋人たちの愛のトンネル(リヴネ、ウクライナ)

愛のトンネル、恋のトンネル、緑のトンネル(リヴネ、ウクライナ)


愛し合う恋人たちが手をつないで歩くと願いが叶う、と言われている恋人たちの「愛のトンネル」。
その伝説の真偽はいかに?




列車はほぼ定刻通り、夜中の2時にリヴネに到着。
深夜にもかかわらず、けっこうたくさんの人が降ります。




切符売り場と待合室




深夜だというのに、駐車場には車がけっこう停まっています。
迎えに来た人や、タクシーなどです。




もう一つの待合室。
ここにはわずか5時間ほどしか滞在しませんでしたが、生涯忘れることのできない場所となりました。




ウクライナの警官はとても親切。
バス乗り場まで二人がかりで案内してくれました。

それとも、ただ単にヒマなのか。




リヴネの駅。


もともとここリヴネになんて立ち寄るつもりはなかった。
だが、ネットでウクライナのことを調べているうちに、「恋のトンネル」なるものを見つけてしまったのだ。

youtube で「世界ふしぎ発見」のビデオを見て、そのあまりの美しさに感激してしまった。
「これはぜひとも行かなくてはならない」

そこで急きょ予定を変更して、リヴネにも寄ることにしたのだ。
なので日程はかなりタイトなものとなってしまった。

ここでの目的は「恋のトンネル」だけなので、リヴネには泊まらない。
緑のトンネルだけ見たら、あとはさっさとリヴィウへと向かう。




「恋のトンネル」はリヴネの駅からさらにバスでクレヴァン村へと行かなければならない。
ここがそのクレヴァン村。

なにもないところだ。
まさに「村」と呼ぶにふさわしい。
こんな辺鄙な場所にほんとに世界中を虜にしたあの「恋のトンネル」が存在するのだろうか。

実はこの「愛のトンネル」、数年前まではほとんど誰も知らなかった場所なんだそうだ。
それが一気にブレイク。
日本のテレビ番組でも何度か取り上げられたし、テレビのCMの撮影にも使われたとか。




それにしてものどかな場所だ。








なんだ、この恥ずかしいオブジェは?
おそらくここで恋人たちが一緒に記念撮影でもするのだろう。




コウノトリの愛の巣!!!




どうやらほんとに恋人たちに人気のあるスポットらしい。






あいにくこの日は雨。
この「恋のトンネル」はいつ来ても美しいらしいが、やはり晴れた日の方がいいに決まってる。

もっときれいな写真がネットにゴロゴロ転がっているので、そちらの方をご覧ください。
見たらきっと行きたくなりますよ。




大きな音をたてて、列車がやってきました。




トンネル内から列車が姿を現す様子はまさに幻想的。
まるで映画のワンシーンを見ているようです。

しかし、感激している場合ではありません。
トンネル内にはどこにも逃げ場はないのです。
さて、どうしよう。

そうこうしているうちにも、列車はどんどん近づいてきます。
けっこう迫力ありますよ。




この列車、一日に1本とか3本しか通らないという貴重なシロモノ。
せっかく運よく出会えたのですから、乗せてもらいました。

テレビの撮影じゃあるまいし、普通、一般人は列車の運転席に乗せてもらうことなんてできません。
では、なぜ私たちは乗ることができたのか?

1. 侍の衣装を着て、刀を振り回し、「止まれー!」と叫ぶ
2. かわいい女の子と一緒に行き、ミニスカートをひらひらさせながら運転士にウインクしてもらう

どちらか一方だけでも効果はあると思いますが、
私たちは両方やりました。


まさか試してみようなんて思う人はいないと思いますが、
実行する場合は自己責任でお願いします。






せっかく列車に乗せてもらえても、外は雨。
なんだか気分はブルーです。








どうせ行くのなら、絶対に晴れた日の方がいいです。
私たちが行った日はかなり激しく雨が降っていたのですが、
時折雨足が弱まって、日が差す瞬間がありました。
ほんの一瞬ですが、あまりの美しさに思わず息を飲んでしまいました。

リヴネやクレヴァン村にはこの「愛のトンネル」以外に見るべきものはありません。
それでも、晴れた日に訪れるために宿泊するだけの価値はあると思います。

もう少し粘れば雨も止みそうだったのですが、私は「諸事情」により引き上げざるを得ませんでした。








この「恋のトンネル」、湿地帯の中にあります。
なんの用事もない人は絶対に訪れない場所なのです。

なので今までずっと誰にも知られずにいたのですね。






あいにくの雨でしたが、いい点もあります。
他に誰もいなかったので、この「恋のトンネル」を独占することができたのです。
貸し切りですよ!


_________________________________________





車掌の女性は一応起こしに来てくれたが、あいかわらず英語はまったく通じない。
深夜の2時、列車は静かに停車する。
駅名の表示は見あたらない。
どこまでも旅行者に不便にできている。

けっこうたくさんの人がリヴネで降りた。
こんな深夜に到着して、いったいどうするつもりだろう。
みんな地元の人か。
「タクシー?」
何人かが声をかけてくる。

荷物を預ける場所を探しているのだが、英語がまったく通じない。

年配の人はだめだ。
やはり若い人を探さないと。
どうせならきれいな女の人がいい。

ちょうどそこへウクライナ美女が通りかかった。
彼女に聞いてみよう。

残念ながら、彼女は英語がほとんどできないようだ。

「ちょっと待って」
彼女がどこかに電話する。
きっと英語のわかる友人に連絡をとってくれているのだろう。

と思っていたら、警官が二人やってきた。
えっ!
この女の人、警察に通報したのか?
俺は不審者かよ。

「パスポートを見せろ」

俺はただ荷物を預けたいだけなのに、なんだか話がややこしくなってきたぞ。
もちろん警官たちも英語は話せない。
この国の教育はいったいどうなってるんだ?
よく「日本人の英語は下手だ」と言われるが、下には下がいる。

若い方の警官と、携帯電話の翻訳機能越しにコミュニケーションを試みる。
といっても、所詮はグーグル翻訳だからなかなか意思疎通をはかることができない。
ちょっとずつ表現を変え、翻訳の精度を高めていく。
だんだん私の言いたいことがわかってきたようだ。

「ああー、荷物を預けたいんだな。だったらそう言えばいいのに。よし、案内してやる。ついてこい」

だからさっきから何度もリュックを指差してるじゃないかよ。
ほんとに勘のにぶい奴らだ。

荷物預かり所はホームの端っこの、とてもわかりにくい所にあった。
なんで駅構内に置かないんだ?

警官たちは荷物預け所の係員をたたき起こし、ようやく私は荷物を預けることができた。
時刻は3:30。
ここまでくるのに一時間半もかかった。
ウクライナ、ほんと旅行者泣かせだなお前は。


荷物を預けて一段落ついても、警官と例の女性は私を放してはくれなかった。
「まあそこに座れよ」

深夜勤務で暇なのだろう。
私を肴に、彼らは何か話している。
ときおり私に話しかけてくるが、何を言ってるのかサッパリわからない。
私が何を言っても、やはりまったく通じない。


警官たちが去った後も、その女性は私から離れようとしない。
いや、逆に距離が近くなっている。
彼女はウクライナ語で一方的に話し続け、私がまったく理解していないと見るや、
「ぷぅー」
と口をとんがらせる。
なんだかかわいい。
だんだんこの女性のことが好きになってきた。

ブロンドで長身の典型的なウクライナ女性とは少し違うが、彼女はかなりの美形で日本人好みの体型をしている。
彼女もまた始発のバスを待っているようだ。
夢にまで見たウクライナ美女と朝まで一緒に過ごせるのか。
俺はなんてツイてるんだ。

彼女は私の隣に腰をおろし、さらに話しかけてくる。
お互いに何を言ってるのかまったく理解していないから不毛なはずなのに、なぜか楽しい。
ipadの写真を見せたら興味がありそうだったので、今回のヨーロッパ旅行で撮った写真を彼女に見せた。
サムライのコスチュームで撮った写真を見せたら喜ぶかと思ったのだが、反応はない。
どうやら日本の写真が見たいようだ。

だが、あいにく日本の写真は持ち合わせていない。
今回の旅行に備え、ipadやiphoneに入っていた写真はすべて別の場所に移してしまったからだ。
リヴネの駅にwifiはない。
インターネットが使えたら彼女に日本の写真を見せることができたのに、残念だ。

日本の写真がないとわかると、彼女はとたんに私への興味が失せたようだ。
ぷい、とどこかへ行ってしまった。

急に寂しくなったがしかたがない。
彼女はこの街に住んでいて、私はほんのつかの間、リヴネに立ち寄った旅行者にすぎない。
もともと接点などなかったのだ。


クレヴァン行のバスの時刻を確認しよう。
それからこの街をブラブラしてみるか。
荷物をまとめて外へ出た。
バス停はどこだ?

ウロウロしていると、例の女性が飛び出してきた。
なにかわめいているが、もちろん何を言ってるのかはわからない。

「バスの時刻(タイムテーブル)を確認しようと思うんだけど・・・」
「テーブル? テーブルなら待合室の中にあるわ。
さあ、はやく中に戻って。あなたは私と一緒にいなくちゃだめなのよ」
「いや、そのテーブルじゃなくて・・・」
私の言うことなど聞かず、彼女は私の腕をつかんで待合室の中に連れ戻す。

「さあ、ここに座って」
彼女はそう言いながら、アナトリーの奥さんがくれた弁当の包みを勝手にほどきだす。
「それは昼に食べようと思っていたんだけどな」
成り行き上しかたなく、早朝4時に朝食をとるはめになってしまった。

彼女はどこからかお皿を持ってきてくれた。
「さあ、これを使って」
さらに彼女はりんごもくれた。
彼女のくれたりんごは硬くてすっぱくて、お世辞にもおいしいとは言えなかった。
でも、この味を忘れることはないだろう。


私が食事している間、彼女は隣の席に腰を降ろし、あいかわらずしゃべり続けている。
なにひとつわかっちゃいないのに、
「うん、うん」
と相槌をうつ私。


彼女は英語よりもロシア語の方がいいらしい。
「地球の歩き方」には簡単なロシア語の単語が載っていたので、
それを頼りに彼女とのコミュニケーションを試みる。

一時間かけてやっとお互いの名前を教えあった。
「日本語ではどう書くの?」
と聞いてきたので、カタカナで彼女の名前を書いてあげたら、うれしそうに何度もノートに書いて練習していた。

彼女の名前は・・・

もう忘れた。


意思疎通なんてほとんどとれないのに、なぜか彼女といると楽しかった。
お互いになんて言ってるのかまったくわからないのに、それぞれが自分の言いたいことを勝手にしゃべり、二人で声をあげて笑った。

なにがそんなにおかしいのだろう。
わからない。
でも、彼女と一緒にいるととにかく楽しかった。
ずっとこのまま朝なんてこなければいいのに・・・


さっきまで大きな声でまくしたてていた彼女が急に声をひそめる。
肩を寄せ、唇が触れそうな距離まで顔を近づけて何かをささやく。

「 You and Me, Boy and Girl 」

そう言って彼女は抱きしめるしぐさをした。


私と彼女は数時間前に出会ったばかり。
お互いの素性はおろか、意思疎通もままならない。

でもそんなの関係ない。


東の空がうっすらと明るくなってきた。
もうすぐ始発のバスが動き出す。

もともと予定になかったリヴネを無理やりスケジュールに組み込んだため、日程に余裕はない。
私は今日中にリヴィウに着かなくてはならないのだ。

ここリヴネで過ごせる時間は限られている。
「恋のトンネル」か彼女、どちらかを選ばなくてはいけない。

隣にはウクライナ美女がぴったりと私に体を寄り添わせている。
その誘惑にはあらがえない。

だが、リヴネには「愛のトンネル」を訪れるためにやってきたのだ。
神秘的な風景をぜひともこの目で見てみたい。

クレヴァン村行きのバスがやってきた。
彼女の家へと向かうバスとは違う方向だ。

「愛のトンネル」か彼女。
俺は「愛のトンネル」の方を選んだ。

「じゃあ行くよ」

そう言っても彼女は返事をしない。
ぷい、と横を向いてしまった。


バスが出発するまでの数分間が、とてつもなく長く思えた。
もしかして俺は、とんでもない過ちを犯してしまったのだろうか?
今すぐバスを降りて、彼女のいる駅へと戻るべきじゃないのだろうか?


バスが出発する直前、後ろから誰かが俺の肩をつつく。
振り返ると彼女がいた。

彼女か「恋のトンネル」か。
両方とればいいんだ。
もしもリヴィウ行きのバスに乗り遅れたら、このリヴネに泊まればいいだけの話だ。




手をつないで歩くと願いが叶うという「愛のトンネル」。
彼女はいったい何を願ったのだろう。

彼女の名前は、もう忘れた。

でも、かたくてすっぱいリンゴのにおいはずっと消えずに残っている。
今でも。

森の中には妖精が住むという。
リヴネ。
二度とこの地を訪れることはないだろう。

テーマ : (恋愛)波瀾万丈・激動の恋愛documentary
ジャンル : 恋愛

娘さんは芸能人?!(キエフ、ウクライナ)

キエフ(ウクライナ)でカウチサーフィン(CouchSurfing)

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食卓の上に無造作に置かれた銃。
モデルガンではありません。
本物の銃です。

軍用の自動小銃を改造した狩猟用。
もちろんアナトリーは銃の所持許可をとっています。


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元軍人のアナトリーに銃の扱い方を教わりました。
今回の旅行では紛争地帯を訪れることはありません。
なので今のところ、銃を使わなければならない状況に陥る予定はないのですが、知っておいて損はないですからね。


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ひととおり写真を撮り終えたら、今度はアナトリーの番です。
彼も侍の衣装に着替えて撮影タイムとなりました。


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さすが軍隊で鍛えられただけあって、銃の構え方にも年季が入っています。
袴の横から見えている下着がなければ、もっとかっこよかったんでしょうけどねえ。


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アナトリーは仕事に出かけようとしていた奥さんを呼び止めて、これらの写真を見せます。
「どうだ!?」
「うそっ! これ、あなたなの?」

奥さんはアナトリーの侍姿にえらく感激しておりました。
私たち日本人が思っている以上に、欧米人にとってサムライというのはインパクトがあるようです。


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アナトリーの奥さんはこれから仕事に出かけるので、彼女と会うのはこれが最後です。
すごくきれいで賢いのに、どこかおちゃめなところがあって、とても魅力的な女性でした。
時々日本に来るみたいなので、今度はぜひ日本でお会いしたいものです。


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彼女は別れ際、おみやげをくれました。
それだけではなく、私のためにお弁当まで用意してくれていたのです。
ウクライナの人ってやさしいな。


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どこからどう見ても完璧な夫婦。

アナトリー、あんたのことをホモだと疑ったりして悪かった。



朝食を食べながら、今日のうちあわせをします。
キエフの主な見どころは昨日までにほぼ見てしまっているので、今日は特に観光の予定はありません。
なので彼はまたもや私のために詳しすぎるスケジュールを組んでくれました。


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仕事に行く途中、アナトリーは車でとある公園まで送ってくれました。

「ここからアンドレイ教会までの道は、とても素晴らしい景色が続くんだ。
普通の外国人旅行者はここのことを知らない。
だからゆったりとできるぞ。
キエフ最後の日をたっぷり楽しめ、マサト」

そう言ってアナトリーは去っていきました。


DSC04358.jpg

いきなりカラフルな小便小僧の歓迎をうけます。


DSC04364.jpg

そんなにジッと見つめられちゃあ、カップルも落ち着いていちゃつくこともできないことでしょう。


DSC04360.jpg

こんなベンチに座りたくない・・・


DSC04365.jpg

ウクライナ人の芸術的センスって・・・


DSC04368.jpg

なんだかトラウマになりそうな遊戯道具。
ウクライナの子供たちの将来が心配です。


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ここはキエフ市民にはけっこう人気のスポットみたいですね。


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どうやらこうやって中に入って写真を撮るのが通のたしなみのようです。


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私もやってみました。


DSC04383.jpg

でもやはり、ウクライナ人のセンスにはついていけません。


実は今日は人と会う約束があったので、彼からの電話を待っていたのですが、いまだにありません。
どうやら彼とは会えないみたいです。
ぽっかり予定が空いてしまいました。

昨日はキエフ市内を縦横無尽に歩き回ったので、今日はのんびりと過ごすことにしましょう。
郵便局で絵葉書を買って、独立広場で書きました。


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あてもなくキエフ市内を歩いていると、時々こういうのに出くわします。
一見平和そうに見えるキエフですが、戦争の影は確実に暗い影を落としています。


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プーチンの顔が印刷されたトイレットペーパー。
本人が見たら余計に戦争が泥沼化しそうな気が・・・



アナトリーの家に早めに帰り、荷造りをすることにしました。
今夜はリヴネ行きの夜行列車に乗るのです。

なんだかアナトリーはうれしそう。
どうやら今夜、娘さんが帰ってくるそうです。

「娘さんはどこに行ってたの? 旅行?」

「いや、ロシア国境地帯だ」

「え? あそこは今戦争中で、危ない場所じゃないか」

「そうだ。 私の娘はそこで戦っている兵士たちを鼓舞するために、危険を冒して行ってきたんだ」


話をよく聞いてみると、アナトリーの娘さんは歌手なのだそうです。
下の動画は、彼女たちのPV.
金髪の方の女性がアナトリーの娘さんです。





彼女たちの公式ホームページ。
「VRODA」
ウクライナ語で「Beauty」という意味らしい。
その名の通り、二人とも美しい。

http://vroda.info/


「それってひょっとして、あんたの娘さんは芸能人ってこと?」

私がそう尋ねると、アナトリーはうれしそうに娘自慢を始めました。

「今夜ここに来るのか? 会いたい! ぜひとも一目見たい!」

「なに言ってるんだマサト。
お前はもうすでに電車のチケットを買ってしまってるじゃないか。
早くしないと乗り遅れるぞ」


ただでさえ美人の多い国、ウクライナ。
その中でもさらに美しいアナトリーの娘さん。
しかも芸能人!

ちくしょう、アナトリー。
わざと秘密にしていただろう?
そんなに俺と会わせたくないのか。


ちなみに彼女の身長は185㎝。
うわっ、俺より10センチも高いじゃないかよ。
つま先立ちしてもキスするのは難しそうだな。
彼女にかがんでもらわないと。

もちろんアナトリーに見つかったら射殺されるだろうが、そのスリルがまたたまんないんだよな。


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アナトリーの運転する車でキエフ駅まで送ってもらいました。
車内でもアナトリーは上機嫌。
そりゃそうでしょう。
むさくるしい男を追い出して、そのかわりにかわいい娘さんが帰ってくるのですから。

ちくしょう、ちくしょう。
ウクライナの芸能人、会いたかったなあ。


DSC04400.jpg

列車内ではなぜか火を焚いています。
蒸気機関車かこれは?

そのせいか車内はとても暑い。
もちろんウクライナの電車にクーラーなんてあるはずありません。


DSC04401.jpg

DSC04402.jpg

寝台車の車内。
暑いし、狭い。

リヴネには夜中の2時に到着し、そこで夜を明かすことになります。
リヴネの駅がどんな場所なのかはわかりません。

なので今は横になって、ひたすら体力を温存することに努めよう。
リヴネは今回の旅のハイライトのひとつ。
「恋人たちの緑のトンネル」のある場所なのですから、気合いれていかねば。





テーマ : カウチサーフィン(Couch Surfing)
ジャンル : 旅行

カウチサーフィン(CouchSurfing)とは?

CouchSurfingKyoto

Author:CouchSurfingKyoto
.カウチサーフィン(CouchSurfing)とは。

日本に観光に来た外国人の宿として無償で自宅を提供し、国際交流を深めるというカウチサーフィン。

また、自分が海外に旅行に行く時には、現地の一般家庭に泊めてもらい、その土地に住む人々の生の暮らしを体験することだってできてしまいます。

ここは、そんなカウチサーフィンの日常をありのままにつづったブログです。

「カウチサーフィンは危険じゃないの?」
そんな危惧も理解できます。
たしかに事件やトラブルも起こっています。

なにかと日本人にはなじみにくいカウチサーフィン。

・登録の仕方がわからない
・詳しい使い方を知りたい
・評判が気になる

そんな人は、ぜひこのブログをチェックしてみてください。
きっと役に立つと思います。

最後に。

「カウチサーフィンを利用すれば、ホテル代が浮く」

私はこの考え方を否定しているわけではありません。
私もそのつもりでカウチサーフィンを始めましたから。

しかし、カウチサーフィンは単なる無料のホテルではありません。
現在、約8割のメンバーはカウチの提供をしていません。サーフのみです。

だって、泊める側にはメリットなんてなさそうですものね。

「自分の部屋で他人と一緒に寝るなんて考えられない」
「お世話したりするのってめんどくさそう」

時々私はこんな質問を受けることがあります。

「なぜホストは見知らぬ人を家に招き入れるのか?」

それはね、もちろん楽しいからですよ。

自己紹介
プロフィール


こんにちは。
京都でカウチサーフィン(CouchSurfing)のホストをしている、マサトという者です。
ときどきふらりと旅にも出ます。
もちろん、カウチサーフィンで!


(海外)
2011年、ユーレイル・グローバルパスが利用可能なヨーロッパ22カ国を全て旅しました。
それに加えて、イギリスと台湾も訪問。
もちろん、これら24カ国全ての国でカウチサーフィン(CouchSurfing)を利用。

2012年、東南アジア8カ国とオーストラリアを周遊。
ミャンマーを除く、8カ国でカウチサーフィンを利用しました。

2013年、香港、中国、マカオをカウチサーフィンを利用して旅行。 風水や太極拳、カンフーを堪能してきました。

2014年、侍の衣装を着て東ヨーロッパ20か国を旅行してきました。


(日本国内)
これまでに京都で329人(53カ国)のカウチサーファーをホストしてきました(2013年6月25日現在)。

もちろん、これからもどんどんカウチサーフィンを通じていろいろな国の人と会うつもりです。



カウチサーファーとしてのカウチサーフィン(CouchSurfing)の経験:


オーストリア、ベルギー、ブルガリア、クロアチア、チェコ共和国、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、イタリア、ルクセンブルグ、オランダ、ノルウェー、ポルトガル、ルーマニア、スロヴェニア、スペイン、スウェーデン、スイス、イギリス、台湾

シンガポール、インドネシア、オーストラリア、マレーシア、タイ、ミャンマー、ラオス、カンボジア、ベトナム

香港、中国、マカオ

スロヴァキア、ポーランド、リトアニア、ラトヴィア、エストニア、ベラルーシ、ウクライナ、モルドヴァ、沿ドニエストル共和国、ルーマニア、セルビア、マケドニア、アルバニア、コソヴォ、モンテネグロ、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、リヒテンシュタイン


ホストとしてのカウチサーフィン(CouchSurfing)の経験:


アイルランド、アメリカ、アルゼンチン、イギリス、イスラエル、イタリア、イラン、インド、インドネシア、ウクライナ、エストニア、オーストラリア、オーストリア、オランダ、カナダ、韓国、クロアチア、コロンビア、シンガポール、スイス、スウェーデン、スコットランド、スペイン、スロヴァキア、スロヴェニア、タイ、台湾、チェコ共和国、中国、チュニジア、チリ、デンマーク、ドイツ、トルコ、日本、ニューカレドニア、ニュージーランド、ノルウェー、ハンガリー、フィンランド、ブラジル、フランス、ベトナム、ベルギー、ポーランド、ポルトガル、香港、マダガスカル、マレーシア、メキシコ、モルドバ、リトアニア、ルーマニア、ロシア



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